2016年1月13日水曜日

上田耕一郎の「核抑止論」について思う―「マルクス主義と平和運動」(1965年大月書店刊行)より

「社会主義の核保有は、絶対に他国への攻撃や侵略のための、まして核脅迫のための政治の手段ではなく、ただ社会主義を防衛し、帝国主義の核戦争放火計画を阻止するための、労働者階級の立場に立った人民的政治手段である。」(同書p9。「アカハタ」1963年7月9日、10日掲載論考「核戦争防止と修正主義理論」より)。


故上田耕一郎は、不破哲三の実兄です。この世代の日本共産党員としては屈指の理論家として知られた方です。「マルクス主義と現代イデオロギー」という本は、不破哲三との共著です。

マルクス主義、科学的社会主義の立場から現代世界を「分析」すると、旧ソ連や中国、旧東欧、北朝鮮、キューバ、ベトナムは社会主義国です。

社会主義国では搾取制度が廃止され、労働者と人民本位の政治が行われていますから、核兵器は平和のための手段そのものということでしょう。

上田耕一郎は昭和2年生まれのようですから、この論文を36歳の時に執筆したことになります。

マルクス主義の術語をちりばめてソ連の核保有を擁護したこの論文から、革命運動への情熱と秀でた宣伝・扇動能力を感じます。

最も、こんなことを被爆者の前で正々堂々と言ったら相当な反感を持たれただろうことも想像に難くない。原水爆禁止運動の分裂の一要因は、ソ連の核をどう見るかでした。

上田耕一郎はソ連の核を「平和の防壁」と宣伝した―かつての日本共産党は核抑止論者だった


36歳の秀才は社会主義国の核保有について、さらにこの論文で熱弁をふるっています。次です。

「そして万が一、帝国主義が社会主義諸国に対する侵略的核攻撃をおこなった場合、社会主義は、その人民的政治の継続として、あらゆる手段によって帝国主義を壊滅させるためにたたかうだろう。

それがどんなに犠牲が多く、苦難にみちたものであっても、このきびしい決意なしに現在の平和を守りとおすことはできない」。

要は、米英仏からソ連が核攻撃を受けた場合、ソ連は必ずお返しの核攻撃をする。その決意を世界に誇示することにより、ソ連の平和と安全が保たれているというお話です。

これは現在の日本共産党が徹底批判している「核抑止論」そのものです。

やや奇妙ですが、私は上田耕一郎の「核抑止論」を「理解」できます。現在テロ国家北朝鮮が着実に核兵器開発、量産を進めています。

北朝鮮の核兵器の標的は日本と韓国です。場合によっては、北京に北朝鮮の核ミサイルが飛んでくることもあり得る。中国共産党はそれを熟知しています。

北朝鮮に日本攻撃を思いとどまらせるためには、上田論文が指摘するようにあらゆる手段によって北朝鮮を壊滅させるためにたたかうべきなのです。

それがどんなに犠牲が多く、苦難にみちたものであっても、このきびしい決意なしに現在の平和を守りとおすことはできない。

昔の日本共産党員はソ連の核攻撃で「帝国主義」の領内に住む人々が犠牲になることを想定していたのか


上田耕一郎は「帝国主義」の領内に住む人々、米国人、日本人、英国人、フランス人なら、ソ連の核攻撃により犠牲となることもやむを得ないと考えていたのでしょうか?

上田耕一郎は故人ですから、同世代の日本共産党の理論家聴濤弘に当時の青年党員の気持ちをお尋ねしたいものです。

かつての日本共産党員は、「米国とソ連を対話のテーブルにつかせる」などといった、「自分たちは中立だ」式の甘い国際政治認識を持っていませんでした。

かつての日本共産党員は徹底してソ連を擁護する「理論」を宣伝、普及していたのです。科学的社会主義の立場から見ればこれは当然でしょう。

ソ連では搾取制度が廃止されていたはずですから。戦争が帝国主義の政治的支配の継続として生じるなら、労働者の国である社会主義が侵略戦争などするはずがない。

上田耕一郎はソ連の核保有を「平和の防壁」と規定しました(同書p8)。

今日の日本共産党員には北朝鮮による核攻撃、生物・化学兵器攻撃の犠牲になる決意があるのか


今日の日本共産党員が、日本の平和と安全を真に願っているのなら、若き上田耕一郎のリアルな国際政治認識、核抑止論から学ぶべきです。

六か国協議で日本が金正恩、北朝鮮に憲法九条の価値を訴えれば、金正恩は感動して核兵器を放棄するでしょうか?

憲法九条完全実施、すなわち自衛隊を解散すれば金正恩も心を打たれて核兵器を放棄しますか?

六か国協議は9年近く開催されていません。北朝鮮が出席を拒否しているからです。北朝鮮からすれば、六か国協議に出ても何の益もない。

今日の日本共産党は、北朝鮮は社会主義と無縁だと宣伝しています。

それならば、北朝鮮が金日成、金正日、金正恩を批判する日本人がいることを口実に核攻撃や生物・化学兵器攻撃を日本に仕掛けうることを認めるべきです。

「首領冒涜罪」「朝鮮民族敵対罪」を犯している日本人がいるのですから。北朝鮮は、大真面目に北朝鮮の刑法が全世界で適用されると規定しています。

志位和夫ら今日の日本共産党員に、北朝鮮による核攻撃や生物・化学兵器攻撃の犠牲になる決意ができているとは思えません。どうでしょうか?

志位和夫は在日本朝鮮人総連合会に北朝鮮の核実験糾弾の意思を伝えるべきだ


志位和夫が、北朝鮮の核実験を糾弾するならそれを在日本朝鮮人総連合会の皆さんに直接伝えるべきです。

「金日成民族」の方々の中には、「主体革命偉業」「全社会の金日成・金正日主義化」のために核兵器や生物・化学兵器開発のための物資と資金を北朝鮮に届けてきた方がいるはずです。

「愛国的商工人」の中に、暴力団と密接なかかわりを持つ方もいることを指摘しておきます。

若き上田耕一郎は、前掲論文で帝国主義の核脅迫を絶対に恐れてはならないと力説しました。次の文章の「帝国主義」を「北朝鮮」に差し替えたら、面白い指摘です。

「帝国主義にとって核戦争準備政策の有利さがわずかでも残っているあいだは、かれらの軍備と軍事機構の背骨となり、世界支配をめざす核脅迫政策の主要な武器となっている核兵器を自発的に廃棄することはありえない」(同書p20より)。

吉良よし子ら若い共産党員が、一昔前の日本共産党の「理論」、例えば上田兄弟の著作や聴濤弘の著作を真剣に読むことを願ってやみません。

(文中敬称略)。

2016年1月1日金曜日

蓮池透著「拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な人々」(講談社刊行)より―ファナティック(fanatic, 狂信的)な言論とは何か

「いかに北朝鮮が報告しやすい環境を作るか・・・これが日本政府にとって大きな課題なのである」(同書p65)


「大きな構想力を持って日朝双方にメリットがあるような絵を描き、最終的には日朝の国交正常化を目指して北朝鮮側と真剣に交渉すること。」(同書p278、青木理氏の発言より抜粋)。



蓮池透さんは、北朝鮮に拉致された蓮池薫さんのお兄さんです。薫さんが昭和53年7月31日に突然消え去って以来、透さんは必死に弟さんの行方を捜してこられました。

当時は北朝鮮に拉致されたなどわかるはずもない。御両親は「家出人捜索番組」で「薫、このテレビを観ていたら連絡ください」と訴えられたそうです(同書p35)。

ようやくかかってきた電話は「東京の山谷で見た」「名古屋のパチンコ屋で見た」というものでした。それでも御両親は山谷の木賃宿を、薫さんの写真をもってまわりました。

透さんは名古屋のパチンコ屋を、薫さんの写真をもって「この人を知りませんか」と巡られたそうです。御家族の心痛、心労はどれほどのものだったでしょう。

蓮池薫さんは北朝鮮工作員に眉間のあたりを突然殴られた


薫さんが帰国されてからわかったことですが、薫さんはのちに奥さんとなった祐木子さんと二人で海岸に座っていました。

背後に嫌な気配を感じたところ、屈強な男が「おい、煙草の火を貸してくれないか」と日本語で話しかけてきました。

薫さんが「いいですよ」とライターを差し出したところ、突然ガツンと眉間のあたりを殴られました。

一時的に視力を失った薫さんは、体中をロープで縛られ、大きな袋に詰められたそうです(同書p37-38)。祐木子さんも袋に詰められ、二つの袋は人目につかないところに隠されていたそうです。

あたりが真っ暗になり、薫さんたちは接岸してきたゴムボートに乗せられ、沖の母船まで連れていかれ、北朝鮮に連行されました(同書p38)。

本書は、北朝鮮の国策として行われてきた日本人拉致の手法を具体的に暴いています。

テロ国家北朝鮮に通常の「話し合い」「交渉」は成立しない


これほどの残酷行為を断行する北朝鮮に対して、上述のような普通の国家との外交手法で「交渉」「話し合い」が成立するでしょうか?

普通の「交渉」「話し合い」が北朝鮮当局と成立するなら、拉致された日本人の皆さんがじっくり拉致した連中と話し合えば帰国できたはずです。ありえない。

拉致した日本人の皆さんが北朝鮮当局とじっくり話し合えば帰国できたはずだ、などという主張は私には「ファナティック」と思えます。

こんなことを言う人はいないでしょうが、北朝鮮と「交渉」「話し合い」だけを主張する方ならそういってもおかしくない。

日本の右派勢力により北朝鮮が日本人拉致について報告しにくい環境が醸成されているから、報告ができなくなっているのではありません。

そんな繊細な神経の持ち主が突然他人の眉間を殴るはずがない。

私はある元北朝鮮工作員(在日の方)から、「つがいで連れてくると精神が安定して良い、と向こうの奴は言っていた」という話を伺いました。つがいとはペアという意味です。

「日朝双方にとってメリットがあるような絵」とは具体的に何か不明ですが、北朝鮮当局に何らかの形で金品を渡すなら核ミサイルや生物・化学兵器開発資金となるだけです。

食糧支援、電力などのインフラ整備でも同様です。日本の資金と技術で発電所を作れば、政治犯収容所の周囲に張り巡らされている鉄条網の高圧電流にされてしまいます。

「北朝鮮と真剣に交渉」とやらをしているだけなら、拉致した日本人は全員死んだからそれを認めろ、日本人妻を数名一時帰国させてやるからそれで大金をよこせと言われるだけです。

「拉致問題の解決」とは、拉致した日本人全員を直ちに返すこと、拉致指令を出した金日成、金正日の残虐行為と奢侈生活を公開し、金正恩が日本人と日本国民に謝罪と償いをすることです。

このために、日本政府は対北朝鮮ラジオ放送や海外衛星放送で金日成、金正日の残虐行為と奢侈生活、特に金正日の派手な女性関係を暴露するべきです。

これをやれば金正恩は全力で日本を脅迫してくるでしょう。そのとき日本政府は、「放送をやめてほしければ横田めぐみさん、有本恵子さん、増元るみ子さんらを返せ」と放送で言えばよい。

「最高尊厳」とやらを徹底批判すれば北朝鮮当局は激高し「真剣な交渉」「対話」ができるのです。

金正日と高英姫の愛情物語を海外衛星放送でドラマ化して放映するべきだ


金正恩が拉致した日本人を返さなければ、金正日と高英姫、金正日と他の女性たちとの愛情物語をドラマにして海外衛星放送で放映するのも良いでしょう。

金正日の正妻になることを、故高英姫は切願していたに相違ない。しかし元在日朝鮮人という出自の壁は、金正日でも超えられなかった。金正日は金日成に高英姫の存在を言えなかったのです。

最愛の女性を、父に紹介すらできなかった金正日はどんな気持ちだったでしょうか。

金正日は30代から40代にかけて、側近の張成澤らと毎晩のように、「喜び組」を侍らせて豪華な酒宴を催していました。酒宴でも金正日は気を抜けなかった。

金正日は側近たちの動向を酒宴で探っていたのです。

独裁者の孤独さを、西側社会の自由な雰囲気を体得している元在日朝鮮人高英姫は推し量れたのではないでしょうか。

ドラマの主題歌を韓国の実力歌手WAXにお願いしたらどうでしょうか。

番組には、金正恩と妹金予正の役も出てくることになるでしょう。中国で脱北者を逮捕するために動いている国家安全保衛部の皆さんが視聴者となって下さるかもしれません。

ふざけるな、と蓮池透さんは言うかもしれません。

しかし北朝鮮当局のいう「最高尊厳」とやらを北朝鮮の一般国民が気軽に批判できるようになったら、拉致した日本人を監視している連中を買収するのは難しくない。

「首領冒涜罪、皆でやれば怖くない」という状況を北朝鮮国内で形成するような思想攻撃を北朝鮮にするべきなのです。首領冒涜罪の蔓延により国家安全保衛部の機能を麻痺させねばならない。

日本政府の対北朝鮮政策を「圧力と思想攻撃」に転換するべきなのです。