鈴木元さんは、長年共産主義運動に参加なさってきた経験と研究に基づき、日本共産党と同党支援者、社会主義を資本主義後の体制として考える方々にこの本で沢山の問題提起をしています。
私はそういう方々に該当しないのですが、鈴木元さんの問題提起には共鳴できる点が少なからずありました。
この本の第一部第二章「第二インターナショナルの創立と崩壊」の3「独占資本、『帝国主義』の成立」で鈴木元さんは興味深い指摘をしています。
第一次大戦が勃発すると欧州各国の社会民主主義政党は自国政府の戦争政策を支持し、第二インターナショナルが崩壊した事の評価を難しいとという点です(同書p55)。
戦争で自国政府が敗北すれば、外国軍により市民とその家族が殺害されるからです。
レーニン主義は欧州諸国の国民感情にはなじまなかった
レーニンが唱えた「帝国主義戦争を内乱に転化せよ」という方針は、欧州諸国の国民感情になじまないと指摘しています。
私見では、これは当然です。内乱は戦争ですから。
鈴木元さんはロシアでレーニンの方針が労働者、農民、兵士に支持され革命が実現した理由として、ロマノフ王朝が、清朝と同様の国民と無縁の封建的絶対王朝だったことを挙げています(同書p66)。
ロマノフ王朝と大日本帝国やドイツ帝国との戦争、清朝の英国や大日本帝国との戦争は日本の戦国時代の戦国大名同士の戦争と同じで、国民にとって戦争の勝ち負けは関係ないとあります(同書p66)。
そうでしょうか。
歴史にもしも、ですが日露戦争で帝政ロシアが勝利していたら、帝政ロシアが満州から朝鮮半島を支配下においたでしょう。
欧州から極東まで、膨大な領土から地下資源だけでなく、交易による利益を得ることができたでしょう。
この利益は、重化学工業化と軍事大国化の原資になったでしょう。
重化学工業化ができれば、レーニンが指摘した労働貴族が形成される。農奴に近い状態だった農民が労働貴族になれたという事です。
農奴に近い農民よりは、都会の工場で働く労働者の方が良い暮らしをしていると考えます。
優れた戦国大名は領土の外に進出し、領土が戦火に包まれることを避けた
帝政ロシアと対決した大日本帝国やドイツ帝国の労働者から見れば、帝政ロシアに負けたら支配下におかれ、奴隷のごとき身分に落とされた可能性がある。
それを避けるためには、本土でない地域で戦争を行い、自国が戦火に包まれることを避けねばならない。
これは戦国大名でも同様でした。領国の統治体制を確立できたら、領国外に進出して、支配地域を広めねば戦国大名としての地位は危うかった。
統治体制が不十分でも、可能な限り外に進出し、領地の外で戦争をすれば自国は戦火に包まれません。
上杉謙信はそんな見地から、信濃と関東諸国で戦争を実施したと考えます。
上杉謙信は秋の収穫後に関東に出兵し、関東で略奪行為を行ったので上杉軍の兵士は潤ったという研究を読んだ記憶があります。書名を忘れました。思い出したら記します。
ベルンシュタインは労働者にも祖国があると主張
戦国大名を想定しているわけではないですが、ベルンシュタインは「社会主義の諸前提と社会民主主義の任務」(佐藤昌盛訳、ダイヤモンド社)の第四章「社会民主党の任務と可能性」で同様の主張をしています(同書p214)。
ベルンシュタインによれば、人口中の圧倒的大部分が政治的意思を欠く、無知な農民で構成されている国は隣国にとって危険です。
ベルンシュタインはロシアの危険性を指摘していたのです。
この場合、戦争をできる限り速やかに敵の国土に持ち込んで、そこで戦闘を行うべきと主張しています。
自国内での戦闘とはすでに半ば敗北だからだとベルンシュタインは指摘しています。
この見地から、第二インターナショナルの指導者らは戦争に賛成したのではないでしょうか。
帝政ロシアの危険性を、欧州諸国と第二インターナショナル指導者は認識していたと考えられます。
さらにベルンシュタインは、労働者が国家、地方自治体などで権利を持つ選挙人である事を指摘しています。
労働者は国民の共有財産の共有者であり、その子弟が共同社会によって教育され、その健康が共同社会によって守られ、損害は共同社会によって保証されます。
そこで労働者は祖国と持つ、とベルンシュタインは断言しています。
ベルンシュタインの見地は、日露戦争での大日本帝国の勝利により日本の労働者、庶民の命と暮らしが守られたという結論になりますから、日本共産党員と同党支援者には受け入れがたいでしょうね。
大日本帝国で内乱を起こしたら、庶民の家屋が戦火に包まれてしまいませんか。内乱は内戦、戦争ですよ。
ソ連から資金と拳銃を受取り、内乱を策した昔の日本共産党員の逮捕、投獄は当然です。
封建的絶対王朝が得る利益は、庶民と無関係なのか
ロシア革命前のロマノフ王朝が封建的絶対王朝だったかについても、検討すべきと考えます。
第一次大戦の頃は農奴解放がなされてから、五〇数年過ぎていました。ニコライ2世が絶対的専制君主だったとは思えません。
絶対的専制君主だったとしても、一家全員を処刑して良いでしょうか。
レーニンの革命理論に依拠してボリシェヴィキが信じられないような野蛮行為を各地で繰り広げたから、内戦が激化したのです。
そもそも、封建的絶対王朝が何らかの形で利益を得たとき、その利益は庶民とは無関係なのでしょうか。
王家と貴族内でその利益を消費してしまえば、庶民に関係なさそうですが、消費する財が庶民により生産されるなら、国内での需要増加となります。
市場経済がある程度できていれば、需要増により生産、供給が増え、その一部は庶民の所得増加となると考えられます。
市場経済など存在しない奴隷制の経済社会なら、奴隷に君主の得た利益が配分されるとは考えにくい。しかし完全な奴隷制は存在ないでしょう。
奴隷にも上下関係があります。奴隷の労働意欲を向上させるためには、主人は奴隷に誘因を与えねばなりません。
絶対的封建王朝でも、庶民が完全な奴隷だったわけではない。この件、またの機会に論じます。