「もう一つの重要な点は、反動的国家機構の変革にあたって、決定的な役割を果たすのが軍事的=官僚的機構を粉砕するという革命的課題だということである」(不破前掲論文より抜粋)
日本共産党の藤野保史氏(放映時は政策委員長。現衆議院議員)は去る6月26日のNHKの「日曜討論」で「防衛費とは人を殺すための予算である」旨発言したそうです。
その後藤野氏はこの発言が党の見解と異なっていたからとの理由で政策委員長を辞任しました。私には藤野氏の発言は共産主義理論から導出される当然の結論であるとしか思えません。
不破哲三氏は昭和38年3月、「国家独占資本主義論における修正主義」という論文を「前衛」で発表しています。今から53年前ですから、不破氏は33歳くらいでした。
この論文は故上田耕一郎氏との共著「マルクス主義と現代イデオロギー 下」(1963年大月書店刊行)にも掲載されています。
日本の共産主義運動と理論に多少なりとも関心のある人なら、この本は欠かせない。最近の若い共産党員は不破氏や上田氏が若い頃執筆した本について一切知らないようですが。
以下の記述は若き不破氏のこの論文と、レーニンの「国家と革命」、宮本顕治氏の「日本革命の展望」(新日本出版社)に依拠しています。
自衛隊と警察は日米独占資本に奉仕する抑圧機関、暴力装置
共産主義の国家理論から考えれば資本主義国家は資本家による労働者への搾取を守るための階級的支配機構です。
自衛隊と警察は資本家による階級的支配を守り、資本家階級とたたかう労働者と人民を抑圧するための暴力装置です。
搾取制度こそ労働者階級と人民が貧困に陥っている根源的な要因です。
搾取がなく、私有財産を廃止する社会の建設のためには資本主義国家を打倒する民主主義革命をまずは実施せねばなりません。共産党とは本来、財産を共有する集団という意味です。
近年の日本共産党の宣伝物では、「幸せを共に産む党」などと書いてありましたが、こんな奇怪な宗教団体のような意味で共産党という言葉が使われてきたのではありません。
民主主義革命の次に社会主義を建設するためには、労働者階級が主導的な役割を担う社会主義革命を実施せねばなりません。
労働者階級を中心とする統一戦線が民主主義革命を実施するとき、資本家階級に奉仕している反動的抑圧機関、暴力装置である軍隊と警察を粉砕し全廃します。
共産主義理論では自衛隊は反動的抑圧機関、暴力装置の中心なのです。暴力装置の運営、維持費用である防衛費を共産主義者が「人を殺すための予算」と表現するのは当然です。
藤野氏は共産主義理論から自衛隊を把握し、導出された見解を表明したにすぎません。宮本顕治氏が議長だった頃の日本共産党なら、この程度の発言は当然視されていたはずです。
レーニンは常備軍・警察・官僚制など抑圧機関の粉砕を主張した
若き不破氏によれば現在の資本主義社会で国家権力を掌握し不当な利益を得ている資本家階級が、決定的な敗北をこうむる以前に、民主主義の手続きに従って国家権力を簡単に労働者階級と人民にひきわたすと考えることは空想的すぎます。
若き不破氏によれば、レーニンはブルジョア的国家機関を変革する二つの方法を指摘しています。
一つは常備軍・警察・官僚制など主として「抑圧」的な機関にたいする粉砕の方法です。
もう一つは各種の記帳、記録機関にたいする改造の方法です。
若き不破氏によれば、議会を基礎にして成立した革命政府は議会外の大衆闘争に依拠し、軍事的官僚的機関の粉砕を軸にして国家機関全体を変革し、人民の権力を樹立せねばなりません。
藤野保史氏の「防衛費=人を殺すための予算」論は、自衛隊が日米の反動的支配層、独占資本による労働者と人民の支配のための抑圧機関、暴力装置であるという共産主義理論に依拠しているのです。
共産党員にとって、自衛隊の日々の活動がどのような内容であれ、自衛隊は暴力装置なのですから人民のために粉砕すべき対象です。
藤野氏は若き不破氏の論文の主旨に沿って発言しただけなのです。藤野氏は故上田耕一郎・不破哲三氏の「マルクス主義と現代イデオロギー」を読んでいるのかもしれません。
共産主義者ならば藤野保史議員を擁護すべきだ
日本共産党員に自らが共産主義者であるという自覚があるのなら、若き不破氏の論文「国家独占資本主義における修正主義」や宮本顕治氏の著作「日本革命の展望」に依拠して藤野氏の「防衛費は人を殺すための予算」論を断固擁護するべきでした。
インターネットを見る限り、藤野氏を擁護する共産党員はいなかったようです。上部からの指令でしょうか。宮本顕治氏の「日本革命の展望」を殆どの共産党員は忘却したようです。
志位和夫氏、小池晃氏ら今日の日本共産党幹部は若き不破氏の前掲論文や宮本顕治氏の「日本革命の展望」による共産主義の国家論を忘却してしまったのでしょうか。
志位和夫氏、小池晃氏が不破氏の論文や宮本顕治氏の「日本革命の展望」を読んでいないはずがない。
これらの文献は旧ソ連や中国が素晴らしい社会主義国であるという認識を前提にしていますから、今の若い共産党員に読ませると不都合が生じます。
不破氏や宮本氏がかつてソ連を礼賛していた史実が若い共産党員に明らかになってしまいます。
これらの文献を、歴史の闇に葬り去るほうが好都合だと志位和夫氏、小池晃氏は判断しているのでしょう。左右双方で、気概がない政治家だらけになってしまいました。
共産主義者にとって、歴史は宣伝材料なのです。「革命理論」も同じで、権力を掌握するために都合が悪くなると表現を変えます。共産主義者の素顔は徹底した実利主義者なのです。