昭和33年(1958年)頃の日本を支えていた世代
偉人も凡人も、誰しも時代の制約の下でしか生きられません。現代の日本人は、経済面ではデフレと長期不況、国際政治では中国と北朝鮮による軍事的脅迫という時代に生きています。
松本清張「ゼロの焦点」(新潮文庫)は、昭和33年頃の北国の日本を主な舞台とする推理小説です。主人公は板根禎子という26歳の新妻です。昭和33年頃の日本人にとっての時代の制約とは、何だったのでしょうか。
物語を簡単に紹介しましょう。
新婚旅行後、出張に行って帰らなくなってしまった36歳の夫憲一の行方を新妻禎子が追う中で、次から次へと殺人事件が起きる。そして禎子は、夫憲一と、夫を殺害した人物の過去を知ることになるという物語です。
禎子は昭和6,7年生まれということになりますから、今なら82歳くらいですね。夫憲一は92歳くらいの人ということになります。夫憲一は、昭和20年なら23歳くらいということになります。学徒動員の世代です。
教養のあるお嬢さんがアメリカ兵のオンリーやパンパンに
この世代の日本人にとって、何より大きな経験は大東亜戦争と、その後の米国による占領でした。憲一と同世代で、お国のために若くして生涯を終えた方は少なくありません。
女性の中には、米軍の無差別爆撃で全てを焼かれてしまい、米軍兵士相手のパンパン(売春婦)や、米軍兵士のオンリー(恋人を蔑んで指す言葉)になった人はいくらでもいました。
かなり教養もあり、相当な学校も出たお嬢さんが、アメリカ兵のオンリーになったという話が出てきます(p367)。戦後すぐでは、今まで威張っていた日本の男性がだらしなく、無気力になっていたのに対し、女性に親切なアメリカ兵は女性の憧憬だったとあります(p365)。
昭和21年当時、20歳くらいだった女性は、昭和33年には32、33歳になっています。この頃には、自分を取り戻して、幸福な結婚をし、落ち着いた生活をしている人も多いとあります(p366)。
結婚した相手には、自分の前身を打ち明けず秘密にしている人は多いだろうとありますが(p367)、実際にそうだったのではないでしょうか。
「得意だった英語が彼女にわざわいした」と殺人犯の夫は述べています(p399)。努力して得た結果や自分の力が、何かの拍子で大きな躓きのきっかけになってしまうことも、人生にはいくらでもありますね。
明治や大正の日本人ならどうしたか―中国と北朝鮮に対峙する日本―
昭和33年頃の日本社会、日本国家を支えていた日本人は、それぞれ苦しい思いを胸の中に抱えつつも、廃墟だった日本を再建したのです。
55年後、平成25年現在の我々に、厳しい状況にある日本社会と日本国家を支えて後世に残すという強い意志がどこまであるのでしょうか。
中国や北朝鮮の脅迫、軍事的挑発に明治や大正の日本人ならどう対応したでしょうか。明治や大正の日本人も、ロシアと中国にどう対峙していくかという問題に直面していました。
先人の強い意思を思い起こしたいものです。
米国兵士のオンリーや売春婦になったという暗い過去を引きずりつつも、歯を食いしばってその後精一杯生き抜いた御婦人はいくらでもいました。
数えようによっては、一万人以上いたのかもしれません。数百人ではないでしょう。現在90代くらいの方々です。
「ゼロの焦点」は推理小説ですから、米兵相手の売春婦だった貴婦人が、次から次へと殺人まで犯すようになってしまう心理の描写ははっきりしません。
禎子が徐々に真実に近づいていく過程は読者をひきつけます。松本清張の最高傑作という人もいますね。
新婚旅行程度しか付き合いがなかった夫の行方と真実をあくまでも追求する、強い意志をもった女性です。
そういう女性像が、この時代の常識だったのかもしれません。
題名の「ゼロの焦点」ですが、冬の日本海の高波の中に、小さくなって消えて行く犯人の姿を「ゼロの焦点」と表現しているのでしょうか。
映画「ゼロの焦点」と広末涼子
この小説は、数年前に広末涼子主演で映画化されましたね。映画はあらすじが原作と異なっていたように記憶していますが、広末が熱演していました。
広末の「マリー」という絶叫が印象に残りました。このシーンは、原作にはありません。
広末涼子は、歌もかなりのものですね。
明治製菓のチョコレートのコマーシャルで、広末が「チョコレート、チョコレート、チョコレートは明治」と歌うシーンがありますが、リズム感がすごい。まだまだ伸びていく女優と思います。
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