日本共産党が言っていることは、ひとことで言えば、『日本はとんでもなく悪い国だった。今もそれを反省しない悪い国だ』ということに尽きる」「戦前の日本共産党の最大目標は、中国革命成功とソ連擁護」(同書p26, 30より抜粋)。―
筆坂秀世氏がこの本に込めた思いは、このあたりに集約できそうです。筆坂氏は、兵本達吉氏のように日本共産党の歴史的役割をソ連や中国の世界戦略との関係で把握しています。
以下、この本を読んで思ったことを書き留めておきます。
日本共産党は、ソ連や中国、北朝鮮が日本を支配するための宣伝を必死でやってきた政党です。
今の日本共産党は在日本朝鮮人総連合会ほど露骨に、金日成や金正日への忠誠心を表明していませんが、かつてはソ連や中国、北朝鮮を礼賛していました。
宮本顕治氏は大真面目に、論文でマルクス・レーニン・スターリン主義という語を用い、武装闘争の必要性を力説しました。
「共産党・労働者党情報局の『論評』の積極的意義」(「前衛」1950年5月号掲載)という論文です。
筆坂氏は「前衛」掲載のこの論文をご存知ないのかもしれませんが、「50年問題資料集」に転載されています。昔の日本共産党員は、スターリンとソ連に忠誠を誓っていました。
最近、不破哲三氏が1950年代の日本共産党の歴史について「前衛」に論文を掲載していますが、宮本顕治氏のこの論文については完全に沈黙しています。
吉良よし子議員、池内さおり議員ら若い党員には、この論文を読んでほしくないのでしょう。宮本顕治氏は日本共産党八回大会の報告でも、ソ連や中国、北朝鮮を礼賛しています。
不破哲三氏は筆坂秀世氏を「落ちた」と評した
筆坂秀世氏は、日本共産党の政策委員長だった方です。
十数年前に筆坂氏は、時折テレビの討論番組に日本共産党の代表として出演していました。
セクハラ問題をきっかけにして、不破哲三氏らと意見を異にするようになった筆坂氏は日本共産党を十年ほど前に辞めました。
辞めた後、筆坂氏は日本共産党を批判する本をいくつか出版しました。不破哲三氏は筆坂氏に対し「ここまで落ちることができるのか」と批判しました(「赤旗」2006年4月19日)。
「落ちる」という語に、不破哲三氏ら日本共産党員特有の人間観がよく出ています。
自分たちは「科学の目」を持ち、「歴史の発展法則」を熟知した先進的な人間、「前衛」でまさに偉人の集合体と見ているのです。「史的唯物論」とやらから社会を把握するとそんな話になります。
偉人の集合体を批判する筆坂氏のような人間こそまさに「落ちた」「反党分子」「反動勢力に屈服した」と日本共産党員は把握します。御自分は「科学の目」を持つ「偉人」なのですから。
日本共産党、在日本朝鮮人総連合会を批判する人は人類史上希に見る悪人―「反党分子」「反動勢力」「宗派分子」「民族反逆者」
在日本朝鮮人総連合会のみなさんも、同様の人間観を持っています。
金日成、金正日は「民族の太陽」「絶世の偉人」であり、彼らに忠誠を誓っている自分たちは栄えある金日成民族の一員である、という人間観です。
この人間観から、在日本朝鮮人総連合会は金日成、金正日を批判する人、あるいは潜在的に批判しうる人物をは「宗派分子」「民族反逆者」と把握し、糾弾の対象とします。
在日本朝鮮人総連合会の中央幹部だった韓光ヒ氏は、この類のレッテルを貼られていました。
「宗派分子」「民族反逆者」「反党分子」など、共産党や在日本朝鮮人総連合会と無関係の方には何を言っているのかさっぱりわからないでしょう。要は、大悪人という意味です。
人類史上希に見る悪人、というような意味なのです。「宗派」という語は朝鮮語の翻訳で、日本語にはありません。韓国語にこんな言葉があるのか、疑問です。
故金丸信氏の路線「日本人拉致問題を棚上げして北朝鮮と国交を樹立すべきだ」と不破哲三氏の「捜査の到達点にふさわしい緻密な外交を」は同趣旨
本書の立場は、平均的な自民党の国会議員と比較しても「右」です。慰安婦への謝罪と償い論や、「南京大虐殺」に疑問を表明していますから。
私からすれば、筆坂氏は当たり前の主張をしているに過ぎない。
自民党の国会議員には、名誉欲の権化のようになってしまい、中国、北朝鮮の侵略から日本を守るという気持ちなど全くない方もいます。
自民党には故金丸信氏の路線「日朝間に風穴をあけよう」「近くて遠い国を、近くて近い国にしよう」に同調してきた方がいくらでもいました。
「李恩恵」こと田口八重子さんが北朝鮮に拉致されていることや、欧州で行方不明になった有本恵子さんらが北朝鮮に抑留されていることは、金丸氏の訪朝時にも明らかになっていました。
金丸氏ら自民党、社会党の訪朝団は田口八重子さん、有本恵子さんらの人権を無視し、「日朝間に風穴をあけよう」「近くて遠い国を、近くて近い国にしよう」、すなわち国交を樹立しようとしました。
拉致棚上げそのものです。金丸訪朝は橋本敦参議院議員の国会質問より後ですから、自民党議員の中にも北朝鮮が日本人を拉致していることを知っている方はいくらでもいたはずです。
不破哲三氏も後に緒方靖夫氏との対談で、金丸氏と同様の見解を表明しました。これについて私は、本ブログなどで何度も指摘してきました。
筆坂氏は他の本や論考で、不破哲三氏の拉致棚上げ論を批判しています。
「赤旗」に出た不破哲三氏と緒方靖夫氏の対談は、不破氏の著作「世紀の転換点に立って」にも掲載されていましたが、最近の日本共産党のHPには出ていないようです。
宮本顕治氏の昔の論文と同様に、この対談も不破氏は内緒にしておきたいのでしょうね。
筆坂氏への問題提起―なぜ聴濤弘氏、小池晃氏、垣内亮氏(日本共産党政策委員会)らは不破哲三氏に追随するのかー
筆坂氏に、真剣に検討していただきたい点がありますので、列挙しておきます。
聴濤弘氏のように長年日本共産党内で「理論家」とみなされ、「実証分析」等を担当してきた方が、不破哲三氏による数々の路線転換にも関わらずなぜ不破氏に追随するのでしょうか。
筆坂氏は、日本共産党中央の「政策委員会」の委員長でした。
現在は小池晃氏、垣内亮氏が政策委員会を担当しているようです。「政策委員会」の方々は、文章を読み込む能力を多少は持っているはずです。
「政策委員会」の方々なら、本書(p96-98)で明記されている不審船問題で中国に媚びた態度のおかしさを多少は感じていても良さそうです。
北朝鮮の「不審船」は、ロケット砲などで重武装しています。
そんな船に、海上保安庁の方が巡視船で「ここは日本の領海です。皆さんを逮捕するので、止まりなさい」と呼びかけ近づいていけば、問答無用で銃撃されてしまいます。
海上保安庁の職員が射殺されてしまいかねない。海上保安庁の職員の生命と人権より、日本政府はテロ国家北朝鮮との「対話」「交渉のルートの確立」を重視せねばならないのでしょうか?
この程度の単純な疑問を不破哲三氏や志位和夫氏に会議などで提起したらどうなるのでしょうか。
政策委員会から外されるだけでなく「党の路線に対する確信を失った」とみなされ、失職してしまいかねない。筆坂秀世氏、兵本達吉氏のような目にあってしまうかもしれない、と予測できる。
従って「政策委員会」の皆さんは不破哲三氏による数々の路線転換を熟知しつつも、沈黙しているのでしょうか?
不破氏に隷属しながら生きていく道から得られる満足度(効用)と、不破氏を批判し共産党から叩きだされる道から得られる満足度(効用)を比較し、前者が後者より大きいと計算しているのではないでしょうか。
聴濤弘氏ら、日本共産党の中で「理論家」とみなされている方々が、宮本顕治氏の昔の論文や、不破哲三氏の路線転換を無視する理由はこのあたりと私は解釈しています。
「科学の目」を持つ日本共産党職員と、「全社会の金日成・金正日主義化」を目指す金日成民族、在日本朝鮮人総連合会の働き手(イルクン)が選択した生き方
政策委員会の皆さんは史実と事実より、自分の保身を重視する生き方を選択した「理論家」なのです。ご本人たちはこの件を、あまり思考しないようにしているのかもしれませんが。
ランソンで中国人民解放軍に銃撃され、命を落とした故高野「赤旗」特派員に、中国は謝罪と償いをすべきだという「政策提案」が「政策委員会」「国際部」から出されることなど、ありえないのでしょうね。
「科学の目」を持つと、共産党の最高指導者に隷属する生き方を主体的に選択するようになってしまうということでしょうか。
在日本朝鮮人総連合会の「働き手」(イルクン)皆さんと、日本共産党の専任職員は同じような生き方を選択しています。「日本革命」「朝鮮革命」を志していらっしゃるのですから。
日本国家、大韓民国をそれぞれなくしてしまうことが、両党の目標です。
筆坂氏はどのようにお考えでしょうか?