2017年6月4日日曜日

宮本顕治「日本革命の展望」より思うー社会主義国には国内に侵略や戦争を利益とする階級や原因がないのか?

「国内に侵略や戦争を利益とする階級や原因がなく、社会主義的生産様式の資本主義的生産様式にたいする決定的優位性と、世界史の発展法則にたいする確信に根ざしているソ連と社会主義諸国のこの立場は、世界の労働者階級と人民の利益にふかく一致している」(「日本革命の展望」昭和41年日本共産党中央委員会出版部発行、p177より)。


吉良よし子議員、池内さおり議員ら若い共産党員の皆さんは、宮本顕治氏の「日本革命の展望」という著作を御存知でしょうか。

この本は、レーニンの「帝国主義論」に主に依拠して、日本と世界を描いています。

一昔前の共産党員は勿論、マルクス主義の経済学者や政治学者ならこの本を「座右の書」として一生懸命読んだはずです。

「ソ連は社会主義ではなく、社会主義の対立物である覇権主義だったから崩壊して当然だ」という現在の日本共産党の立場と180度異なる見解が何度もこの本で表明されています。

上記はその一つです。

林直道教授「経済学下 帝国主義の理論」(新日本新書)-現代の軍国主義は独占資本主義から生まれる


旧ソ連や東欧、中国、北朝鮮では基本的な生産手段が社会化されているから、国内に侵略や戦争を利益とする階級や原因はないという御話です。

マルクス主義経済学者として著名な林直道教授は、大阪市立大学で長く教鞭をとられた方です。

林直道教授著「経済学下 帝国主義の理論」(昭和45年新日本新書、p176)によれば、現代の軍国主義は独占資本主義という経済的土台からうまれ、それと不可分に結びついているそうです。

林直道教授によれば、独占資本・金融資本が他国の領土的支配にむかうのは独占利潤の獲得のためです。

独占利潤の獲得こそ独占資本主義の基本的経済法則ですから、帝国主義の対外侵略はこの基本的経済法則にもとづく必然的な現象だそうです。

こんな調子で、一昔前の日本共産党員は社会主義国には「独占資本」「金融資本」がないから、侵略戦争を行う経済的基盤がないと信じていました。

林直道教授が「経済学下 帝国主義の理論」が執筆された頃には、中国は核実験を何度も行い核軍拡を着実に進めていました。

北朝鮮は武装工作員をソウルに派遣し、朴大統領の暗殺を試みていました(青瓦台事件、昭和43年1月)。

ソ連軍の満州国での蛮行を林直道教授が知らなかったとは考えにくいのですが、マルクス主義経済学ではこうした結論しか出ようがない。

朝鮮戦争は朝鮮人民軍が韓国に侵攻したことにより始まりました。

「千里馬のいきおいで社会主義を建設する共和国」の北朝鮮が韓国を侵略するなど、マルクス主義経済学では「分析」「理論化」できないのでしょう。

朝鮮戦争で中国は北朝鮮に支援軍を送り、韓国を侵略しました。これも、マルクス主義経済学では「分析」「理論化」できそうもない。

レーニンの「帝国主義論」をいまだに信奉している「平和運動家」は中国、北朝鮮の侵略性を理解できない


日本共産党員と、マルクス主義経済学の影響下にある「平和運動家」はこの類の「理論」を信じています。

「独占資本」「金融資本」がないはずの中国や北朝鮮が軍国主義化を進め、日本やアジア諸国に侵攻しうるとは想像すらできなくなってしまう。

日本共産党が昭和36年7月の第八回党大会で決定した綱領には、社会主義陣営は民族独立を達成した諸国、中立諸国とともに世界人口の半分以上をしめる平和地域を形成しているという記述があります。

日本共産党が主導してきた「平和運動」の「理論的基礎」は、レーニンの「帝国主義論」とマルクス主義経済学でした。

レーニン自身が、「富農」との最終決戦などと称して、内戦を起こしたことをマルクス主義経済学者はどう考えていたのでしょうか。林直道教授にお尋ねしたいものです。

日本共産党「真の平和綱領のために」(昭和56年6月発表)-ソ連、中国は社会帝国主義-


宮本顕治氏の名誉のために、1980年代くらいの日本共産党の「平和理論」が多少修正されたことを指摘しておきます。

「真の平和綱領のために」という論文を、日本共産党は昭和56年6月に発表します。この時は、ソ連によるアフガニスタン侵攻、中国のベトナム侵略という蛮行がなされた後でした。

「侵略戦争反対」を掲げる日本共産党ですから、これらは是認できない。

ソ連と中国により繰り返される侵略と核軍拡を「大国主義のあやまり」という程度で片づけてしまうのもおかしい、という話が多少は出ていたのかもしれません。

上田耕一郎氏あたりがそんな問題提起をしていたのかもしれません。この論文で日本共産党は、ソ連を「社会帝国主義」と強く批判しています。

上田耕一郎氏は、「帝国主義の戦争政策と社会主義の態度」(「世界平和と民族自決権についての国際論争」新日本文庫所収)という論文で、中国を社会帝国主義と批判しています。

「ソ連、中国は社会帝国主義だ」という路線を「平和運動」でも貫けば、ソ連や中国の大使館に向けてデモを行い、集会や署名運動でソ連、中国、北朝鮮を批判するという話になります。

そこまで言うと、日本もソ連や中国、北朝鮮に侵略されるかもしれないから自衛隊の装備を充実せねばならない、日米安全保障条約で日本は当面守られているという認識が広がってしまいます。

従って、「ソ連、中国は社会帝国主義だ」という路線は日本共産党としては危険だ、という話になったのでしょう。

最近の日本共産党の帝国主義論とカウツキー


近年の日本共産党の論文には社会帝国主義論は出てきません。

国家独占資本主義、帝国主義に関する見方を再検討せねばならないという話は、日本共産党最高幹部間では出ていると考えられます。

佐々木憲昭氏(前衆議院議員で、日本共産党の経済政策を担当されてきた方)がそんな話を「経済」誌の研究会でされたようです。

今の日本共産党綱領は、帝国主義は独占資本主義から必然的に生じるものではなく、政策の一つだという話になっています。

これは、レーニンが強く批判したカウツキーの帝国主義論に近い。林直道教授の「経済学下 帝国主義の理論」でも徹底批判されています。

またの機会に、これを論じます。





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