2017年10月7日土曜日

Paul M. Sweezy「現代資本主義」(畠山次郎訳、昭和49年岩波書店刊。現代はModern Capitalism and Other Essays)の第三世界論より思う

「第三世界の搾取される大衆がしだいに革命的勢力に変化し、(中国とベトナムが証明したように)技術的にもっとも発達した資本主義国家に挑戦して敗北させることもできるようになっている。」(同書はしがきより抜粋)。


この文章は、発達した資本主義国での革命が実現しなかったのはなぜか、という問いに対するSweezyの答えです。

Sweezyは発達した資本主義国の労働者は非プロレタリア化、労働貴族化したと考えました。

しかし第三世界、途上国は中国とベトナムのように、発達した資本主義国、帝国主義と対決し敗北させることができるようになっていると考えました。

Sweezyがこの文章を書いた昭和47年4月には、ベトナム戦争はまだ終わっていません。

米帝国主義と正面から対決するベトナムと、支援する中国共産党は素晴らしい、という発想です。

ベトナムに米国は凄まじい攻撃をしました。戦争を担った米国軍人たちには、深い心の傷を残しました。

Sweezyはこの時点でソ連には失望し始めていたと考えられます。そこで中国とベトナムに思いを託していたのでしょう。

しかし、Sweezyほどの学者でも、中国やベトナムの体制の実証分析をせねばならない、という発想はできなかったようです。

帝国主義とたたかう第三世界―小田実氏の世界観はSweezyの現代資本主義論と近い


帝国主義と闘う第三世界、という発想で世界を把握していた左翼知識人は日本にも少なくない。

ベトナム戦争の印象が強烈だったのでしょう。

小田実氏はその一人でした。小田氏なら、Sweezyの著作を読んでいたかもしれません。

小田氏は北朝鮮を米帝国主義とたたかう第三世界の代表と把握していました。

小田氏の著書「私と朝鮮」(筑摩書房昭和52年刊行)はその立場から朝鮮半島を把握しています。

小田氏によれば韓国の民主化運動は、米帝国主義のアジア戦略に従って南北分断を固定化し、利権をむさぼっている支配者に挑む闘争です。

Sweezyと小田実氏の世界観はかなり近いように思えます。

「団塊の世代」にはSweezy、小田実の「第三世界」論信奉者が多い


小田氏より少し年下の「団塊の世代」とは、概ね昭和21年から23年生まれくらいの方々でしょうか。

この前後の年代の方々には、左翼人士がかなり多い。

この世代には、1960年代から70年代に華やかだった学生運動、社会運動を経験している方が多いのでしょう。

当時の学生運動参加者でSweezyの文献や論文を、懸命に読んだ方はいくらでもいたでしょう。

学部卒業後、大学院で研究活動に入り教職についた方には、今でもSweezy、小田実のような見方で世界を把握している方が少なくない。

学部卒業後、企業戦士として働いていた方々は殆ど、定年を迎えています。

そういう方は、北朝鮮を「米帝国主義と闘う第三世界の旗頭」のようなイメージでとらえてしまいます。

北朝鮮の核兵器保有は、自国を守るためのやむを得ない措置と見てしまう。

第三世界が国家独占資本主義である日本や韓国に核ミサイル攻撃、生物化学兵器テロを策しているなど、想像もできないのです。

左翼人士、マルクス経済学者はなぜ中国、北朝鮮の分析をしないのか


金日成の「南朝鮮革命理論」や、金正日の「社会的政治的生命体論」、「党の唯一思想体系確立の十大原則」が北朝鮮の政治、経済、社会にどんな影響を及ぼしてきたのか。

これを考えようという左翼人士は稀有です。

青年期以来信奉している「たたかう第三世界」論が脳裏に焼き付いてしまっているようです。

Sweezyは、ソ連についての分析をかなりやっていたようです。晩年の著作では、ソ連は社会主義国ではなく、「革命後の社会」であると主張しています。

Sweezyを尊敬しているなら、中国や北朝鮮の分析をやっていただきたいものです。

中国と北朝鮮の庶民は中国共産党、労働党幹部に搾取されている―北朝鮮には「宮廷経済部門」


中国をマルクス経済学の手法で分析したら、国家独占資本主義だという結論が出るはずです。

日本のマルクス経済学の中では、宇野弘蔵氏の流れをくむ「宇野派」の方々には「現状分析」を重視するという発想があるはずです。

北朝鮮の経済統計は殆ど信頼できませんが、脱北者との面会や、朝鮮労働党の公表、非公表文献などで内部事情をある程度把握できます。

脱北者金光進氏の「宮廷経済論」など、興味深い分析もあります。

金正日一族の奢侈生活と核軍拡を支える宮廷経済部門があると金光進氏は主張しています。稼いだ外貨はこの部門に主に吸収されます。

マルクス経済学の手法で考えれば、中国と北朝鮮の庶民は過酷な搾取をされていると結論づけるべきではないでしょうか。

Sweezyならそう結論づけるように思えてなりません。小田実氏が北朝鮮庶民の苦しい生活を直視で北かどうか、疑問ですが。

人は言葉で世界を把握し、物語を心中に作ります。心中の物語は、あらすじを疑わせるような強烈な経験をしないと消えない。

左翼知識人は北朝鮮を「たたかう第三世界」と把握し続けるのでしょうね。

核ミサイル攻撃を受けても変わらないのかもしれません。