理論派閥容認・日本共産党員間の横の交流拡大・党外出版物での批判容認を訴えると分派主義者とみなされる
日本共産党第十七大会は昭和60年11月に開催されました。もう37年ぐらい前です。
「前衛臨時増刊 第十七大会特集」に掲載されている行方克也さんの発言によれば、この大会の少し前に東京大学の院生で日本共産党員の方々が連名で日本共産党の改革を訴える文書を日本共産党東京の会議で配布しました。
行方克也さんは日本共産党東京都委員会にお勤めの方です。
行方克也さんによれば、東京大学の院生の日本共産党員の中に重大な反党活動を行っている人がいます。
行方克也さんの発言には出ていませんが、この院生は伊里一智(ペンネーム)という方でした。
伊里一智さんは東京大学で哲学を研究していたのでしょうね。その後、東京の私立大の教授になったと伺います。インターネットで検索すると、本名が出てきます。
昭和60年頃志位さんは、日本共産党の本部職員でした。伊里一智さんを強く批判する論考を書き、宮本顕治さんに認められたようです。
「投降主義者の観念論史観」(日本共産党中央委員会昭和61年刊行)に、この時の志位さんの論文が出ています。
日本共産党の規約を厳密に適用したら、支部が異なる党員間で政策や方針の議論はできない
伊里一智さんらは、民主集中制の緩和と称して、理論派閥の容認・日本共産党員の横の交流拡大・党外出版物での批判の容認を求めました。
行方克也さんによれば、伊里一智さんらの主張は情勢の見方について右翼日和見主義、降伏主義、組織論では分派の公認を求める最悪の解党主義です。
行方克也さんはこうした分派主義、解党主義に対し、今後とも原則的で非妥協的な対応をするという決意を表明しています。
この後、伊里一智さんらに対し行方克也さんが実際にどんな批判をしたのかはわかりません。
理論派閥とはどんな集団なのか不明ですが、日本共産党員数名が集まって日本共産党の綱領や規約、政策や方針を批判する文書を作成したら分派とみなされるのでしょうね。
日本共産党員間での横の交流拡大も分派主義とみなされる。異なる基礎単位に所属する日本共産党員が日本共産党の政策や方針について議論をしたら、分派の結成とみなされうる。
伊里一智さんらは日本共産党大会での代議員になろうとして周囲の仲間に支持を広げようとしたのでしょうけれど、これも分派結成の呼びかけと解釈されたのです。
詳しくは、伊里一智さんの著作「気分はコミュニスト」(日中出版昭和61年刊行)に出ています。
日本共産党の党大会に出席できる代議員なら、中央委員会を選出する事ができます。
代議員は各支部から選出されますが、実際は日本共産党の地方組織が推薦した方が代議員になります。
故萩原遼さんは日本共産党の委員長、副委員長、書記長の公選制を訴えたー党外の出版物で日本共産党を批判
松竹伸幸さんは日本共産党の党首公選制を著書等で訴えているので注目されています。
故萩原遼さんは著書「朝鮮と私 旅のノート」(文春文庫。平成12年刊行)で日本共産党の委員長、副委員長、書記局長の公選制を訴えました。23年も前です。
萩原遼さんは日本共産党大会の議案を支持する人しか代議員になれないこと、党員が公開の場で日本共産党の政策、方針について議論できないことは大問題である等の主張をしました。
伊里一智さんは宮本顕治さんの退陣を訴えました。萩原遼さんは、幹部に任期制を設けよという提案もしています。
萩原遼さんによれば、宮本顕治さんに引退を勧告できる幹部を一人も持たなかったことは、宮本さんにとっても不幸でした。
萩原遼さんの主張は伊里一智さんのそれと重なるところが少なくないように思えますが、萩原さんはこの著作を出した時点では注意された程度で、除籍や除名にはされませんでした。
萩原遼さんには、党外出版物での日本共産党批判が容認されたのです。
萩原遼さんが日本共産党の組織の在り方を批判する前に、兵本達吉さんが日本人拉致問題や宮本顕治さんらによるスパイ査問事件などの件で、「正論」などで日本共産党を強く批判していました。
不破さんは、萩原遼さんを除籍や除名などの処分にしたら、「正論」だけでなく「文藝春秋」でも徹底批判され、厄介な事になってしまうと判断したと推測されます。
日本共産党の規約にある「分派」「内部問題」という語は曖昧な概念
日本共産党の規約に出てくる「分派」「党の内部問題」「党員の資格」という語自体がどうにでも解釈できる曖昧な概念です。
厳格な定義をやりようがない。
同じような言動をとってもその時点での指導部の判断により、分派活動というほどでもない、これは党の外部に出しても良い、党員の資格を失っていないという判断がありえます。
日本共産党指導部が、日本共産党員のある言動が規約に反しているか否かを決定する際、裁判所の判決のような厳格さはありません。
一般党員なら、日本共産党から除籍や除名になってもどうということはないので、日本共産党から言論の自由を制限されているという実感はないでしょうが、日本共産党職員、議員の場合は異なります。
日本共産党職員、議員が指導部を批判すると、厄介な事になりえます。直ちに処分されるわけではありませんが、重要な部署から外されうる。
自分に不利益になるなら、発言を控えてしまう事になります。職場では本音を隠し、建前だけの発言を続ける日本共産党職員、議員が少なくないと考えられます。
松竹伸幸さんの諸提言を受け入れた方が、日本共産党には良いことになりそうですが、無理でしょうね。
松竹伸幸さんは厳しい処分をされそうに思えます。
志位さんの退陣を訴える鈴木元さんについては、批判する論文が「赤旗」に出ていません。
鈴木元さんが何の処分もされないなら、指導部は何をしているのだという日本共産党議員、職員が増えていくでしょうね。