2013年3月20日水曜日

「プラハの春」(1968年)と日本共産党

他人の批判をどう受け止めるか―共産党は批判者を弾圧する―




何かのことで他人から批判されると、誰しもはっとするものです。その批判が適切なものであるなら、批判を真摯に受け止めて身を正さねばならないでしょう。

批判が的はずれなものであるなら、その旨告げるべきでしょう。

そうはいっても、適切な批判と的はずれな批判を、当事者である自分がどうやって識別するのかという問題がありますね。

そのときの気分感情で、本来適切な指摘、批判を謙虚に受け止められず、強烈に反発してしまって失敗してしまった。

齢を重ねた人なら、誰しもそんな経験はあるものです。他人から批判されたとき、落ち着きを失わずに謙虚な気持ちで受け止めることができるような度量を体得したいものです。

企業内でも、部下からの批判や提言を真摯に受け止められる上司は、その企業にとって貴重な存在なのでしょう。

政党や政治家にも同じことがいえるはずです。

国民からの批判に謙虚に耳を傾けることができる政治家や政党もいるでしょうが、様々な小理屈で国民からの批判を封殺してしまう政党、政治家もいます。

共産党や労働党は明らかに後者ですね。共産党や労働党はマルクス・レーニン・スターリンの「理論」、科学的社会主義を思想的基盤としています。

科学的社会主義の思想では、反対政党や反対派からの批判を封殺するために、批判者を監獄送りにすることを正当化します。


これは、共産党や労働党の歴史を調べていけばすぐ明らかになります。

古い話ですが、1968年にチェコスロバキアでの「プラハの春」をめぐって、日本共産党がどのような論陣をはったかを見ましょう。


「プラハの春」とは、昭和43年(1968年)に、チェコスロバキアのプラハで起きた言論の自由、表現の自由などを求める知識人と市民の運動を指します。

この運動は、ソ連などワルシャワ条約五ヶ国の軍隊の侵入により制圧され、市民は沈黙を余儀なくされてしまいました。

1960年から64年までプラハのソビエト学校で学んだ米原万里さんは「プラハの春」が鎮圧されたのを聞いて、何日も泣き暮らしたそうです(米原万里著「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」角川文庫、p177)。


批判を許容することは「反社会主義勢力に行動の自由を与える」



「プラハの春」という、知識人や市民の言論の自由、表現の自由を求める運動を、当時のチェコスロバキア共産党はある程度、許容しました。

これに対し当時の日本共産党はチェコスロバキア共産党の「行動綱領」を「反社会主義勢力に行動の自由を与える重大な右翼的誤り」と誹謗しました。

若い共産党員は全く知らないようですが、日本共産党が共産主義国では、共産党を批判する人びとの人権を抑圧することを当然視し、これを批判して改革しようとする人々を誹謗していたのです。


当時の日本共産党の論文「チェコスロバキアへの五カ国軍隊の侵入問題と科学的社会主義の原則の擁護」(「赤旗」昭和四三年十月一日掲載)に、次の記述があります。

「たとえば、『行動綱領』は、社会主義的民主主義の具体化として、無制限の『表現の自由』、『出版の自由』『集会や結社の自由』を宣言したが、

これは、社会主義的民主主義の名で事実上ブルジョア民主主義を導入する『純粋民主主義』(レーニン『ブルジョア民主主義とプロレタリアートの独裁についてのテーゼと報告』一九一九年、全集二十八巻、四九三㌻)であり、

反社会主義勢力に行動の自由を与える重大な右翼的誤りである」


 
この記述からも明確なように、この頃の日本共産党最高幹部宮本顕治氏らは、共産主義国では表現の自由や出版の自由、集会や結社の自由は制限されてしかるべきだと主張していたのです。

この論文は、ソ連などがチェコスロバキアに侵攻することは批判しました。

しかし日本共産党は、チェコスロバキアの共産党が自力で、自由と民主主義を求める知識人を弾圧するべきだと主張していたのです。

要は、ソ連の力を借りて批判者を弾圧するのでなく、自国の公安警察や軍隊により批判者を逮捕して監獄に入れろ、ということでしょう。

監獄で徹底的に拷問を加え、黙らせてしまえ、ということだったのかもしれません。


うるさい奴は監獄に入れてしまえ



上述のように、「赤旗」はレーニンの論文を引用して知識人弾圧を正当化していました。

「赤旗」が主張するように科学的社会主義の思想とは本来、言論の自由、思想信条の自由は制限されて当然というものなのです。

従って当時の日本共産党最高幹部宮本顕治氏らは、在日朝鮮人の中小企業経営者が北朝鮮に帰国した後、金日成崇拝を批判したら徹底抑圧されて当然だと考えていたのでしょう。

金日成はソ連の力など借りずに、自国の公安警察により少しでも体制を批判する人を政治犯収容所などに連行していました。

当時の日本共産党と朝鮮労働党は大変友好的な関係を築いていました。

「うるさい奴は監獄に入れてしまえ」という点で、日本共産党と朝鮮労働党は共鳴するものがあったのでしょうね。

そのように「赤旗」に書けば良いのです。日本には「表現の自由」がありますから。

レーニンかくのごとく曰く...などともったいぶる必要はありません。

2013年3月17日日曜日

北朝鮮の「党の唯一思想体系確立の十大原則」についてのメモ(平成13年執筆より)

全党と全社会を偉大な金日成同志の革命思想で一色化する北朝鮮




以下は、平成13年にホームページに掲載していた文章からの抜粋です。北朝鮮が断行してきた蛮行の歴史を考えれば、北朝鮮はテロを国策として行うテロ国家です。

日本人や韓国人の拉致、民間航空機の爆破などのテロを断行するのは朝鮮労働党作戦部などに所属する工作員です。

北朝鮮工作員は金日成、金正日の指令があればどんな残虐行為でも断行するという、革命思想に染まっています。

朝鮮労働党の革命思想を表現する典型的な文書が、下記の「党の唯一思想体系確立の十大原則」です。

在日本朝鮮人総連合会の皆さんなら、この文書をよくご存知です。朝鮮学校の課外活動のような場で暗記させられた方がいるはずです。

以下で私は、「北朝鮮ではこの文書がほぼ全国民に徹底されている」旨述べていますが、この認識が間違いであることがその後わかりました。

北朝鮮の政治犯収容所(管理所といいます)は、そこで囚人労働を何年か行い、「革命化された」と国家安全保衛部に認定されれば一般社会に出られる「革命化区域」と、囚人労働を生涯行うだけで外に出られる可能性のない「完全統制区域」に区分されています。

「完全統制区域」に連行された政治犯は、一般社会に出られないのですから「革命化」されせん。

「完全統制区域」で生まれた政治犯の子供たちは生涯囚人労働をするだけですから、「革命化」する必要はありません。

従って「完全統制区域」で生まれた政治犯の子供は、下記の「党の唯一思想体系確立の十大原則」を知りません。

これは「完全統制区域」から脱出し、中国から韓国に逃げてきた申ドンヒョク氏からもたらされた情報です。申氏は「十大原則」を知りませんでした。

北朝鮮の「政治犯」の数は、およそ二十万人と言われていますが、詳細はよくわかっていません。これらの情報は、北朝鮮から逃げてきた脱北者たちによりもたらされたものです。

近年では、政治犯収容所の統廃合が進み、「革命化区域」はなくなり、「完全統制区域」だけになったそうです。

こんな話をしても、北朝鮮と無関係に暮らしをしている日本人には何のことだか、丸っきりわからないですね。普通の韓国人にも、理解不能でしょう。

しかし、北朝鮮に拉致された日本人が万一、政治犯収容所に連行されているようなことがあれば、普通の日本人も無関係ではないはずです。

北朝鮮に在日朝鮮人の夫と渡っていった日本人妻とその家族の中には、政治犯収容所に連行されてしまった人も少なくないことを、もっと多くの方に知っていただきたいものです。

現在でも金正恩の指令があれば、北朝鮮工作員はとんでもないテロを断行しうるということを、重ねて訴えます。


 「党の唯一思想体系確立の十大原則」と金正日によるテロ指令




「党の唯一思想体系確立の十大原則」とは、1974年2月の朝鮮労働党第八回中央委員会で採択されたと言われている。

この文書は朝鮮労働党の本質を如実に示すもので、私の理解では、北朝鮮ではこの文書は何らかの形でほぼ全国民に徹底されている。

私がいままで会った北朝鮮からの亡命者の中で、「十大原則」を知らなかった人はいない。

強制収容所の中にある「学校」でこれを「学習」した人すらいた。


日本共産党が出版していた雑誌「世界政治ー論評と資料」(1988年4月上旬号 762 p28~33)に「党の唯一思想体系確立の十大原則」の全訳が掲載されているので以下、抜粋して紹介しよう。


「われわれは偉大な首領金日成同志が指導される栄光の時代、金日成時代に生き、たたかっている。人類が生んだ革命の英才であられる偉大な金日成同志を首領に戴いていることは、わが党と人民の最高の栄誉であり、最大の幸福である」


「敬愛する首領金日成同志は、人類解放の救いの星であり、世界革命と国際共産主義運動の偉大な指導者である。


首領は偉大なチュチェの旗印のもとに、わが人民を歴史上はじめて自主の道へと導くことによって、抑圧されていた世界のすべての国、すべての民族を隷属と不平等に反対し、独立と自主、平等のために勇敢に奮いたたせ、

帝国主義に反対し社会主義、共産主義をめざす人民の闘争の行く手を明るく照らし、世界革命と国際共産主義運動を勝利へと導いている」


「すべての党員と勤労者は、敬愛する首領を永遠に高くおし戴き、首領にあくまで忠誠を尽くし、

全党と全社会を偉大な金日成同志の革命思想で一色化する歴史的偉業を輝かしく遂行するため、次のような党の唯一思想体系確立の十大原則を徹底して守らなければならない」


一 偉大な首領金日成同志の革命思想で、全社会を一色化するために命を捧げて闘争しなければならない


二 偉大な首領金日成同志を忠誠をもって高く仰ぎ奉らなければならない


三 偉大な首領金日成同志の権威を絶対化しなければならない


四 偉大な首領金日成同志の革命思想を信念とし、首領の教示を信条化しなければならない


五 偉大な首領金日成同志の教示の執行において、無条件性の原則を徹底して守らなければならない


六 偉大な首領金日成同志を中心とする全党の思想意思的統一と革命的団結を強化しなければならない


七 偉大な首領金日成同志に学び、共産主義的風貌と革命的活動方法、人民的活動作風を所有しなければならない


八 偉大な首領金日成同志から授かった政治的生命を大切に守り、首領の大きな政治的信任と配慮に高い政治的自覚と技術により、忠誠をもって報いなければならない


九 偉大な首領金日成同志の唯一的指導のもとに、全党、全国、全軍が一体となって動く強い組織規律を確立しなければならない


十 偉大な首領金日成同志が開拓された革命偉業を、代を継いで最後まで継承し完成していかねばならない


上述の十の後にそれぞれ一、二、三というように金日成への崇拝に関する規定を行なっている。幾つか例をあげておこう。一の後の五は以下のように述べている。


全世界における、チュチェ思想の勝利のために最後までたたかわなければならない


二の後の二は以下のように述べている。


 二 たとえ一瞬間でも、ひたすら首領のために生き、首領のためには青春も生命も喜んで捧げ、どんな逆境の中でも、首領にたいする忠誠の一念を変わることなく肝に銘じなければならない


八の後は以下のように述べている。


 偉大な首領金日成同志から授かった政治的生命を身につけることは、われわれの最高の栄誉であり、首領の政治的信任に忠誠をもって報いること、ここに政治的生命を輝かしめる真の道がある。


一 政治的生命を第一の生命と考え、生命の最後の瞬間まで自分の政治的信念と革命的節操をまげることなく、政治的生命のためには、肉体的生命を塵芥のごとく捧げることを知らなければならない


これらの「原則」に基づき、大韓航空機爆破事件の犯人である金賢姫は、逮捕されたときには自決するように朝鮮労働党幹部から指令を受けていた。


実際に彼女と主犯格の男性は逮捕されそうになった際に毒薬を飲んだ。主犯格の男性は死亡したが彼女は生きのび、事件の全貌を告白した。


「政治的生命を第一の生命と考え、生命の最後の瞬間まで自分の政治的信念と革命的節操をまげることなく、政治的生命のためには、肉体的生命を塵芥のごとく捧げることを知ら
なければならない」という「原則」を彼女らは「実践」したのだ。



人間の命を塵芥のごとく扱う朝鮮労働党の恐ろしさが、この事件に象徴的に現れている。


 彼女らは朝鮮労働党から偽造日本旅券を受け取って保持していた。


従って金賢姫が自決に「成功」していれば、大韓航空機爆破事件は招待不明の日本人テロリストの犯行によるものと世界中に「認識」されていた可能性があるのだ。


朝鮮労働党は日本人を拉致して工作員の「日本語教育係」「日本人化教育係」を強制しているが、これは工作員が日本人になりすますためである。


そして工作員が行なうテロが発覚した場合は工作員に自決させ、テロを日本人のせいにするという狙いがあるのだ。


「十大原則」の十の後の一は以下のように述べている。


一 全党と全社会に唯一思想体系を徹底して確立し、首領が開拓された革命偉業を代を継いで輝かしく完遂するために、首領の指導のもとに党中央の唯一的指導体制を確立しなければならない。


「党中央」とは金正日を意味している。


このように、七十年代初頭から金正日は金日成の後継者として、独裁政治の実権を掌握していた。


金賢姫によれば、金正日は「御親筆」により大韓航空機爆破を指令している。


北朝鮮は徹底した金父子独裁国家だから、日本人や韓国人の拉致、ラングーン事件、大韓航空機爆破事件など数々のテロは全て、何らかの形で金正日が「指令」「指導」しているのだ。

 

 

 

真の共産主義者とは何か〜不破哲三氏による路線転換によせて(平成14年5月執筆より)

左翼の狙い―北朝鮮に大金を渡すこと―



以下、旧HPに平成14年5月に掲載したものを抜粋して再掲します。この文章を書いたおよそ四ヶ月後に、金正日が小泉首相(当時)との会談で日本人拉致を認めました。

この文章を書いた頃、左翼勢力は「日本人拉致など、証拠がないから曖昧なものでしかない。日本が北朝鮮に対してまずやるべきことは国交の樹立と真の謝罪だ」と必死で宣伝していました。

左翼勢力の真の狙いは、「真の謝罪」と称して日本政府が北朝鮮に大金を支払い、北朝鮮の核軍拡を支援し、大韓民国を核で脅迫して滅亡させることです。これは昔も今も一切変化していません。

左翼は北朝鮮に軍拡資金をわたすために国交樹立を主張するのであり、北朝鮮が日本に拉致を謝罪して大金を払え、とは口が裂けても言いません。

左翼の中には、指導部の真の狙いを理解せずに駅前でのビラ配布などの宣伝をしているだけの人もいます。

日本共産党の職員は、薄給で指導部に都合良く酷使されているだけです。

日本共産党で働く労働者、共産党職員には、労働法で保証されている団結権や交渉権は一切認められていません。ですから共産党の職員が、雇用者たる指導部に労働条件の改善を要求することは極めて困難です。

何も知らずに駅前でビラを配布している共産党職員も客観的には、朝鮮労働党の南朝鮮革命(大韓民国の滅亡)、あるいは中国に日本を隷属させることに協力しているのです。

中国の最高指導部は本気で、日本を隷属させようとしています。「沖縄は本来、中国の領土だ」と大真面目に考えています。中国にとっては、朝鮮半島も本来は中国の領土であり、中国に隷属して当然の地域です。

漢の武帝は紀元前108年、衛氏朝鮮を滅ぼして、現在の平壌付近に楽浪郡を設置しました。中国人の価値観ではこれだけで、朝鮮半島の領有、隷属を主張しうるものなのです。

左翼は日本が共産主義国である中国に隷属することを「社会進歩」「歴史の法則的発展」とみなします。

「社会進歩」のためには、米軍と自衛隊が最大の邪魔者ですから「米軍基地をなくせ」「自衛隊反対」「日米合同演習を中止せよ」などと左翼は宣伝するのです。

左翼とは何か、という問題について、もっと多くの方々が真剣に考えて下さることを願っています。

 

真の共産主義者とは何か~不破哲三氏による路線転換によせて

国際政治の冷徹な現実から見た日本共産党



不破哲三氏が、様々な点で日本共産党の「路線転換」を進めている。この「路線転換」は、様々な揺れはあるが、基本的には共産主義国である中国と北朝鮮を支援するための策動だ。


中国と北朝鮮に対し、「戦争犯罪について謝罪と償い」「植民地支配の清算」などと称して巨額の資金を渡せば、さらな大軍拡に使われるだけだ。


中国と北朝鮮がアジアにおいて圧倒的な軍事的優位を確保し、中国については台湾併合、北朝鮮については「朝鮮革命」すなわち大韓民国を滅ぼすことを側面から支えることが、現代の共産主義者の歴史的使命で あると不破氏は認識しているのだろう。


そもそも日本共産党は、ソ連を「労働者の祖国」と宣伝し、日本に「革命的情勢」をつくってソ連軍を「プロレタリア国際主義」などと称して迎え入れ、日本に共産主義政権、別言すれば強制労働収容所と共産党幹部による特権享受制度を確立するために「戦前から不屈のたたかい」を行ってきた政党である。


ソ連邦が崩壊した今日、日本共産党にとって迎え入れるべきはソ連軍ではなく中国人民軍や朝鮮人民軍なのだ。


「日本共産党は戦前から国民主権の世の中をつくるためにたたかってきた」などという宣伝は、全くの捏造でしかない。


日本共産党はレーニン、スターリンとソ連共産党を盲信してきたのだから、スターリン型の体制、すなわち典型的な共産主義体制を建設するために「不屈のたたかい」を行ってきただけだ。


旧ソ連では一般国民には参政権などまったくなかったのに、そんな体制をめざしてきた集団が「国民主権のためにたたかった」とは捏造の極みだ。


日本共産党は日米安保廃棄、自衛隊解散すなわち日本国家が一切の軍事力を保持しないようになれば「日本の平和と民主主義が守られる」と大宣伝しているが、そうなれば凶暴なことこのうえない朝鮮人民軍が直ちに来襲し、銀行やスーパーマーケットを手当たり次第に襲うだろう。


中国人民軍は直ちに尖閣諸島を占領し中国人民軍の基地を建設するだろう。


朝鮮労働党は「朝鮮革命」「主体革命偉業」などと称して、大韓民国を滅ぼし朝鮮半島全体に人々が金父子を礼賛せざるをえない体制を広 げようとしている。


日本共産党は共産主義者の団体であるから、共産主義国が広がっていくことを「社会の合法則的発展」「歴史の本流を促進する」とみなす。


従って日本共産党と中国共産党、朝鮮労働党の間では、ある程度の対立点はあるが、利害関係が基本的に一致しているのだ。



不破哲三氏の「反省」と路線転換




日本共産党はかつて、北朝鮮による日本人拉致を国会で取り上げた。また北朝鮮による漁船銃撃と漁民の殺害を厳しく批判した。これらは共産主義者の本来の立場から考えれば逸脱でしかなかった。

「赤旗」記者がベトナムで取材中に中国人民軍により銃撃され殺害された史実があるが、これについて改めて中国共産党に謝罪と補償を要求するようなことは、共産主義者の「プロレタリア国際主義に反する」ということで、不破氏は控えているのだろう。

「赤旗」記者の生命より、「日中友好」「プロレタリア国際主義」が優先すると今日の日本共産党員はみなしているのだろう。

中国共産党による89年の天安門事件の際、日本共産党は中国共産党による弾圧を批判したが、これも共産主義者の本来の立場から逸脱したものであったことを、今日の不破氏は心から反省しているのであろう。

このように言うと、下部党員は、「わが党は科学的社会主義の党として、北朝鮮によるテロや中国による弾圧を厳しく批判している。わが党を誹謗するな」などと怒り出すであろう。

日ごろ「赤旗」の販売活動を必死で行っている下部党員は、「赤旗」の最近の記事を過去の記事と対照、比較する余裕も気力もないから、どのように「路線転換」が行われつつあるか全く理解できない。

「さざ波通信」に投稿し、不破氏らを「右傾化だ」と批判している下部党員はそれなりに不破氏による路線転換を理解しているようだが、殆どの下部党員は全く気づいていないようだ。

以下、不破氏が共産主義者の大道に向かって、どのように「路線転換」を進めているかを示そう。

 

北朝鮮による日本人拉致を擁護する不破哲三氏

 


北朝鮮による拉致問題を国会でもっとも早く取り上げたのは日本共産党の橋本敦参議院議員(当時)である。昭和63年3月26日、橋本議員は国会で北朝鮮による拉致問題を取り上げた。


橋本議員はまた、平成9年6月5日にも拉致問題を国で取り上げて、省庁の横の連携を深め、政府の対応として必要な情報連絡会議あるいは関係閣僚会議、必要な対策室を設けることを提起した。


さらに平成9年11月13日の質問では、久米裕さんの拉致事件で連行しようとした在日朝鮮人が逮捕され、拉致について明白な自白をしたこと、大阪の原敕晁さんの事件では韓国の裁判所が判決文に拉致の詳細を記録して事実と認定していることをあげ、でっち上げ事件などということは、日本の主権を守る上からいって許されない言い方だと橋本氏は断定した。


また日本共産党の木島日出夫衆議院議員は平成10年3月11日に国会で拉致問題をとり上げ、この問題で外務省の対応が不十分であること、日本政府はもっと毅然たる態度で臨むべきだと主張している。
 

ところが最近の不破哲三氏は、橋本氏や木島氏の質問を根源的に否定している。


下部党員の中には不破氏によるこうした「路線転換」を知らない人がいるようだが、不破氏は緒方 靖夫氏との対談で次のように述べている。
 

「拉致問題の宣伝だけ聞いていると、100%証明ずみの明白な事実があるのに、相手側はそれを認めようとしない、日本政府も弱腰で主張しきれない、そこが問題だ、といった議論になりやすいのですが、実態はそうじゃないんですね」


不破哲三「世紀の転換点に立って」新日本出版社刊p148~149より)。


さらに不破氏は「国際的に通用できる道理ある交渉をするべきだ」などと称して、あたかも日本政府が北朝鮮側に「拉致した日本人を返せ。被拉致日本人の原状回復が実現しない限り、国交を樹立することはできない」と主張することが「国際的に道理がない」ことであるかのように主張している。


緒方靖夫氏に至っては、「不破さんの勇気ある提起によって、拉致問題を冷静な議論にひきもどした、という歓迎の声はかなり広く聞かれます」(p150)と不破氏の暴言を全面的に礼賛している。


不破氏と緒方氏は何の罪もない日本人が外国に拉致され、その後二十数年間奴隷のごとき屈辱の日々を余儀なくされていても、拉致した張本人に対して暖かい眼差しと友好の姿勢を貫くことが「勇気ある提起」「冷静な議論」「国際的に通用できる」と宣伝しているのだ。

これこそまさに北朝鮮による日本人拉致の擁護論であり、共産主義者の本領発揮といえよう。


不破氏の発言を読むと、「拉致問題の宣伝」とやらを事実を無視して行っている、よからぬ集団があるように聞こえるが、「100%証明ずみの明白な事実があるのに、相手側はそれを認めようとしない、日本政府も弱腰で主張しきれない、そこが問題だ」という旨、国会で質問をしていたのは、橋本敦氏と木島日出夫氏だったのだ。


従って不破氏のこの発言は、橋本氏と木島氏に対し、「日本人拉致をこれ以上国会で取り上げると規約に基づいて処分するぞ」という恫喝なのである。


共産主義者は、共産主義国による蛮行をあらゆる詭弁により正当化する。


橋本敦氏や木島日出夫氏は、共産主義者の大道を理解しない、未熟な革命家だったのだ。


「日本革命」のために必要ならば、共産主義国による日本人拉致を全面的に擁護するのが共産主義者なのだ。


勿論、今日では橋本氏、木島氏らは自分達がいかに未熟な革命家であったかを認識しているから、不破氏に追随し北朝鮮による日本人拉致について沈黙している。

 

不破哲三氏は朝鮮労働党を「きちんとした話し合いができる相手」と宣伝した




下部党員の中には、10年ほど前の「赤旗」記事などに依拠し、「北朝鮮は社会主義と無縁の独裁政権だ。北朝鮮は野蛮な覇権主義であり、我が党は彼らと生死をかけて闘っているなどと思いこんでいる人がいるようだ。


確かに、10年ほど前の「赤旗」は「知りたい 聞きたい」(平成4年2月29日)で、北朝鮮では主体思想が国民に強制されていること、主体思想とは金日成を神格化し息子金正日への権力世襲を正当化しようとするものだと明確に指摘していた。


そして金正日による「社会主義社会では国家が独裁をやるべきだ」という主張を「首領様には青春も命も喜んで捧げねばならないという、封建的一党支配を合理化するための方便にすぎない」と厳しく批判していた。
 

しかし、今日の不破哲三氏の北朝鮮評価はこれとは完全に異なっている。


不破氏は「CS放送朝日ニュースター 不破委員長大いに語る 朝鮮半島の最近の動きなどについて」(「赤旗」平成12年8月24日掲載)で「6月の南北首脳会談以来、南北朝鮮が平和共存する方向にレールを敷くことが共通の確認になっている」


「金正日氏の代になってからは、テロ事件はない」などと述べ、北朝鮮がテロ国家でなくなったことを下部党員に徹底しようと必死になっている。


そして平成11年の「村山国会訪朝団に参加した際の経験から」と称し、金正日をはじめとする北朝鮮の指導部が「外交の状況を見ても、きちんとした話し合いのできる相手だと感じている」と宣伝している。


不破哲三氏にとって朝鮮労働党は「社会主義社会では国家が独裁をやるべきだ」「首領様には青春も命も喜んで捧げねばならない」と主張しそれを国民に強制している集団であるが、それでも「平和共存のレールを敷く」「きちんとした話し合いのできる」相手だということだ。


また不破氏は金日成から金正日への世襲を「金正日氏の代になった」などと当然のごとく表現し、礼賛している。10年前の「赤旗」とは大違いだが、こうした態度豹変を一夜にして断行するのが共産党の最高指導者なのだ。


不破氏は共産党による一党独裁や共産党の独裁者による世襲を「社会進歩」「歴史の発展」と把握する共産主義者であるから、朝鮮労働党と「きちんとした話し合い」が出来るのだ。


金正日は60年代後半から70年代初頭の「党の唯一思想体系の確立」の頃、北朝鮮で金日成に次ぐ権力者としての地位を確立し、日本人拉致やラングーン事件、大韓航空機爆破事件などを何らかの形で「指令」している。


勿論不破氏はこれを熟知しているが、共産主義者として、外国の共産主義者の「革命運動」を支援するために、「金正日氏の代になってからは、テロ事件はない」などと必死で擁護しているのである。


何も知らない下部党員が宣伝する「野蛮な覇権主義である朝鮮労働党との生死をかけた闘い」など、不破氏はとっくの昔に放棄してしまったのだ。


 

北朝鮮難民の支援者を恫喝する「赤旗」

 


元「赤旗」平壌特派員で現在も日本共産党員である萩原遼氏によれば、日本共産党では「上の意向は目くばせ一つで下に伝わる」(萩原遼「朝鮮と私 旅のノート」文春文庫p216)。


日本人拉致問題に関する不破氏の前述の見解は、この「目くばせ」に該当すると言えよう。

すなわち、不破氏は日本人拉致や北朝鮮による人権抑圧を取り上げると、規約に基づいて処分することを前述の「赤旗」記事や緒方靖夫氏との対談で示唆しているのだ。


共産党の職員は最高指導部によるこうした「目配せ」の真意を素早く把握する。「赤旗」編集局など不破氏や志位氏と日常的に接することができる立場にある。


人々は直ちに「目くばせ」を理解し、その立場で報道をする。


その一例がこの度の北朝鮮難民による日本領事館逃げ込み未遂事件に関する「赤旗」記事である。


「赤旗」はこの事件についての記事で、北朝鮮難民を支援した韓国や日本の団体・個人の存在について言及し、「こうした活動にかかわる人の中には、北朝鮮の体制崩壊を期待すると公言する人がいる」「韓国への亡命を望む北朝鮮人を政治的に利用するべきではない」と断言した「赤旗」5月10日付け記事「ウィーン条約の順守を」面川誠記者)。


これは、「赤旗」が下部党員に対し北朝鮮難民の支援活動に関わらないように「目くばせ」をしているものと理解できよう。


共産主義国である北朝鮮による人権抑圧を暴露し、北朝鮮の凶暴性を世の中に広めていくことは、共産主義者としてあるまじき行為ということだ。


そうした最高指導部の真意を「赤旗」編集局は察知し、このような記事を掲載したのである。


真の共産主義者とはこのように、最高指導者の心中を必死に洞察し、真意を把握してそれを宣伝、普及するべく尽力するものなのだ。


不破氏の「目くばせ」を理解できない下部の共産党員が橋本氏や木島氏が国会で表明した見解を取り上げて「日本共産党は北朝鮮による日本人拉致が我が国の主権の侵害であり、許してはならない人権抑圧と考えている」などと宣伝しているかもしれない。


あるいは共産党員の中には、北朝鮮への帰国事業が盛んに行われていた頃、北朝鮮を全面的に礼賛したことを心から反省し、中国東北部に逃げてきた北朝鮮難民の支援活動に参加している人がいるかもしれない。


こうした方々は人間として誠実な人たちなのだろうが、真の共産主義者の境地には達していない、未熟な革命家なのだ。

 

日本共産党員は日本共産党の罪深き歴史に学ぶべきだ

 


このように主張すると、日本共産党の罪深き歴史を何も知らない下部党員は、「わが党は大韓航空機爆破事件、ラングーン事件で北朝鮮のテロを厳しく批判している。わが党を誹謗するな」などと激怒する。


下部党員は本気で不破氏ら最高指導部を「歴史の本流を促進する偉人」と把握しているから、不破氏や志位氏を批判する人を「歴史を逆行させる反動勢力」「社会発展と進歩を妨げる反動勢力」と思い込み、批判者をあらゆる方法で排除する。


特に批判者が日本共産党から除名、除籍された人である場合、度を越した人格攻撃を行う。


朝鮮総聯関係者の場合も同様で、朝鮮総聯に属していた人が北朝鮮の蛮行を批判すると「民族反逆者」「宗派分子」「南朝鮮情報部のスパイ」などと人格攻撃を始める。


共産主義者の団体はどこの国でも同じような行動をするものなのだが、これは彼らが共産主義理論、特に階級闘争理論を信奉していることから来る帰結でもあるのだ

 

共産党の職員はなぜ最高指導者による路線転換に追随するのか

 



下部党員や共産党の職員の中には、最高指導者が突然断行する態度豹変に憤る人もいるようだが、よほどのことがない限り沈黙する。

そもそも多くの下部党員は「赤旗」記事など読んでいないし、不破氏ら指導部の「理論」「政策」「方針」について一切思考、議論せずに宣伝するだけという習慣が定着しているから、不破氏が突然「路線転換」を断行しても気づかない。


「十年一昔」というが、十年前と180度異なる「理論」「政策」「方針」を「科学的社会主義の実践により裏付けられた真理」などと必死で宣伝しているのが、日本共産党の下部党員なのである。


それでは、毎日「赤旗」の販売活動に従事しつつ必死で「赤旗」を読んでいる共産党職員や、地方議員、国会議員は不破氏ら最高指導部による突然の「路線転換」に気づかないのだろうか。


勿論、全く気づかないでただ「赤旗」を販売しているだけの人もいるだろうが、多少なりとも筋道をたてて思考することが出来る人なら、不破氏ら最高指導部による数々の「路線転換」を認識できるであろう。


橋本敦氏や木島日出夫氏が、不破氏による日本人拉致問題での「路線転換」を認識できないわけがない。共産党職員や議員はなぜ不破氏らを一切批判せず、盲目的に追随するのだろうか。

同様のことが、朝鮮総聯の職員についても言える。


朝鮮総聯の職員は、北朝鮮を何度でも訪問できるから、いくら北朝鮮当局が実態を隠蔽すべく努力しても、様々な形で北朝鮮経済の惨状を認識できる。


最近の「労働新聞」は、北朝鮮が90年代後半に「苦難の行軍」という厳しい経済困難に直面していたことを認めているから、「地上の楽園」ではありえないことが朝鮮総聯の職員といえども、わかるはずなのだ。


この問題は単純な「マインドコントロール」だけではない。最高指導者を礼賛することが仕事だからという程度のことではない。共産党職員による最高指導者礼賛の背景には、以下のような、最高指導部による職員に対する徹底的な抑圧と搾取の仕組みがあるのだ。

 

共産党の職員が最高指導者を批判すると「査問」される

 


仮に共産党の職員が公の場で、不破氏ら最高幹部を批判したと仮定しよう。


日本共産党は一昨年の大会で規約を改正し、第三章第十七条で党員が国際的・全国的な性質の問題について、意見を自由に発表することを完全に禁止したから、このような行為は完全な「規約違反」であり、その職員は直ちに「査問」される。


共産党の職員に対する「査問」とは真に過酷なもので、ある日突然代々木の本部などに呼び出され、家族や友人との一切の連絡を絶たれて、密室で何日間も質問攻め、専ら「自白しろ」と強制される。


密室での監禁の結果、「疑わしきは罰する」という原則により処分される。「査問」については、民主青年同盟の幹部として「査問」を体験した油井喜夫氏の手記「汚名」(毎日新聞社刊)が詳しい。


共産党の 職員や議員は過酷な「査問」の実態、様々な名目で降格された仲間の悲惨さを熟知しているから、よほどのことがない限り最高指導者を批判しない。


共産党の職員や議員の場合、共産党という政党から「除名」「除籍」などの形で叩き出されると、新たな職業に就く事は極めて困難である。


共産党員は共産党の影響力が強い企業を「民主経営」と呼ぶが、「民主経営」といえども共産党から除名、除籍された人を再雇用する可能性は極めて低い。


下手をすると、「民主経営」の経営者が除名された元職員との関係を問われ、「派閥を結成していた」などといった調子で「除名」「除籍」されてしまうかもしれないからだ。

2013年3月15日金曜日

北朝鮮の国家安全保衛部についてのメモ

独裁体制を支える諜報機関―国家安全保衛部―


以下は、旧ホームページに掲載していたものからの抜粋です。詳しくは尹大日氏の著作「北朝鮮・国家安全保衛部」(萩原遼翻訳 文藝春秋2003年刊)を読んでいただきたい。「月刊朝鮮」とは、朝鮮日報が発行している雑誌です。

独裁体制の実態を把握するためには、不満分子を摘発して、政治犯収容所や監獄に連行する業務を担当している部署についての知識が必要です。

北朝鮮では国家安全保衛部という部署がこれを担当しています。中国では安全部という部署が主にこれを担当しています。

尹大日氏は、北朝鮮の国家安全保衛部に約15年間勤務し、1998年に韓国に亡命しました。尹大日氏によれば、国家安全保衛部が今日のような独自の国家諜報機関として正式に出発したのは1973年5月です(前掲書p38)。

北朝鮮は国策として麻薬を製造し、輸出して外貨を獲得してきました。獲得した外貨は基本的に39号室という金正日の直轄部署に献上されてきました。金正日はこれを核軍拡や自分たちの奢侈生活維持に使用してきました。

現時点では、金正恩が39号室を継承していることでしょう。アへン製造については、前掲書p270-271にも詳しい説明があります。

国家安全保衛部の存在について語ることは、在日本朝鮮人総連合会ではタブーとなっているようですが、親族が北朝鮮に帰国している在日朝鮮人なら殆ど誰でも知っています。

国家安全保衛部は北朝鮮内では金正日の信任を得てきましたら、最高幹部はかなりの権勢をふるうことが多いようですが、何かの拍子に「スパイ」「思想が変わった」などとレッテル貼りされ、銃殺されてしまう場合も少なくないようです。

11年程前の日朝交渉で北朝鮮側の裏の立役者だった通称ミスターXは国家安全保衛部の大幹部だったそうですが、その後処刑されてしまったという記事が韓国の新聞に出ていました。



北朝鮮国家安全保衛部出身の亡命者による証言

 
 

「月刊朝鮮」2002年7月号に、「衝撃証言 最初の北韓国家安全保衛部指導員出身脱北者尹大日『北韓は政権の主導により羅南製薬工場でヘロインとピロポンを製造し、海上と陸路を通して韓・中・日へ密売中』」が掲載されている。
 
このインタビュー記事には、北朝鮮問題についてよく知らない人には信じがたいようなことが数多く提起されているので、幾つか紹介しておこう。
 
尹氏によれば、北朝鮮では、体制維持のために公開処刑、脱北者強制送還を行い、政治犯収容所を運営している。
 
政治犯収容所とは、「政治犯管理所」と北朝鮮では呼ばれている地域で、1990年代初頭まで20箇所運営されていた。
 
政治犯収容所を管理する部署は国家安全保衛部の農場担当指導局である。
 
これは、外部の人間に対し偽装するための看板である。政治犯収容所の体験者が韓国に亡命して政治犯収容所の実態を暴露し、これを根拠に国際人権団体が北朝鮮の人権実態を調査せねばならないという圧力を加えた。
 
そこで北朝鮮は政治犯収容所の数を10個に統廃合した。収容所の数は減ったが、収容人員は変わらず、二十万人を維持している。
 
2000年の秋夕に、金正日が送った松茸は第16号政治犯収容所に収容されている政治犯が栽培し、送ったものである。
 
金日成は1992年、金日成がハムギョン北道を現地指導する過程で、栽培を指示した。金日成は、日本帝国主義の時代、ハムギョン道ヨンサ郡ではアヘンの農作業がよく行われていたので、アヘンを栽培し外貨を稼ぐ方法を考えろという指示を出した。
 
この指示により、国家保衛部の監視下で、ヨンサ郡ではアヘンの栽培が始まった。
 
生産された麻薬販売は、保衛司令部が運営する「水上貿易合営会社」が担当しているが、主に海外に出る出張員、対南工作部の要員らが海上ルートを通して韓国、日本、台湾などに販売し、国境地域を通して中国地域へ販売する。
 
尹氏の記憶によれば、麻薬は日本に最も売られていく。販売価格は、国境地域では一キログラム当たり一万ドル、海上では一万五千ドルである。
 
こうして作った麻薬販売代金は「忠誠の外貨資金」として金正日に捧げる。
 
亡命者のこうした証言は、普通の日本人の常識とあまりにもかけ離れているから、信じがたい人も多いだろう。
 
亡命者の話の一つ一つを証拠で裏付けることは極めて困難だから、こんなことはありえないと信じられない人も多いようだ。
 
勿論、亡命者の話を百パーセント真実であると断定することはできない。誰にも思い違い、記憶の誤りはあるからだ。
 
しかし、亡命者の話を何度も聞き、真実を少しずつ確認していくことは可能である。北朝鮮が国家の政策として麻薬の製造と販売、強制収容所の運営などを行っていることは間違いない。
 
勿論、年間の覚醒剤や麻薬生産量、それらの輸出販売による外貨の収入と販売先、強制収容所に収容されている「政治犯」の数などを断定することはできない。

2013年3月9日土曜日

朝鮮学校と左翼の生き方(平成13年秋執筆拙稿を再掲)

在日本朝鮮人総連合会に連帯する左翼に問う



以下は、平成13年秋にホームページに掲載したものです。当時も、在日本朝鮮人総連合会と左翼勢力は朝鮮学校への補助金を増額するべく、自治体に要求していました。

在日本朝鮮人総連合会に同調する左翼のような人は、現在の韓国にも少なくありません。北朝鮮は今や、弾道ミサイルと核実験を断行し朝鮮戦争の休戦協定の破棄まで宣言しているのに、それでも全ての責任は米国にあると主張する政党が韓国の国会に議席を持っているようです。

韓国内のそうした人々を、従北勢力といいます。従北勢力の中には金正日政治軍事大学で子供の頃から教育された筋金入りの工作員がいるのかもしれません。

下記文中に「亡命者」という語がありますが、これは脱北者を指しています。十二年ほど前には脱北者という語はさほど使われていなかったのです。韓国でも、帰順者という語が用いられていました。

在日本朝鮮人総連合会と彼らに連帯する左翼とはいかなる人生を歩んできたのか、という問題を皆さんに考えて頂くため、長文ですが再掲します。



朝鮮総聯系の民族学校への補助金支出を全額削減するべきだ!!


在日本朝鮮人総聯合会が、傘下団体としている民族学校(朝鮮学校)に、相当数の自治体が様々な名目で補助金を出している。私は補助金を出す理由について幾つかの自治体に問い合わせてみた。

概ねどこの自治体からも「朝鮮総聯系の民族学校は学校教育法が定める一条校ではないが、それに準ずる教育、日本の義務教育に近い教育を行っていると考えているので、補助金を支出している」という旨の答えが返ってきた。

自治体関係者に問う。朝鮮学校が「一条校に準ずる教育」「義務教育に近い教育」を行っているという根拠は何か。皆さんは朝鮮総連系の民族学校が使用している教科書(特に歴史、道徳、音楽)や、教育内容を調べたのか。

中学生や高校生には「革命歴史」というような科目があり、内容は金父子崇拝教育と私は聞いている。道徳の時間には金日成の反日闘争、金正日の奇妙な逸話などが教えられているらしい。

音楽の時間には金父子を礼賛する歌を歌わねばならないようだ。実際、朝鮮学校には、少し前まで「偉大なる金日成元帥万歳」「金日成元帥様有難うございます」などという標語が掲げられていた(ごく最近は見かけない)。

朝鮮学校のホームページにあるカリキュラム表を見ると、「道徳」「革命歴史」の授業はないような印象を受けるが、そうだろうか。「朝鮮歴史」という授業はあるようだ。この授業はどのような内容になっているのだろうか。

例えばこの授業で、金日成や金正日による蛮行、あるいは大韓民国はどのように教えられているのだろうか。北朝鮮帰国者の悲劇など、朝鮮学校では全く教えられていないのではないか。自治体関係者はまずはこうした調査をするべきではないのか。

朝鮮学校が日本の小学校、中学校や高校の教育に近い教育を行っているというなら、朝鮮学校の教員は日本の大学を卒業して日本の教員免許を保持している筈であるが、自治体の皆さんはそれを調査したのか。

それとも皆さんは、「日本の学校教育など、教員免許を保持していなくても担当科目の本を多少読めば十分やれる。学校教育に教員免許は必ずしも必要ない」とでも考えているのか。

近年、「規制緩和」が大流行しているが、朝鮮学校に補助金を出している自治体関係者、朝鮮学校に補助金を出すことを主張する左翼人士や政治家は、「教員免許がない人間でも教職につけるよう、小学校、中学校や高校教育に関する規制を緩和するべきだ」と本気で考えているのか。

これは「教育学部、教育学科、教員養成課程など不要だ」ということに等しいことを皆さんは自覚しているのか。


自治体関係者は、在日韓国・朝鮮人の不当な要求に屈してはならない!!



恐らく自治体関係者や左翼人士はそのような調査を全くやっていないだろう。この人たちは、朝鮮総聯(在日本朝鮮人総聯合会)がどういう団体なのか、全く知らないようだ。

知っていても朝鮮総聯の歴史と実態について思考し議論することをタブーにしているという方が適切かもしれない。

真に歯がゆいことであるが、多くの日本人は在日韓国・朝鮮人の団体や運動家の理不尽な要求に対し簡単に屈服してしまう。面倒なことには関わりたくない、金を多少出せば済むならそれで解決してしまえという発想があまりにも強い。

多くの在日韓国・朝鮮人の団体や運動家は日本人のこうしたひ弱な態度を利用して、「我々は植民地支配の被害者だ。加害者であり、差別をしてきた日本人、日本政府は、我々に謝罪と償いをするべきだ」(注1)などと主張して理不尽な要求を次々と突きつけて来る。

そして在日韓国・朝鮮人に参政権を与えろ、朝鮮学校に対し自治体が補助金を出せ、歴史教科書の記述を変えろなどという暴論を吐く。

こうした暴論は共産主義者や左翼人士の「平和理論」(日本がアジアの平和を脅かしているから、日本国家を弱体化させるべきという暴論。レーニンの「帝国主義論」のような発想でみると、経済成長を達成した国には世界的な規模で活躍する企業があるから、その企業の利益を確保するために、経済大国は外国を侵略するという愚論)と概ね一致しているから、在日韓国・朝鮮人の団体や運動家は左翼や日本共産党、社会民主党と共闘することになる。
 
 

左翼化した在日韓国人と日本共産党が意気投合する理由



かつての社会党、日本共産党や左翼人士は、大韓民国を国家と認めず「傀儡政権」「朴一味」などと蔑み、日韓条約の締結に全力で反対してきた。

「素直な眼で朝鮮半島の歴史をみつめてほしい」などと称し、日本共産党や左翼と共闘している在日韓国人は大韓民国を徹底的に愚弄してきた日本共産党と左翼人士の歴史を直視できない。

あるいは左翼と共闘する在日韓国人は、大韓民国が経済成長したから、「帝国主義化」しつつあり、アジアの平和を脅かす危険な存在になりつつあると大真面目に考えているのかもしれない。

レーニンの「帝国主義論」のような視点で韓国経済を分析すれば、韓国には現代や三星など世界的な規模で活動する多国籍企業が幾つも存在するから、「帝国主義化」しつつあり、「アジアの平和を脅かす」という結論がでよう。

北朝鮮は途上国だから米帝国主義とその従属下にある韓国により侵略される側だという結論がでよう。大真面目にそう考えている左翼人士もいるだろう。

左翼化した在日韓国人は、大韓民国に対する愛国心を持てなくなり、「米軍のいないアジアをつくろう」などと主張する左翼と共闘することが、大韓民国の安全保障を根源的に脅かすことが全く理解できなくなってしまったのだろう。

左翼化した在日韓国人は、朝鮮戦争の開戦の経緯と悲惨な史実を直視できないのである。

左翼人士は、自らの「理論」から見れば、「韓国は帝国主義化しつつある。韓国政府は労働者を弾圧するために国家保安法を作っている。

ベトナム戦争への参戦は侵略戦争だ。韓国はベトナムに謝罪して補償をしろ。韓国の歴史教科書にベトナムへの謝罪を明示せよ。韓国には徴兵制があるから、軍国主義だ」などという結論が出て、韓国の大統領や政府関係者、「ベトナム戦争に無反省」である韓国人を糾弾せねばならないはずだ。

時流にのることをいつも気にしている左翼人士は、今はこうした主張をしていないが、韓国でさらに左翼勢力の勢いが強くなれば、日本の左翼人士もこうした主張をする可能性を指摘しておこう。

多くの在日韓国人は左翼化しているから、共産主義理論から導かれる「平和運動」に共感し、在韓米軍撤退、国家保安法撤廃、徴兵制廃止のために日本の左翼と共闘する動きが今後出てくるかもしれない。

在日韓国人は日本の政治に参加したいなら日本国籍を取得するべきなのだ。韓国の国籍を保持したままで日本の参政権を得ようなどというのは特権要求でしかない。

日韓は別の国家であるから、それぞれの国民は二つの国の政治に参加するべきではないという程度のことが、在日韓国人にはわからなくなってしまったようだ。

在日韓国人が税金を払っているから参政権が与えられるべきだという人がいる。この場合の税金とは、消費税ではなく恐らく所得税を指すのだろうが、それなら所得が低く所得税を払っていない人からは参政権を取り上げるべきだとでもいうのか。


共産主義者と左翼人士が亡命者の証言を無視する理由


 

自治体関係者と政治家、左翼人士は、金日成と朝鮮労働党が「南朝鮮革命」「全世界における主体思想の勝利」「主体革命偉業」策動の中で在日朝鮮人の教育をどのように位置付け、「闘争」「実践」しているかを、認識するべきだ。

「南朝鮮革命」「主体革命偉業」と在日朝鮮人の「民族教育」の関係を検討するためには、金日成著作集、朝鮮総聯の文献、朝鮮労働党の労働新聞に掲載されている教育に関連する論文などをきちんと読みこなし、分析せねばならない。

韓国の代表的月刊誌である「月刊朝鮮」にしばしば掲載される北朝鮮からの亡命者の手記や、朝鮮総聯を脱退した在日朝鮮人の手記も貴重な参考文献である。

元北朝鮮工作員の張龍雲氏による「朝鮮総聯工作員」(小学館文庫)は、朝鮮労働党の南朝鮮革命策動について、自らの体験を通して赤裸々に語っている。

北朝鮮と朝鮮総聯を、文献と亡命者からの聞き取り調査などに基づき実証的に分析した代表的文献は玉城素「北朝鮮破局への道 チュチェ型社会主義の病理」(1996年 読売新聞社刊)である。こうした探求は、共産主義国と共産党の現状を把握するために最も基本的な知的作業なのだ。

なお、金日成や金正日の著作は、公開されたものと、実際に金父子が朝鮮労働党幹部や総聯幹部に「教示」として出したものとは異なっている可能性がある。公開される「著作」では、「朝鮮革命」「主体革命偉業」「反革命分子との闘争」の具体的な中味について触れないようにしていると考えられるからだ。

従って、北朝鮮と朝鮮総聯の実態を分析するためには金父子の著作だけでは不十分だ。亡命者や、朝鮮総聯を脱退した人の証言や手記の分析、それらの比較検討が必要になる。

亡命者の手記は多数あるが、朝日新聞アエラ編集部による「北朝鮮からの亡命者 60人の証言」(1997年朝日文庫)は多数の亡命者からインタビューし、北朝鮮の真実を把握しようとしている。

インタビューを積み重ねて真実を把握していくという手法は、開発経済学や労働経済学などでも、発展途上国の実態、企業の現場における技術の伝播、継承方法や労働の実態などを把握するために多用されている(注2)。

朝鮮労働党の元書記黄長燁氏による一連の著作も貴重である。

近作「暗闇にいった日光は暗闇を照らすことはできない」(月刊朝鮮刊)は、単なる亡命者による北朝鮮の内幕暴露ではなく、韓国の保守派知識人による北朝鮮の民主化戦略、朝鮮半島に平和をもたらすための戦略を解明した本であるといえよう。

朝鮮半島に平和をもたらすためには韓米日同盟の強化、そして中北ロシアの同盟を弱体化させ、金正日による「南朝鮮革命」「主体革命偉業」の断行を阻止せよと黄長燁氏は主張する。

朝鮮半島に平和をもたらすためにも、北朝鮮の人権問題を重視するべきだという黄長燁氏の戦略は、いわゆる「覇権安定理論」の流れに属するもので、私もよく理解できる。

黄長燁氏と概ね同様の理論、すなわち日本の平和を守るためには日米同盟を強化し中国と北朝鮮を抑えこむべきであるという理論を、岡崎久彦氏や田久保忠衛氏が主張している。

日本共産党や左翼人士が北朝鮮における人権問題について完全に沈黙しているのは、この問題を多くの人々が認識すると金正日軍事独裁政権の危険性が明らかになり、日本の平和を守るためには日米同盟の強化が必要であるという世論が広まってしまうからだ。

「亡命者の証言など信用できない」という人は、情報収集と分析の方法、その意義を理解できないか、自らが信奉してきた「平和理論」「経済理論」に固執しようとしているだけなのである。


「民族教育の基本内容は教育でチュチェをうち立てる」ことであると朝鮮総聯は明言している




在日本朝鮮人総聯合会中央常任委員会が発行した冊子「朝鮮総聯」(1991年2月1日発行)では、「民族教育の基本内容は、なによりも教育でチュチェをうち立て、同胞子女が祖国と民族にたいする正しい知識をもち、民族自主意識を育むところにある」(p75)と明言している。

「教育でチュチェをうち立てる」とは、多くの日本人には意味不明な表現であるが、これは朝鮮労働党の「教育テーゼ」(正式には、「社会主義教育にかんするテーゼ -朝鮮労働党中央委員会第五期十四回総会で発表― 1977年9月5日」)に依拠している。「

教育テーゼ」は、「社会主義教育学の基本原理は人びとを革命化、労働者階級化、共産主義化することである」と規定し、以下の四点を原則としている。

第一に、教育において党性、労働者階級性を具現しなければならない。

第二に、教育において主体性を確立しなければならない。

第三に、教育と革命実践を結びつけなければならない。

第四に、社会主義国家は責任をもって教育事業をおこなわなければならない。


第二点が、朝鮮学校における「民族学校の基本内容」に該当しているのだ。「主体性の確立」について、「教育テーゼ」は次のように述べている。

「教育で主体性を確立するためには、自国のものを基本にして教え、人びとが自分のものに精通するように教育しなければならない。朝鮮人は朝鮮で革命を遂行し、朝鮮に社会主義・共産主義を建設しなければならない」


要するに、朝鮮学校を「南朝鮮革命」「全世界における主体思想の勝利」「主体革命偉業」のために奮闘する「革命戦士」を育成するための「民族教育」を行なう「学校」であると、朝鮮労働党、朝鮮総聯は規定しているのである。

これは、金日成が朝鮮学校の教員に出した以下のような「教示」からも明白である。

 

金日成が朝鮮学校の教員に「同胞子弟を革命化せよ」と教示していることを、自治体関係者は直視するべきだ


金日成は「総聯教育活動家の任務について -在日朝鮮教育活動家祖国訪問団および朝鮮大学校音楽・体育部祖国訪問団におこなった演説―」(1973年8月31日)で次のように「すべての同胞子弟の革命化」「教員が職業革命家であること」を「教示」した。

「それでわたしはすでに以前から教育事業は生活費をかせぐための職業ではなく、革命の継承者を育てる栄えある革命事業であり、教員は月給とりではなく職業革命家であるといってきました。

革命の前途は革命の代をつぐ継承者をいかにに育成するかに大きくかかっています」

「総聯の教育活動家は労働者、農民の子弟だけを革命化しようとせず、すべての同胞子弟を革命化するために努力すべきです。

総聯の教育活動家は、親が企業を営もうと、商店をもっていようと、料理店を経営していようと、それにこだわることなく、すべての同胞子弟を革命家に育てあげなければなりません。

商工業者の子弟をすべて革命化すれば、たとえかれらが海外にいても、祖国の統一と朝鮮革命の全国的な勝利のために大きな役割を果たすようになるでしょう」


明らかに金日成は、総聯系の民族学校を「革命家養成学校」と規定している。

そして生徒を革命家に育てるためには教員が優秀な革命家にならねばならないと、以下のように「教示」した。

「総聯の教育活動家が自分を徹底的に革命化すれば学生・生徒を革命化することができ、革命化しなければ学生・生徒を革命化することができません」

「総聯の教育活動家が古い思想を根こそぎにして、わが党の革命思想、チュチェ思想で武装し、自らを革命化、労働者階級化するためには、なによりもまず熱心に学習しなければなりません」

このように金日成は、総聯の教育活動家、すなわち朝鮮学校の教員はチュチェ思想で武装し、自らを革命化、労働者階級化せねばならない」と明言している。


許宗萬在日本朝鮮人総聯合会責任副議長に問う!



朝鮮学校への補助金支出の必要性を主張する政治家と自治体関係者に問う。

「すべての同胞子弟を革命家に育てあげる」「総聯の教育活動家が古い思想を根こそぎにして、わが党の革命思想、チュチェ思想で武装する」ことに補助金を支出するべきなのか。

「金日成がそうした主張をしているからといって、朝鮮学校でチュチェ思想教育をやっているとは断言できないではないか」という人は、率直に総聯関係者に歴史や音楽、道徳の教科書を資料として提供してもらうよう依頼してみたらどうか。

さらに朝鮮学校の教職員に、教育内容はチュチェ思想、朝鮮労働党の「教育テーゼ」とどのような関係があるのか、金父子について実際どのように子供達に教えているのか尋ねてみることだ。

「日本の学校に準ずる教育を行っている」というなら、朝鮮学校にも学習指導要領に該当するものがあるはずだ。

朝鮮学校の学習指導要領に該当するものと、金父子の「教示」及び朝鮮労働党の「教育テーゼ」の関係について、率直に朝鮮学校の教職員に尋ねてみることだ。総聯関係者は「デマだ。南朝鮮国家情報院の手先による捏造だ」と怒るかもしれない。

この人達は自分達への批判や都合の悪い質問に対してほぼ条件反射的に「デマだ、捏造だ」と言うようだ。

許宗萬在日本朝鮮人総聯合会責任副議長に問う。

朝鮮学校の教育内容が金父子の「教示」、チュチェ思想、朝鮮労働党の「教育テーゼ」と無縁であると貴方たちは断言できるか。仮に断言できるということなら、貴方たちは「教育に主体をうちたてる」ことを放棄したのか。

「南朝鮮革命」「全社会の金日成主義化」「主体革命偉業」「全世界の自主化」のために生涯を捧げる「革命戦士」が、朝鮮学校での「民族教育」により多数育成されてきたことは、在日朝鮮人の中では常識に属することではないか。

勿論、本格的な工作員教育は平壌や元山にある「招待所」「中央党学校」などで行われているだろうから、「民族教育を受けた」という程度では「革命戦士」「工作員」とは言えない。実際のところは、卒業生の中には金父子への崇拝教育に嫌気がさし、総聯を脱退していった人もいることを私は知っている。


金日成は朝鮮総聯を「革命的組織」と規定した



朝鮮総聯は在日朝鮮人の単なる親睦団体ではない。金日成は「総聯活動家の課題について -総聯活動家との談話―」1973年六月1日)で以下のように朝鮮総聯を「たたかう革命的組織」と規定した。

「総聯は在日朝鮮公民にたいする思想活動に従事する政治組織であり、祖国の統一と朝鮮革命の勝利をめざしてたたかう革命的組織であり、在日朝鮮公民の権利と利益を擁護する民族的組織であります」

この談話で金日成は「民族教育」と「信用組合」について次のように「教示」した。

「総聯組織は、同胞商工業者の教育にも深い関心を払わなければなりません。同胞商工業者は苦労の末に楽を得た人たちですが、その子弟は苦労を知らずに育っている新しい世代です。

したがって総聯組織と総聯の各級学校では、同胞商工業者の子弟教育を正しくおこなって、かれらを革命的世界観で武装させなければなりません。

総聯が信用組合などを効果的に運営すれば、同胞商工業者を多く獲得し、かれらを一つに結集して共同闘争を成功裏に進めることができるでしょう」


このように金日成は繰り返し、朝鮮学校で同胞子弟を革命化すること、革命的世界観で武装させることを強調している。

朝鮮学校でチュチェ思想教育が行なわれていないと主張することは「偉大なる首領様」の教示に朝鮮総聯が背いていると主張していることと同じだ。

従って自治体関係者や左翼人士が朝鮮学校では義務教育に準ずる教育が行なわれており、チュチェ思想教育など行なわれていないと主張するならば、それは北朝鮮流に言えば「反共和国策動」に該当しよう。


金融当局は朝鮮学校における「民族教育」の実態を調査し、債権返済を徹底追求するべきだ



また、この談話では信用組合、すなわち朝銀信用組合を、同胞商工業者を獲得し共同闘争を成功裏に進めるための組織と規定していることも興味深い。金日成によるこうした「教示」と、朝銀信用組合による不可解な融資疑惑の関係を、左翼人士は真剣に考えるべきだ。

朝銀信用組合による不可解な融資疑惑とは、例えば朝鮮学校や朝鮮総聯関連団体の土地や建物を担保にして、担保価値を大きく上回る融資枠を設定し、朝銀信用組合から融資を受けていたという疑惑である。

このとき、朝銀信用組合に「仮名口座」「借名口座」が多数存在し、裏金つくりに使われていたという極めて濃い疑惑である。

勿論、これだけで北朝鮮への多額の不正送金が行われているとは断言できないが、朝鮮学校の土地や建物を担保に入れることを朝鮮学校の理事会は承認していたのだろうか。

借金が返せなければ、担保なのだから明渡し、処分されることになって当然だ。担保価値を大きく上回るような融資枠と融資の設定を承認、黙認した朝鮮学校の理事会の経営責任は厳しく問われるべきである。

朝鮮学校が処分されて無くなれば、子供達の「民族教育を受ける権利」とやらは「侵害」されることになろう。そうした仕組みを作ったのが、朝鮮総聯幹部だったということなら、この人達には子供達の「民族教育」より、優先して資金を作らねばならない事情があったということだろう。

その「事情」が、金父子を礼賛するための巨大建造物や金日成が奉られている豪華な「宮殿」、金父子の権威を誇示するための祭典、あるいは弾道ミサイルや生物兵器、化学兵器量産費用調達だったという可能性を、私は指摘しておきたい。

こうした愚行に全力をあげる人間をつくることが、「教育に主体をうちたてる」ことだったとのではないだろうか。金融当局は朝銀信用組合による不可解な融資と、資金の流出先、さらに朝鮮学校における「民族教育」の実態を徹底調査するべきだ。

「教育にチュチェをうちたてる」ことに公的資金を投入するべきなのか、そんなことが在日朝鮮人の子供達によりよい未来を約束するのか、金融当局は真剣に検討するべきだ。

在日朝鮮人の子供たちは「主体革命偉業」の「戦士」となるべきなのか、金融当局は真剣に考えるべきだ。

金日成のいう「共同闘争」とはもちろん、「南朝鮮革命」「主体革命偉業」のための闘争である。南朝鮮革命とは大韓民国を滅ぼし、韓国人が「内心の自由」を全面的に奪われ、金日成や金正日を礼賛せざるをえない体制を朝鮮半島全域に広げることを意味している。

朝鮮総聯と総聯系組織の究極の目的はこうした「南朝鮮革命」「主体革命偉業」なのだ。このことも金日成は次の談話で「教示」している。


金日成は総聯に「南半部の革命勢力の強化」を「教示」した



金日成は「総聯活動家は団結を強化すべきである -朝鮮民主主義人民共和国創建25周年 在日朝鮮人祝賀団との談話―」(1973年9月8日)で次のように述べた。

「総聯の代表団が来るたびに話すことですが、われわれはまだ祖国を統一していません。祖国を統一するためには、共和国北半部の革命基地を強化するとともに、南半部の革命勢力を強化しなければなりません。

共和国の革命基地は強固にきずかれていますが、南半部の革命勢力はまだしっかりかためられているとはいえません。

総聯は、南朝鮮人民を目覚めさせ、かれらを祖国統一をめざす闘争に立ち上がらせるうえできわめて重要な位置にあります。総聯は南朝鮮人民に、ファッショ体制に反対し、社会の民主化を実現し、民族の大団結をはかって自主的に統一しなければならないということをよく教えさとすべきです。

総聯がこのような活動をりっぱにおこなうためには、総聯自体をさらに強化しなければなりません」


金日成は総聯に南半部の革命勢力の強化、そしてそのための総聯の強化という「教示」を出しているのだ。この種の「教示」を金日成は何度も出している。

「在日本朝鮮人総聯合会第十一回全体大会に送る祝賀文」(1977年9月26日)で金日成は次のように「教示」している。



「わが党のチュチェ思想は総聯活動の唯一の指導方針であり、在日朝鮮人運動の勝利の決定的な裏づけです。

総聯の愛国運動に新たな転換をもたらすためには、すべての活動家と同胞をチュチェの革命的世界観で武装させ、かれらをわが党と共和国政府のまわりに一つの思想、意思でかたく結集し、朝鮮人民の革命的偉業をめざす栄えある道を屈することなくたたかいぬくようにしなければなりません」



「すべての活動家と同胞をチュチェの革命的世界観で武装させる」とは、「党の唯一思想体系確立の十大原則」からも明らかなように、金父子の一言一句に絶対服従する奴隷つくりを意味しているのだ。

朝鮮総聯が誇る「民族教育」とはこうしたものなのだ。

注意深い人なら、金日成による朝鮮半島の北半部を「民主基地」という規定が、スターリンによるソ連の「世界革命の根拠地」規定と似ていることに気づくだろう(ソ同盟共産党「ボ」中央委員会・中央統制委員会合同総会。スターリン全集第十巻 大月書店刊)。

金日成のこの規定が「テーゼ」として定式化された文献は、「すべての力を祖国の統一独立と共和国北半部における社会主義建設のために -朝鮮革命の性格と任務に関するテーゼ」1955年4月)である。

朝鮮戦争からそれほど経っていない時期に出されたこのテーゼを、今日でも朝鮮労働党と朝鮮総聯関係者は崇めている。「テーゼ」という表現は朝鮮労働党が特に重視している文献であることを意味している。



日本共産党員と左翼人士が「労働新聞」を直視できない理由




多くの日本共産党員は不破哲三氏ら指導部を盲信しているから、朝鮮労働党や朝鮮総聯が「南朝鮮革命」「主体革命偉業」「全世界における主体思想の勝利」などをめざしていることを信じられないことだろう。

昨年の第二十二回大会決議(第三)で日本共産党は、「朝鮮半島におこった平和の激動」があるとし、「南北首脳会談の成功」をその根拠とした。そして北朝鮮を「新しい平和の流れの一方の当事国」と規定した(大会決議第四章)。

数年前まで日本共産党は北朝鮮を「野蛮な覇権主義」と批判していたのだが、最近はこうした批判を一切行なわなくなっている。

多くの下部党員は不破氏ら指導部を盲信しているから、朝鮮半島では「南北首脳会談の成功」により「平和の激動」があると信じ込み、「北朝鮮も朝鮮総聯も大きく変りつつある。社会主義の復元力が発揮されつつあるのだ」という具合に大真面目に信じている。

日本共産党の朝鮮問題担当者に問う。

貴方は朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」を読んでいるのか。「労働新聞」をきちんと読んでいれば、「北朝鮮も朝鮮総聯も大きく変りつつある」などという見解が暴論でしかないことはすぐわかるはずだ。

去る10月30日の「労働新聞」掲載の論考「主体教育の花園に花を咲かせて下さって」は次のように述べている。


「わが祖国の歴史に光り輝く年輪を刻み付けた主体66(1977)年、この年の9月に偉大なる首領様は自主時代教育発展と真の人間肉声の燦然たる前途を明らかにして下さる普及の古典的労作『社会主義教育に関するテーゼ』を発表なさった」

「敬愛する将軍様の偉大なる胸の中で我々の新しい世代と全ての人民は自らの知恵と才能を咲かせ、この地で復興強国を建設し将軍様の領導に従い、主体革命偉業を最後完成させることだろう」


「労働新聞」の論考は冗長なものが多いので、着目するべき点を見出すことが難しいが、この論文で「教育テーゼ」を取り上げていること、「主体革命偉業」の「完成」を強調していることを考えれば、朝鮮労働党は何も変化していないことはあまりにも明白ではないか。

「南北首脳会談」により実現したことは、韓国社会に北朝鮮に対する甘い認識が広がり、韓国が北朝鮮に対し無防備になってきているということだけなのだ。

労働新聞を普通に読めば朝鮮労働党の危険性はあまりにも明白だ。

去る9月14日の労働新聞に掲載されている論文「自らの墓を掘る日本反動どもの再侵略戦争策動」は次のように日本を脅迫している。


「日本には原子力発電所が多い。それらが打撃を受けないだろうという担保はない。日本が報復打撃を受ける場合、二十世紀の四十年代に蒙った核惨禍とは比較にならず、予想もきない、とんでもない核災難を蒙りうるであろうということを予告している」


朝鮮労働党が日本の原子力発電所の破壊を策していることを公然と予告しているのだ。

原子力発電所の付近に住む政治家や自治体関係者は勿論だが、政治家と金融当局は真面目に北朝鮮問題を考えろと私は言いたい。

原子力発電所を破壊することは、強力な武器を持つ工作員が潜水艦などで侵入すればそう難しくないはずだ。バズーカ砲程度で原子力発電所の炉心の融解が可能なのかどうか、私にはわからないが、炉心の融解をおこす爆弾は製造可能だろう。

民間航空機をハイジャックされ、空から原子力発電所が自爆攻撃される危険性があるとき、総理大臣の命令一つで自衛隊が民間航空機を撃墜する権限を与えるべきだ。

北朝鮮がこうしたテロを起こした場合、直ちに平壌にある金正日の官邸や住居、金日成が奉られている宮殿、金正日がいる可能性がある場所を自衛隊が空爆することを、政府は公言するべきだ。

このためには、空中給油機と長距離ミサイルの早期購入が不可欠である。北朝鮮全域を瞬時に攻撃できる兵器が緊急に必要なのだ。金正日の一挙一動を把握する偵察衛星を設置するべきだ。

こうした備えが、原子力発電所の破壊などのテロ攻撃に対する抑止力になるのだ。左翼人士が「労働新聞」をまともに読むことができない理由は、こうした朝鮮労働党の危険性を隠蔽せねばならないからだ。

日本共産党と左翼人士の目的は「平和を脅かしているのは帝国主義国である米国だ」というレーニン、スターリン流の「平和理論」を普及して共産主義国である中国と北朝鮮による核軍拡があたかも防衛的なものであるかのように宣伝し、共産主義国の軍拡を支援することなのである。

日本共産党の朝鮮問題担当者が「労働新聞」の記事を読んでいても、上述のような脅迫、金父子への崇拝を批判する記事が「赤旗」に出ることはない。そのような批判は、日本共産党では不破哲三氏しか出来ない。

下部党員の中で個人的に朝鮮労働党を批判する人はいるが、日本共産党の職員や議員は北朝鮮と朝鮮総聯の事実がどのようなものであれ、北朝鮮問題で不破氏と別の見解を表明することは出来ない。

この人たちは「言論の自由」を完全に奪われているのである。「言論の自由」を共産党の最高指導者が独占することが、「社会進歩」「歴史の法則的発展」であると共産党の職員は大真面目に信じ込んでいる。



金日成は朝鮮労働党と朝鮮総聯を少しでも批判する人間を「敵」と規定した




共産主義国や共産主義運動についてよく知らない人には理解し難いことだろうが、最高指導者、独裁者である金日成、金正日の「教示」は北朝鮮、朝鮮総聯内では絶対的な「命令」なのである。

これは、「党の唯一思想体系確立の十大原則」からも明白だが、金日成著作集をきちんと読んでいけばすぐにわかる。

金日成は「総聯活動家は団結を強化すべきである -朝鮮民主主義人民共和国創建25周年 在日朝鮮人祝賀団との談話―」1973年9月8日)で次のように「教示」した。



「総聯組織と在日同胞は、チュチェ思想にもとづいてかたく団結すべきです。一つの組織に二つの思想があってはなりません。総聯はわが党の革命思想、チュチェ思想にもとづいて団結しなければなりません」


金日成は「総聯組織をさらに強化しよう -在日朝鮮人祝賀団との談話―」(1976年5月31日)で次のように「教示」した。


「みなさんは総聯内部に敵が潜入しかねないことをつねに忘れてはならず、不純分子の吹聴するデマをむやみに信じてはなりません。かれらのデマを信じこむならば、敵の離間策動に陥るようになります。みなさんは階級的自覚と革命的警戒心を高め、すべての問題を巧みに処理しなければなりません」



金日成が「一つの組織に二つの思想があってはならない」と明言していることに注目しよう。

これは、金父子や朝鮮労働党、朝鮮総聯を何らかの形で批判あるいは、不満を漏らすものは全て「敵」あるいは「不純分子」とみなし、「闘争」せよということだ。

朝鮮総聯関係者が、総聯を脱退した人を「民族反逆者」などと罵ることがあるが、これは金日成の
こうした「教示」に基づいているのだ。


こうした思考方式は「主体思想に基づいた民族教育」の「成果」でもある。

テレビ朝日の「サンデープロジェクト」などで朝銀信用組合が人事権を朝鮮総聯に握られているのではないかという疑惑が報道されている。朝銀信用組合の幹部が各地の朝銀信用組合の役職を歴任していることから考えても、この疑惑は極めて濃い疑惑である。

これは、「民族教育」や各種の思想教育により朝銀信用組合の関係者が総聯幹部に服従することを「南朝鮮革命」「主体革命偉業」「全社会の金日成主義化」の一環として把握しているからだ。

朝銀信用組合の幹部や朝鮮学校の教員が総聯幹部に何らかの形で反抗、あるいは朝鮮労働党や朝鮮総聯に批判的な言動をすれば朝銀の役職や朝鮮学校の教職を降ろされてしまうことがあるようだ。

これは朝銀信用組合や朝鮮学校の関係者(理事会を含む)の多くが朝鮮労働党や朝鮮総聯を批判する人を条件反射的に「不純分子」「総聯内部の敵」とみなし、「階級的自覚と革命的警戒心を高め、問題を巧みに処理する」思考習慣と行動方式を体得しているからである。

別言すれば、朝鮮総聯関係者の中では、朝鮮労働党や朝鮮総聯を批判する人を条件反射的に「不純分子」「総聯内部の敵」「変質者」などとみなし徹底的に自分たちの社会から排除することが、一種の「共同体規範」になっているとも言えよう(注3)。

日本共産党も、「除名」「除籍」した人を「反党分子」「転落者」などと罵倒し、様々な場から徹底的に排除してきた暗黒の歴史を持っている。

こうした愚行を「理論化」した論文として上田耕一郎「なぜ共産党は反党分子を共闘の相手にしないか」(「赤旗」昭和42年6月6日掲載)がある。

上田氏によれば、「労働者階級の前衛党と党の破壊者のあいだには、前衛党と反動的支配層のあいだにあるのと同じ性質の、両立しがたい根本的な敵対関係がある」「共産党と反党分子は両立できない」そうだ。

日本共産党と朝鮮労働党、朝鮮総聯は真に似た体質を持っているといえよう。


金日成の「社会主義的民主主義」論と強制収容所



日本共産党員の「赤旗」は強制収容所や「政治犯」の公開処刑、大量餓死など北朝鮮における極度の人権抑圧と朝鮮総聯関係者による不正送金疑惑、朝銀信用組合による不可解な融資疑惑、朝鮮商工会による脱税疑惑について完全に沈黙しているので、下部党員は北朝鮮の実態、朝鮮総聯の真実を殆ど知らない。

下部党員には「赤旗」に掲載されていないことは信頼しない、事実と認めないという思考方式が定着している。

鮮総聯ほど極端に明示されていないが、日本共産党も「一つの組織に二つの思想があってはいけない」ことを様々な形で周知徹底させられているのだ。共産主義者は、どこの国でも同様の思考、行動方式を体得しているものなのだ。

北朝鮮からの亡命者の話をどうしても信用できない日本共産党員と朝鮮総聯関係者、左翼人士は、金日成による以下のような「社会主義的民主主義」がどのような帰結をもたらすかについて真剣に考えるべきだ。

金日成は「人民政権をいっそう強化しよう -朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第六期第一回会議でおこなった演説―」(1977年12月15日)で次のように「教示」した。



「帝国主義者が騒ぎたている社会主義諸国でのいわゆる『人権弾圧』についていうなら社会主義国家が、民主主義的秩序を乱し、社会主義制度の破壊を策する敵対分子や不純分子に制裁を加えるのは、民主主義の敵から民主主義を守るための正当な措置です。

帝国主義者の擁護する『人権』は人民の人権ではなく、人民の敵の人権であり、かれらの望む「自由」は人民の民主主義的自由ではなく、帝国主義者とその手先の破壊活動の自由です。

われわれ共産主義者は自己の党派性をかくさないのと同じように、民主主義の階級性をもかくすものではありません。社会主義的民主主義は、けっして社会主義に反対する敵対分子や人民の利益を侵す不純分子にまで、自由や権利を与える超階級的民主主義ではありません。

労働者、農民、勤労インテリをはじめ広範な人民大衆には自由と権利を保障し、少数の階級敵にたいしては制裁を加えるのが、とりもなおさず社会主義的民主主義です。われわれは社会生活のすべての分野で階級的立場と革命的原則を固守し、人民の利益を侵す敵対分子や不純分子を徹底的に鎮圧しなければなりません。

とくに『人権擁護』の看板のもとに強行されている帝国主義者の反共謀略策動に断固たる反撃を加え、社会主義的民主主義の破壊を企むあらゆる試みを時を移さず粉砕しなければなりません」



金日成は「少数の階級敵」にたいして「制裁」を加えることが「社会主義的民主主義である」と断言している。

「階級敵」とは、何らかの形で金父子と朝鮮労働党に不満を表明する人間のことである。朝鮮総聯関係者は、北朝鮮に帰国した自分たちの仲間、親族の中で相当数が行方不明になっていることを知っているはずだ。

朝鮮総聯関係者は行方不明になった帰国者のことを「山へ行った」という。

朝鮮総聯の若い運動家は帰国者がある日突然行方不明になってしまったこと、その人達は山奥に追放あるいは、「管理所」と呼ばれる強制収容所に連行された可能性があることを全く知らないようだ。

強制収容所については、統一研究院による「北韓人権白書」(第四章の1)が詳しい。年配の朝鮮総聯関係者は若者に対し、こうした史実を隠蔽しているようだ。朝鮮学校を卒業した若者、朝鮮大学校の学生諸君に私は訴えたい。

貴方たちの先輩が、貴方達の学校でかつて教鞭をとっていた方が、社会主義の夢を求めて北朝鮮に渡り、何らかの形で不満を漏らしたことを「首領冒涜罪」「資本主義の水を飲んだ」「スパイ罪」「階級敵」などという「罪」とみなされ、ある日突然どこかに連行されたのだ。

貴方達は朝鮮語を十分に習得しているのだから、黄長燁氏の著作を読むべきだ。

黄長燁氏が「階級敵」「不純分子」などと呼ばれるべき方ではないことは、貴方達にわからないのか。

つい数年前まで、貴方達は黄長燁氏を心から尊敬していたのではなかったのか。

朝鮮新報のホームページを見ると、貴方達は「偉大なる金正日将軍の領導の下に団結しよう」などといった主張をしているが、本当に偉大な人間に対しては、「偉大な」などといった形容詞をいちいちつけなくても人は自然に尊敬するようになるものなのだ。

生前は左翼人士からファシストだの、鬼だのと罵倒された故朴正煕大統領は、様々な苦難を乗り越えて国民を指導し大韓民国の高度成長を成し遂げた。

故朴大統領の生涯と大韓民国の苦難の歴史を、貴方達は朝鮮語が十分に出来るのだから、韓国の文献を読んで真剣に学ぶべきだ。黄長燁氏の著作はソウルに行けば書店で購入できるし、「朝鮮日報」のホームページから「月刊朝鮮」のホームページに入れば読むことは難しくない。

その他、韓国には北朝鮮の人権問題を扱っている市民団体が幾つかある。朝鮮学校を卒業した人の中に、金父子の崇拝教育に辟易し、卒業後は金父子の著作や朝鮮新報、労働新聞を一切読まなくなる人がいることも私は知っている。

こういう態度もまたおかしい。そういう人は概ね、「歴史認識」「参政権獲得」「戦後補償」とやらの運動に参加し、共産党や左翼人士と「共闘」して日本を罵倒している。

金父子の著作が北朝鮮という国家と国民、そして在日朝鮮人運動と組織に対してどのような影響を与えてきたか、そして現在北朝鮮がどのような影響をアジアと日本、韓国に与えているのか、金正日軍事独裁政権崩壊後の朝鮮半島はどうなるのかということは極めて重要な社会科学上の課題ではないか。

金父子と朝鮮労働党の主張がどんなに支離滅裂であろうと、実際に多くの在日朝鮮人はその主張を盲信し「南朝鮮革命」「主体革命偉業」のために生涯を捧げてきたのである。

在日朝鮮人はこの史実をどう考えているのか。そうした知的作業をすることが、真に主体性のある生き方ではないだろうか。

 

脚注(注1)植民地期の朝鮮半島について



近年の歴史学では、朝鮮半島の植民地期においてかなりの経済成長、工業化が実現していたことの原因は、朝鮮社会内に存在していたという見方が提起されている。

植民地期の朝鮮半島を単なる「大陸兵站基地」「日本帝国主義への従属」などとみなすだけでは、当時の朝鮮社会を余りにも受身的、没主体的に把握しすぎており、実証性にも欠けているという主張だ。

安秉直・中村哲共編著「近代朝鮮工業化の研究 ―1930~1945年」(1993年 一潮閣)、安秉直「韓国近現代史研究の新しいパラダイム」(「創作と批評」 1997年秋号掲載論文)、中村哲編「東アジア資本主義の形成」(1994年青木書店)などがこうした主張をしている。

また1910年からの土地調査事業について、実証研究の結果、「日本帝国主義による農民の土地収奪」という認識は適切でなく、基本的には近代的土地所有権の設定であるという見解が一般的になっている。

この点については堀和生「朝鮮・韓国と台湾の工業化」(「東アジア経済の軌跡」東アジア地域研究会編 第六章2001年青木書店)参照。

(注2)「情報」について



開発経済学や労働経済学では、途上国や企業のインタビュー調査による情報の収集と分析を重視している(小池和男「仕事の経済学」1999年 東洋経済新報社刊など)。

ミクロ経済学の一分野として、「情報の経済学」という分野があるが、ここでいう「情報」とは取引される財の価格や品質に関するものである。

「情報の経済学」では、財の品質を買い手が事前に十分に把握出来ないことにより、「悪貨が良貨を駆逐する」ような現象が生じうることを主張する(アカロフ「ある理論経済学者のお話の本」 ハーベスト社刊)。

村上泰亮氏は、情報を「個々の主体の抱く世界イメージが、他の主体の世界イメージに影響を与えるとき、その世界イメージ」と定義し、「情報の経済学」で用いられている意味より広く把握することを主張した(村上泰亮「反古典の政治経済学要綱 来世紀のための覚書」第五章 中央公論社刊)。

そして情報を①第一種の情報-手段的・部分的情報②第二種の情報―本質的・総括的情報に区分した。

情報をこのように幅広く定義しそれが人間の相互作用に与える影響を考える必要性を考慮すると、第二種の情報は市場経済を支える制度や組織に大きな影響を与えるから、第二種の情報の流通、内容を分析するべきということになる。

例えば朝鮮労働党の「革命理論」は「第二種の情報」の一つであり、それは朝銀信用組合や朝鮮総聯の動向に大きな影響を与えている。

オーソドックスなマクロ経済学やミクロ経済学しか勉強していない人が朝鮮労働党の動向を無視して日本経済の安定的成長が可能であるような議論を展開するのは、人間社会に流通している情報を極めて狭くしか把握しない立場を「分析的」「実証的」などとみなしているからだ。

日本人を白昼公然と拉致し二十数年間も抑留している国家が我が国の平和と安全を脅かしていることがわからない「社会科学者」があまりにも多い。

これは、レーニンの「帝国主義論」のような立場で世界を把握している人が多いことと、経済の現状の決定要因として契約の施行を保証する制度や組織の存在、そして経営者や投資家の長期的な期待があるという視点が弱いからだ。

朝鮮労働党の行う凶悪行為が日韓の安全保障を大きく脅かし、経営者や投資家の抱く経済に関する長期的な期待に否定的な影響を与えるということがわからない。

期的な期待がどのように形成されるかという問題は、様々な学問を総合して検討せねばならないが、アメリカの経済学のみしか知らない人にはそうした議論は「分析的でない」と映り、「業績にならない」から何も考えないのである。


(注3)「共同体規範」について



朝鮮総聯にとって朝鮮労働党に従うことが「共同体規範」になっているので、総聯は朝鮮労働党に従うという解釈も考えられる。

「共同体規範」については、青木昌彦氏の「比較制度分析に向けて」(NTT出版2001年 第二章)で、江戸時代の日本における灌漑システムの建設、維持、利用が村落共同体による自立的な制御に委ねられていた例がモデル化されている。

灌漑システムは、一度建設されると技術的にはある農家をその灌漑システムの利用から排除することは不可能であるから、そうした労働を回避する村人が出るかもしれない。

しかし、灌漑システムの維持、建設労働に参加しない農家を他の面で社会的な恩恵を享受できないようにする「村八分」のメカニズムが存在することにより江戸時代の日本では灌漑システムの建設、維持において高い水準の協力が村人間で実現していた。

村人の間では、灌漑システムの建設に協力すること、建設に参加しなかった村人を排除して社会的な恩恵を享受できないようにすることという戦略の組み合わせが、サブゲーム完全均衡になっていたという議論である。 

朝鮮総聯の中でも、朝鮮労働党に従うこと、朝鮮労働党に従うならば恩恵を享受できるようにすること、そして朝鮮労働党に従わない総聯のメンバーを総聯社会の中から排除し、総聯社会における社会的な恩恵を享受できないようにするという戦略の組み合わせが、ゲームの均衡になっていると解釈できないだろうか。

また共産主義国では、共産党に従い革命運動、社会主義建設に従事すること、そして革命運動と社会主義建設に参加しないあるいはサボタージュする人々を排除、抑圧し、社会主義建設の成果を享受できないようにすることが、ゲームの均衡になっているといえないだろうか。この点に私は現在四苦八苦している。

このように制度を人々が演ずるゲームの均衡と考え、複数ある均衡のうちのどれが実現されるかについての「焦点」の役割を果たすのが、例えば文化であるという考え方がある。こうした発想で終身雇用制度の重要性、文化と経済理論の関係を分析した文献として、荒井一博「文化の経済学」(文春新書)がある。

2013年3月8日金曜日

日本人拉致問題と日本共産党の見解変更(平成13年2月執筆)

十二年前の拙稿より-再び左翼の生き方を考える-




以下は平成13年2月、ホームページに掲載した拙稿です。文中に「昨年」という記述がありますがこれは平成12年を意味しています。蓮池さんや地村さんらが帰国されたのが平成14年(2002年)秋です。拙稿執筆時は北朝鮮は日本人拉致を一切認めていませんでした。

左翼勢力とは一体何だったのかという問題について考えている方には、再読していただく価値があろうと考え、長文ですが再掲します。


日本人拉致問題と日本共産党の見解の変遷



北朝鮮により、横田めぐみさん、有本恵子さん、原敕晃さん、李恩恵こと田口八重子さんら、相当数の日本人が拉致、抑留されている。

抑留されている期間は人によって異なるが、拉致事件の多くは七十年代後半であるから、二十数年間抑留されている人が多数いることになる。

北朝鮮から韓国に亡命している元工作員らの証言によれば、拉致された日本人は平壌にある「金正日政治軍事大学」という工作員養成学校で、工作員の日本語教育係、日本人化教育係のような仕事を強制されているようだ。

神戸市に住んでいた田中実さんの場合は、翻訳の仕事をさせられているという証言もある。北朝鮮は日本人だけでなく、韓国人も拉致している。

拉致された韓国人の中には、「金正日政治軍事大学」で工作員の「韓国人化教育係」をさせられている方もいる旨、北朝鮮から韓国に亡命した元工作員や、韓国で逮捕された北朝鮮工作員が証言している。

北朝鮮による拉致事件は多数あるが、原敕晃さん
拉致事件と、大韓航空機爆破事件の犯人である金賢姫の教育係「李恩恵」こと田口八重子さんの件について簡単に説明しておこう。

以下の記述は、主に石高健次氏の著作「金正日の拉致指令」(朝日新聞社1996年刊)「これでもシラを切るのか北朝鮮」(光文社1997年刊)、朝日新聞の昭和60年6月28日付け記事「日本人ら致、身代わりスパイ」、金賢姫著「忘れられない女 李恩恵先生との二十ヶ月」(文藝春秋 1995年刊)、全富億氏著「北朝鮮の女スパイ」(講談社+α文庫 1997年刊)などに依拠している



原敕晁さん拉致事件
 


北朝鮮工作員辛光洙は、昭和48年7月に能登半島に不法侵入し、親族に北朝鮮帰国者がいる在日朝鮮人の協力を得ながら日本で対南工作(韓国で「南朝鮮革命」をおこすための工作活動)を続けていた。

昭和51年9月頃、辛光洙はいったん平壌に戻り、「招待所」という工作員の教育施設で朝鮮労働党の調査部の金という人物から「教育」「学習」を受けた。

その後辛は「金星政治軍事大学」(金正日政治軍事大学の前身)での外国語学習、「招待所」での通信機器や暗号技術などの訓練、日本人に成りすますための研究を行なった。

そして辛光洙は「日本人を拉致し、本人に成りすまして在日工作を続けよ」という旨の指令を金正日本人から三号庁舎という対南工作組織が入っている建物の中で受けた。

宮崎県日向市の五十鈴川河口から日本に不法侵入した辛光洙は、大阪に向かい、朝鮮総連系の民族学校で校長を務めたこともある金吉旭という人物に日本人拉致指令への協力を要求した。

金吉旭は東大阪市に住んでいる在日朝鮮人「李」(大阪の朝鮮商工会の関係者)に協力を依頼した。この東大阪在住の人には、北朝鮮に帰国した息子がおり、辛から息子の写真と手紙を見せられて日本人拉致に協力することになった。

彼が知り合いの在日朝鮮人「李」(仮名)(鶴橋で中華料理店を経営。朝鮮商工会の関係者)に相談したところ、李は自分のところで働いていた原敕晁さんの名前をあげたという。

原さんは独身で身寄りがないので、拉致して辛光洙が原さんに成り変っても気づく人が少ないであろうということから、原さんが拉致対象者に選ばれてしまったのだ。

辛光洙と一味は原さんに「良い職場を世話する」などと騙して宮崎県の青島海岸近くの「青島橘観光ホテル」まで連れて行った。そして青島海岸近くの公園に原さんを誘い出し、待ち構えていた北朝鮮工作員に原さんを引き渡した。

辛光洙はその後原さんの経歴、家族構成、過去の生活から中国料理法まで習得して完全に原さんに成りすまし、原さん名義の旅券、運転免許証などを取得した。辛は原さんの旅券でヨーロッパや東南アジアを動き回った。

東南アジア地域にも情報収集の拠点を築こうとしていたのであろう。辛光洙は昭和60年4月にソウルに乗り込んだ後、国家安全企画部により逮捕され、上述の件を自白した。国家安全企画部は六月二十八日、辛光洙逮捕を発表した。

辛光洙はその後服役していたが、釈放され、昨年「非転向長期囚」として北朝鮮に帰還した。辛が逮捕された頃、北朝鮮側は事件を全面的に否定していたが、辛光洙は北朝鮮に帰還したから、辛が北朝鮮関係者であることを北朝鮮当局は完全に認めたことになる。


李恩恵と田口八重子さんについて
 


金賢姫の日本語教育係「李恩恵」については、金賢姫の著作「いま、女として」(文藝春秋1991年刊)「忘れられない女 李恩恵先生との二十ヶ月」(文藝春秋 1995年刊)に詳しく述べられている。警察は、金賢姫が昭和63年1月の記者会見で「李恩恵」について言及した以後、彼女の供述をもとに失踪者で該当する女性をリストアップしていた。

しかし、すぐには李恩恵が失踪者の誰なのかわからなかった。二年後に札幌でアジア冬季競技大会が開かれた。この大会について耳にした際、金賢姫は札幌の空港の名前として「ちとせ」という言葉を聞き、李恩恵について思い出した。

李恩恵は金賢姫と雑談をしていた際、「かわいい日本名をつけてあげる」と言いながら、紙に名前を書いていった。李恩恵は「ちとせ」と書いた際、突然狼狽してあわててその名前を消したことがあった。

日本語教育係は工作員に本名を教えることを禁じられているので、狼狽した様子から考えて「ちとせ」が李恩恵の本名ではないかと金賢姫は察したのである。

警察はこの情報を知らされてそれまでリストにしていた女性のうちから「ちとせ」に関連のある人を探した。田口八重子さんは、池袋でホステスをしていたときに「ちとせ」という源氏名を用いていた。

金賢姫がすでに供述していた李恩恵の出生地、誕生日、家族関係、身体特徴、血液型、性格、仕草、癖、趣味、言葉遣い、嗜好など数十項目が田口さんのそれと一致した。

平成3年1月に警察は捜査員をソウルに派遣し、金賢姫に田口さんの写真を含む十五人の写真を見せた。金賢姫は田口さんの写真に迷うことなく「間違いなく李恩恵先生です」と述べた。

田口さんは昭和53年6月、高田馬場のベビーホテルに子供を残したまま消えていた。田口さんが具体的に、どのようにして北朝鮮に連れていかれたかはわかっていないが、「船で引っ張られた」旨金賢姫に語っている。



日本人拉致問題についての日本共産党の見解の変遷



日本共産党の日本人拉致問題に関する見解は、この問題が表面に出た当初と現在では、根本的に変わっている。「北朝鮮 覇権主義への反撃」(新日本出版社 1992年刊)で和田正名氏は次のように述べている。

「大韓航空機爆破事件の直接の犠牲者は南朝鮮の乗客です。その多くは中東への出稼ぎ労働者でした。日本もこのテロ事件に関連して、北朝鮮から重大な主権侵害を受けています。ひとつは、日本から誘拐され、金賢姫を『日本人』にする実習に関与したという『李恩恵』の存在です。

日本人が北朝鮮に誘拐されたと思われる事件はほかにも多くでています。その後、この『李恩恵』ではないかという埼玉県出身の三十五歳の女性が、日本の警察の捜査で浮かび上がりました。

この女性についての日本政府の照会についても、北朝鮮は調査を頭から拒否しています。このことはかえって疑惑を深めさせます。

もう一つは、犯行に偽造日本旅券が使用されたことです。金賢姫は、この偽造旅券を個人的に入手したのではなく、犯行指示とともに上級から受け取りました」

和田氏のこの論文から明らかなように、当時の日本共産党は北朝鮮が「李恩恵」をはじめとして何人も日本人を誘拐していることを確信していたのだ。和田氏が「李恩恵」の件を「主権の侵害」と断言していることを指摘しておこう。

当時の日本共産党最高幹部は、「李恩恵」と北朝鮮で呼ばれている三十五歳の「埼玉県出身の女性」が、北朝鮮により誘拐されていることを確信していたから主権の侵害」と断定したのである。この表現には、いささかの曖昧さもない。

ところが、不破哲三氏と緒方靖夫氏はかつて日本共産党が北朝鮮による日本人誘拐を主権侵害と主張していたことを無視して次のように述べている。


不破氏「いわゆる拉致問題の宣伝だけ聞いていると、百パーセント証明ずみの明白な事実があるのに、相手側はそれを認めようともしない、日本政府も弱腰で主張しきれない、そこが問題だ、と言った議論になりやすいのですが、実態はそうじゃないんですね」

緒方氏「そうなんです。外務当局に聞いても警察当局に聞いても、全体としては疑惑の段階であって、「七件十人」のうち物証のあるものは一つもない、と言っています」(「赤旗」日曜版平成13年1月14日号より)

緒方氏が「全体としては疑惑の段階」などと述べていることについて一言述べておこう。我が国の警察は殺人や誘拐の犯人を逮捕する際「~の疑い」で逮捕する。

「疑い」が「疑い」でなくなり犯人が犯行を行なったことを政府として断言できるのは裁判で判決が確定してからだ。

不破氏も緒方氏もこの程度のことは熟知しているはずだ。

警察や外務省は、十分な証拠があるから「北朝鮮により日本人が拉致されている疑いがある」と主張しているのだ。国会議員である不破氏や緒方氏がこの程度のことを理解しているのは当然であるが、念のため日本共産党の文献から論証しておこう。

日本共産党は昭和59年7月の北朝鮮による日本漁船(石川県のイカ釣り漁船第36八千代丸)銃撃事件当時は北朝鮮側を厳しく批判していた。「北朝鮮 覇権主義への反撃」で小林栄三氏は次のように述べている。

「軍事境界線そのものが国際法上不当なものですから、『不法侵入』はもともと成立しないのです が、仮に『不法侵入』とみられる行為があったとしても、それにたいする規制措置は、軍事的措置ではなく警察的措置という立場に徹し、人命尊重の立場をつらぬくのが近代国家の常識です。

それをいきなり発砲して乗員を死亡させるー同船は数十発の銃撃を受け、その銃撃は船長のいた操縦室にもっとも集中していますから狙い撃ちされたわけですーなどというのはまったく乱暴な人命軽視をしめすものです。

この事件を調査した海上保安庁の報告書も、『本件において、無防備な日本漁船に対し停船させるための手段として船橋部に直接銃撃を加えた結果、船長行泊貢を死にいたらしめたことは、過剰な措置であった疑いが強い』と結論しています」

(「北朝鮮 覇権主義への反撃」 新日本出版社刊p107)


小林栄三氏が明記しているように、海上保安庁は日本漁船銃撃、船長殺害事件のようなあまりにも北朝鮮の犯行が明白な事件でさえ「疑いが強い」と述べるのである。不破氏や緒方氏は当然小林氏の論文を読んでいるから、この点は熟知している。


緒方靖夫氏の奇妙な「論証」


 
緒方氏は外務当局や警察当局が「拉致事件は全体として疑惑の段階である」と述べていることをあげて拉致事件が疑惑の段階であることを実証した気分になっているようだ。緒方氏に問う。政府当局がある命題を主張したからその命題が真理であるということなら、消費税も新ガイドラインも必要であるということにならないか。

緒方氏が政府当局に「消費税の税率を上げて経済には良い影響がありましたか」と問えば当然政府当局は「良い影響がありました」と答えるであろう。

共産主義者が、「革命」の対象である政府当局の主張を用いて論証にかえるなどということは、「革命」を放棄しているようなものである。最近の日本共産党は、経済政策などでも「経済企画庁がこのように述べているから正しい」と主張している。

日本共産党の経済政策立案を担当する人は「革命家」の基本的立場とは何なのか、思考することが出来なくなっているのだろう。「政府当局が言っていることは正しい」なら「革命」も「私たちの日本改革」も不必要ではないか。

緒方氏らのこうした思考方式は、「自分で資料を調べて考え、判断する」ということが、日本共産党幹部に出来なくなっていることを意味している。

 不破氏らは北朝鮮による日本人拉致が根拠薄弱なものであるかのような議論を展開しているがこれは、拉致問題に関する事実認識ではなく、別の政治的な狙いがあるからだ。不破氏はさらに次のように述べている。

「日本の捜査の到達点自体がそういう段階なのに、これを証明ずみの事実であるかのように扱い、そういうものとして外交交渉のテーマにしたら、やがてゆきづまって日本側が身動きできなくなることは、目に見えています。

ですから、私は日本の捜査で到達した段階にふさわしい外交交渉をしなさい、と提案したのです。これは、言いかえれば、国際 的にも通用できる道理ある交渉を、ということでした」

不破氏は「日本政府は北朝鮮側に対し、『拉致した日本人を返せ』と要求するべきではない。単に行方不明者ということで調査をお願いすればよい」と主張したいのだ。

実際に平成11年12月の訪朝団(村山富市氏が団長。穀田恵二氏と緒方靖夫氏も参加)は北朝鮮側に対し「拉致した日本人を返せ」とは要求せず、被拉致日本人を単なる「行方不明者」と表現する文書を作成して「調査」を拉致した張本人である朝鮮労働党に「お願い」して戻ってきた。

日本人や韓国人の拉致を担当する部署は朝鮮労働党内には幾つかあるようだが、それらの最高責任者と目される金容淳が満面笑顔で受け入れる文書を村山富市氏、野中広務氏、穀田恵二氏、緒方靖夫氏らは作成したのだ。

このように、村山訪朝団は我が国の主権の侵害を「行方不明者問題」に矮小化してしまったから、金容淳はさぞかし独裁者金正日から誉められたことであろう。

拉致した張本人である朝鮮労働党の担当部署は、当然のことながら拉致した日本人や韓国人が現時点、どこでどうしているかを熟知している。

「行方不明者の調査」などを拉致した組織の大幹部に笑顔で「お願い」して拉致事件が解決するわけがない。

村山訪朝団が行なったことはまさに売国外交である。不破氏は日本政府に対し村山訪朝団と同様のことをやれと言いたいのであろうが、そのまま言うと批判されるから言い回しをかえて論点をぼかしているだけだ。

日本の北朝鮮外交のあり方に関しては、日本共産党は村山富市氏や野中広務氏と基本的に同じ立場である。

不破氏らのこうした主張は昨年12月1日の「労働新聞」掲載論文「過去清算がない関係改善を夢にも見てはならない」の論旨と基本的に一致している。「労働新聞」掲載論文は次のように述べている。

「我々には『拉致』という言葉自体があるはずもない。それは人間の自主性、人間を最も尊重し貴重なものとみなす我が国の社会主義制度と関連しているためである。『拉致』問題は日本の反動どもが不純な政治的目的を狙って好きなように作り上げた捏造品である」

「日本は『拉致問題』をもって今後も続けて騒げばせっかく進行している『行方不明者』調査自体が永久に空に飛んでいってしまうことを理解せねばならない」

不破氏ら日本共産党の今日の主張と朝鮮労働党の主張は基本的に一致している。さすがの不破氏も「反動どもの捏造品」とまでは言えないが、「証明ずみの事実ではない」と主張しているのだから五十歩百歩だ。

勿論不破氏らが、北朝鮮が実際には相当数の日本人を拉致し二十数年間も抑留していることを熟知していることは、前述した「北朝鮮 覇権主義への反撃」の和田氏の論文からも明らかである。

日頃「人権、人権」と騒ぎまくり、選挙の際には「国民の命と暮らしを守ります」と宣伝している日本共産党がなぜそこまで被拉致日本人の生命と人権、日本の国家主権を冒涜できるのだろうか。私は以下の三点をあげたい。


共産主義者は共産主義国を守る



第一に、共産主義者とは昔も今も、共産主義国を守るための言論と宣伝を第一の任務と認識しているのだということだ。かつて不破哲三氏は次のように主張した。

「政治経済の不均等発展の法則がとくにするどく作用する帝国主義の時代には、社会主義が世界的な規模で同時に勝利することができず、はじめに一カ国ないし数カ国で勝利し、こうして形成される二つの体制の闘争のなかで、さらに一連の新しい国々が帝国主義から離脱するという過程をとおって、世界的な規模での社会主義の勝利に到達する。

これが帝国主義の時代における世界革命が必然的にとる姿であり、十月革命以後の四十年の革命運動の歴史は世界革命がこうした形態で展開してきた歴史であるといってよい。

そしてその中では、はじめに勝利した社会主義国家の存立をまもりぬき、社会主義を建設し、そのあらゆる力量を強化することは、『世界革命の展開の基地』(スターリン)をまもることであり、それ自身世界革命を推進するためのもっとも重大な課題である」

(「平和と社会主義に敵対する『世界革命』論」 -現代トロツキズム批判ー 「前衛」1959年6月号掲載論文より)

不破氏がスターリンを引用し、「はじめに勝利した社会主義国」すなわちソ連の存立を守ることを「世界革命を推進するためのもっとも重大な課題である」と位置付けていることに注目したい。

このように、共産主義者には共産主義国を守るための言論と宣伝を「革命運動」「世界革命を推進するためのもっとも重大な課題」と把握する思考方式が定着している。

当時の日本共産党はソ連や北朝鮮などの共産主義国を「平和地域」「平和のとりで」と定義し、宣伝していた。昭和36年7月の第八回党大会で採択された日本共産党綱領は次のように述べている。

「帝国主義の侵略的本質はかわらず、帝国主義のたくらむ戦争の危険はいぜんとして人類をおびやかしている。

これにたいして、社会主義陣営は、民族独立を達成した諸国、中立諸国とともに世界人口の半分以上をしめる平和地域を形成し、平和と民族解放と社会進歩の全勢力と提携して、侵略戦争の防止と異なる社会体制をもつ諸国家の平和共存のために断固としてたたかっている」


綱領はソ連や中国、東欧、北朝鮮などの「社会主義陣営」を「平和地域」と規定している。これは当時の日本共産党の基本的立場であった。宮本顕治氏は当時、ソ連を「共産主義建設の偉大な不滅のとりで」「世界平和と反植民地主義のための人類の闘争の不滅の偉大なとりで」と規定していた。

(「ソ連邦共産党第二十一回臨時大会の意義と兄弟諸党との連帯の強化について」 「前衛」1959年5月号掲載論文より)

日本共産党員は共産主義者の集団なのだから、その最高指導者である不破氏が共産主義国である北朝鮮をあらゆる詭弁を用いて擁護するのは当然のことである。「今日の日本共産党は北朝鮮を社会主義国などとは把握していない。

北朝鮮を我が党が平和勢力などと把握していることなどありえない。荒唐無稽なことを言うな」と何も知らない若い共産党員は言うかもしれない。

では問おう。昨年11月の第22回大会決議は第四章で次のように述べている。

「朝鮮半島での南北首脳会談によって、アメリカがこれまで『ならず者国家』としてきた国が、新しい平和の流れの一方の当事国となるという変化もおこった」

第22回大会決議は北朝鮮を「新しい平和の流れの一方の当事国」と定義しているではないか。「新しい平和の流れの一方の当事国」と「平和勢力」はどう違うと言うのか。

そもそも朝鮮労働党は一貫して在韓米軍撤退を主張しているのだから、日本共産党の「平和理論」と完全に一致している。日本共産党の「平和理論」からは、朝鮮労働党や朝鮮総連は「平和勢力」と把握されるのが極めて当然のことなのである。

そして在韓米軍駐留が必要と主張してきた韓国の歴代政権は「戦争勢力」ということになる。日本共産党の「平和理論」からはそのように把握するしかない。

実際、昭和41年3月21日の朝鮮労働党と日本共産党の共同声明に次の記述がある。

「日本共産党は、アメリカ帝国主義と、それに追随する佐藤内閣の朝鮮民主主義人民共和国敵視政策を断固として非難し、祖国の自主統一をめざす朝鮮労働党の政策と朝鮮人民のたたかいに全面的な支持を表明する。

日本共産党はアメリカ帝国主義との対決の東方の最前線に立って、国の社会主義建設と防衛を意気たかくおしすすめている朝鮮労働党と朝鮮人民のたたかいが、平和と社会主義の事業にとって大きな貢献となっていることをみとめる」


共同声明で日本共産党は「朝鮮労働党をの政策と朝鮮人民のたたかい」に「全面的な支持」を表明し、さらに「平和と社会主義の事業にとって大きな貢献となっていること」をみとめたのだ。

この共同声明を、日本共産党は破棄したわけではないから、朝鮮労働党との関係が再度復活すれば、全ての日本共産党員は「国の自主統一をめざす朝鮮労働党の政策と朝鮮人民のたたかいに全面的な支持を表明する」ことになるであろう。

簡単に言えば「大韓民国などなくなってしまえ」と日本共産党員が主張するということである。

現実には、当時も今も北朝鮮は徹底した個人独裁のテロ国家である。朝鮮労働党は韓国を「アメリカ帝国主義の植民地」、韓国政府を「アメリカの傀儡」と規定し、打倒の対象にしている。

いわゆる「南朝鮮革命路線」を今日でも保持しているのだ。若い共産党員は何も知らないようだが、かつての日本共産党はこれを「全面的に支持」していたのである。

「大韓民国などなくなってしまえ」と日本共産党員が宣伝していたという解釈も可能である。

日本共産党が共産党であるかぎり、言葉の表現を多少変えることはあっても「日本革命」を放棄することはないであろう。

日本共産党の最高幹部が必要な場合は自民党の幹部と会って何か話をすることはあるだろうが、それで日本共産党が日本革命を放棄したなどとはいえない。日本共産党幹部が自民党幹部と会って話をするのは、何らかの意味でそれが「日本革命に貢献する」と判断しているからだ。

同様に、金正日が金大中大統領と会ったのは「南朝鮮革命」のためにそうした方が有利と判断したからだ。南北首脳会談の合意である「いかなる大国の介入にもよらず、自主的な統一をめざす」を、「傀儡が将軍様の威光でアメリカの撤退を認めた」と朝鮮労働党は国内で宣伝しているかもしれない。

「自主的な統一」の名目で武装ゲリラを侵入させ、それが戦争になっても、米国は「介入」できないという状況づくりを朝鮮労働党は策しているのかもしれない。

武装ゲリラの侵入をかつて朝鮮労働党は「南朝鮮人民の愛国闘争」と宣伝し、日本共産党もそれに同調した史実がある。

(昭和43年1月31日の「赤旗」記事 「米の軍事挑発で朝鮮をめぐる情勢緊迫」にそうした記述がある) 共産主義者は、多少の紆余曲折はあっても、最後にはスターリンの教典に従って共産主義国を守るために尽力するものなのである。


共産主義者は資本主義国家の強化を敵視し、共産主義国の核軍拡
を歓迎する-上田耕一郎氏はソ連の核兵器を「平和の武器」と断言した-



第二に、共産主義者は昔も今も、資本主義国家の強化を徹底して敵視し、あらゆる詭弁を用いて国家の権限の強化に反対するものなのだ。共産主義者にとって、高い経済成長を達成した資本主義国家は「帝国主義」である。

資本主義国家の政権は人民を支配し抑圧して苦しめている凶悪な存在「帝国主義者」であるから、「革命」「打倒」の対象である。

「革命」「打倒」の対象である日本政府の外交姿勢が共産主義国である北朝鮮による日本人拉致問題を「口実」にして強化されてしまえば、「日本革命」が困難になるから、日本共産党はあらゆる詭弁を弄して被拉致日本人の原状回復を訴える世論を鎮静化させようとしているのだ。

共産主義理論では、「帝国主義国」の軍備は専ら侵略のためのものということになっている。

従って共産主義者は資本主義国家の軍備全廃を叫ぶものなのだ。日本共産党は、北朝鮮の核開発や生物兵器、化学兵器、約十万人といわれる北朝鮮の特殊部隊の危険性について完全に沈黙している。

共産党員にこうした話をしても「北朝鮮の核開発には反対だ」と呟くだけで、具体的にどうやって北朝鮮に核開発中止と保有しているであろう核兵器、生物兵器、化学兵器の廃棄をさせるかについては沈黙してしまう。

共産主義者は、共産主義国の軍事力を「味方の軍事力」であり、「平和に貢献する」といった発想で長年把握してきたから、中国や北朝鮮による核軍拡の危険性が実感できないのだ。わかりやすい例をあげておこう。かつて上田耕一郎氏は次のように述べてソ連の核軍拡を擁護した。

「すべての武器、すべての軍事力、すべての強力がそうであるように、核兵器もまたそれをにぎるものが帝国主義権力であるかそれとも実現された人民権力としての社会主義であるかによって、その階級的役割は根本的に変化する。

アメリカ帝国主義が核兵器を独占していた時代、核兵器はただ帝国主義的侵略戦争と抑圧の武器であった。

ソ連が最初に原爆実験に成功したとき、すべての平和活動家が世界戦争防止の事業の成功に新しい確信をいだきえたように、社会主義の手にある核兵器はただ侵略戦争の防止、社会主義と民主主義の防衛のための平和の武器である」「戦争の『不可避性』と『可避性』について」 「マルクス主義と平和運動」大月書店1965年刊 p56より)

上田氏によれば、ソ連が最初に原爆実験に成功したとき、「すべての平和活動家」が「世界戦争防止の事業の成功に新しい確信をいだきえた」そうだ。真に結構なことである。

このように、共産主義者は、共産主義国の核軍事力を「味方の軍事力」であり、「平和に貢献する」といった発想で長年把握してきた。これは今日でも大同小異である。日本共産党の第22回大会決議は第三章で次のように述べている。

「北朝鮮との国交正常化にたいし、植民地支配を違法行為としてきっぱりと謝罪し、それにたいする補償をおこなう立場にたつべきである。そのことは両国の紛争問題についても正しい解決の道を開く力になる」金正日軍事独裁政権と国交を樹立し、「植民地支配の謝罪」などという名目で大金を払ってしまえば、真っ先に核軍拡に使われるだけだ。

被拉致日本人は独裁者金正日により「消されて」しまうかもしれない。金正日は、「邪魔者は消せ」といった発想で無数の北朝鮮国民を粛清してきた独裁者なのだ。

勿論、不破氏らは金正日が、朝鮮労働党の幹部や北朝鮮帰国者を強制収容所に送り込んで粛清してきた史実を熟知しているが、それを現時点で下部の党員や「赤旗」読者に公表すると、「そんな危険な政権がすぐ隣国にあるなら、日本もそれなりの軍事力をもっておかないと大変なことになる」という議論が下部の党員や「赤旗」読者の中から出てきてしまい、収拾がつかなくなるから、朝鮮労働党による蛮行の歴史には沈黙しているのだ。

「赤旗」が北朝鮮の強制収容所や北朝鮮帰国者の悲劇、中国東北部などに逃げている北朝鮮難民の人権問題などについて完全に沈黙しているのは、北朝鮮に日本から大金を回し、共産主義国である北朝鮮の核軍拡を継続させ、金正日軍事独裁政権による「南朝鮮革命」の実現に協力しようという不破氏ら最高幹部の意思の反映とも解釈できよう。

不破氏は昭和41年3月の朝鮮労働党との共同声明をこうした形で「実践」しているのだ。
第22回大会決議は北朝鮮による日本人拉致問題を単なる「紛争問題」とし、日本が被害者であり北朝鮮が加害者であることを隠蔽しようとしている。

共産主義者には、共産主義国による資本主義国の主権侵害やテロを「革命運動の一環」と把握して肯定的に評価する体質が根付いているから、共産主義国が資本主義国の国民を拉致したり殺害しても涼しい顔をして傍観する。

この点は、そのときの国民の世論により多少の紆余曲折はあるが、最後は共産主義国を守るべく行動する。共産主義国による蛮行の後、多少時間が経過し、多くの日本国民の中で共産主義国の蛮行が話題にならなくなれば、共産主義者は史実を直ちに隠蔽する。

北朝鮮による日本人への暴行は拉致事件だけではない。

北朝鮮による日本漁船銃撃で日本人が射殺されているのだから、日本政府は殺害された漁船員の家族への謝罪と補償を北朝鮮側に求めるべきだ。

「村山訪朝団」はこの件では北朝鮮側に何も要求しなかった。これでは、村山富市氏、野中広務氏と日本共産党員は朝鮮労働党には日本人を拉致、殺害する権利があると考えている」と考えざるをえない。

「そんなことはない」と村山氏、野中氏と日本共産党員は怒るかもしれない。日本共産党員の場合、「北朝鮮 覇権主義への反撃」などを論拠にして怒るかもしれない。

そうした方は、穀田恵二氏、緒方靖夫氏が日本漁船銃撃と船長殺害事件に対する謝罪と補償を、訪朝時に求めなかったし、今日不破氏が「日朝交渉において、政府は北朝鮮側に日本漁船銃撃と船長殺害事件に対する謝罪と補償を北朝鮮側に求めるべきだ」と主張していない理由を説明するべきだ。

この件についての私の「回答」は極めて簡単である。

共産主義者は、資本主義国家の強化を敵視する。不破氏や緒方氏の態度に疑問を持つ日本共産党員は、未だ真の共産主義者の境地に達していないのである。


共産主義者は「指導者の権威」を死守する



共産主義者にとって、最高指導者の権威を守ることは、「革命運動」を遂行するための至上任務である。共産主義者の「革命理論」を要約すると次のようになる。

「革命を行い、生産手段を社会化すれば貧富の格差、不況、資源の浪費、失業などの社会問題は全て解決できる。革命を行なうのは労働者階級であるが、彼らを指導するのは共産主義理論を体得した共産党である。共産党の最高指導者は支配階級との階級闘争によって鍛えぬかれ、科学的探究により真理を体得した偉人である。

従って偉人の言うことをすべて聞いて、それを宣伝すれば革命が達成できる。

偉人に対しては支配階級とそのイデオローグによりあらゆる攻撃がなされるから、共産党員は偉人である最高指導者の権威を断固守らねばならない」

日本共産党には自らへの批判者を徹底して敵視する体質がある。特に批判者が日本共産党の職員、ないしは日本共産党系の組織に勤めている人、あるいは以前に勤めていた人の場合、過酷な「査問」や「赤旗」紙面での呼び捨てによる誹謗、中傷を加えてきた。

これは、上述のような「革命理論」に基づき彼らが「日本革命のためには我が党の最高指導者に対するいかなる誹謗も許してはならない」と考えているからだ。共産主義者には誹謗と批判の区別をつけることが出来ない。

不破氏らが、「拉致事件は証明ずみではない」旨主張して拉致日本人の生命と人権、日本の国家主権を冒涜する第三の理由は、北朝鮮による日本人拉致事件の背景にある北朝鮮帰国者問題の真実が下部の党員や支持者に広がらないようにするためだ。

前述したように、在日朝鮮人が日本人拉致という凶悪行為に手を貸してしまった一つの理由は、親族に悲惨な境遇に陥った北朝鮮帰国者がいるからだ。

かつて宮本顕治氏らが北朝鮮を全面的に美化したこと、北朝鮮やソ連についてありえぬ幻想を抱いて北朝鮮に渡った元在日朝鮮人が強制収容所に連行されるなど悲惨な境遇に陥ったこと等が下部の党員や支持者に知られれば、宮本顕治氏ら最高指導部の権威が地に落ちてしまう。

何も知らない若い共産党員や民主青年同盟員は以下のような疑問を抱くことだろう。

「ソ連や北朝鮮がそんな素晴らしい国であるわけがないのに、宮本さんはなんでそんな途方もないことを言ったのだろうか」

こうした疑問に、年配の共産党員が答えることは真に困難である。共産党員は通常、「真理は一挙に認識できるものではない」などと主張して誤魔化すが、今日「北朝鮮がテロ国家である」という「真理」が認識できたのなら、テロ国家のもとで悲惨な境遇に陥った人々の人権問題を必死に訴えねばならないことになる。

そしてそれが出来なかった宮本顕治氏らに対する不信感、軽蔑感が日本共産党員の中でも広まっていってしまう。指導者の権威が地に落ちる。

これを防ぐためには、北朝鮮の真実について完全に沈黙するしかない。従って「赤旗」は北朝鮮の強制収容所や粛清などの真実を決して報道しない。

北朝鮮帰国者が北朝鮮への帰国後、「内心の自由」を完全に奪われ、極度の栄養失調生活を余儀なくされたこと、相当数の北朝鮮帰国者が行方不明になっていることなどは今日では多少関連文献を調べればすぐにわかることなのだが、「赤旗」は完全に沈黙している。

帰国事業の頃、「赤旗」が北朝鮮を全面的に美化した史実を考慮すれば、北朝鮮の真実に関する「赤旗」のこうした沈黙はジャーナリズムとしてあるまじき行為だ。共産主義者はこれを前述の「最高指導者の権威を守る」という発想で合理化する。

「日本革命」のためなら、どんなに重大な人権侵害であっても徹底して無視するのが、共産主義者の本質なのだ。「そんなことはない。『赤旗』はこれまで、社会主義国の問題点であっても報道するべき点は報道してきた」と共産党員の諸君は言うかもしれない。

では問おう。

北朝鮮の強制収容所、中国東北部を放浪している北朝鮮難民(脱北者という)の悲惨な実態、北朝鮮帰国者が「内心の自由」を完全に奪われて極度の栄養失調生活を余儀なくされたこと、相当数の北朝鮮帰国者が行方不明になっていることなどはなぜ「報道するべき点」ではないのか。

日本共産党員と民主青年同盟員は、朝鮮労働党による蛮行の歴史を直視するべきだ。


不破氏ら日本共産党最高幹部の言動と「理論」の背景にあるスターリン主義



分析していくと、日本共産党最高幹部の行動と彼らが依拠している「理論」には、スターリンの呪縛が未だに色濃くあることがよくわかる。

前述の不破氏の論文「平和と社会主義に敵対する『世界革命』論」 -現代トロツキズム批判ー 「前衛」1959年6月号掲載)はスターリンのソ連に対する規定「世界革命の展開の基地」を引用してソ連を守ることの必要性を強調していた。

不破氏のこうした「理論」と日本人拉致国家北朝鮮を擁護する言動は、スターリンの以下のような規定に依拠していると解釈できよう。

「ありとあらゆるグループ、潮流、党を区別する、そしてそれらの革命性や反革命性を点検する一つの問題がある。この問題とは、今日では、ソ同盟の防衛の問題、つまり帝国主義からの攻撃にたいしてソ同盟を絶対的、無条件に擁護する問題である。

なんの留保もなしに、無条件に、公然と、そして誠実に、軍事上の秘密なしに、ソ同盟を擁護し、防衛する用意のあるもの、それこそ革命家である。なぜならソ同盟は世界で最初の、社会主義を建設しつつあるプロレタリア的、革命国家だからである。

留保なしに、動揺することなく、無条件にソ同盟を擁護する覚悟のあるもの、それこそ国際主義者である。なぜならソ同盟は世界革命運動の根拠地であり、ソ同盟を擁護することなしには、この革命運動を前進させることはできないからである。

なぜならソ同盟を考慮せずに、ソ同盟に反対して世界の革命運動をまもろうとおもうものは、革命に逆行するものであり、かならず革命の敵の陣営に転落するからである」

(スターリン全集 第十巻 大月書店1954年刊 p64 ソ同盟共産党(ボ)中央委員会・中央統制委員会合同総会 より)

不破氏が日本人拉致国家北朝鮮を擁護する根源的理由は、スターリンのこの規定の呪縛、そしてその背景にある階級闘争理論、史的唯物論なのである。

史的唯物論の立場から見れば、米帝国主義と日本の独占資本に対抗する金正日軍事独裁政権は「平和勢力」「進歩勢力」「革命の基地」であり、これに反対して「革命運動をまもろうとおもうものは、革命に逆行するものであり、かならず革命の敵の陣営に転落する」からである。

橋本敦氏が、昭和63年3月に日本人拉致問題を国会で取り上げていながらも、前述の不破氏の見解に従っているのは、日本人拉致問題の真実を追究すると「かならず革命の敵の陣営に転落する」と悟ったからであろう。

真の共産主義者とはこのように行動するのだ。

今日の若い共産党員と民主青年同盟員は、真の共産主義者の境地を、若き時期の不破氏の前述の論文とそれが依拠しているスターリン理論、不破氏や緒方氏、橋本氏の行動から、自らの生き方の問題として真剣に考えるべきだ。

 


追記



韓国における北朝鮮問題の代表的研究機関である民族統一研究院が発行している「北韓人権白書 2001年版」によれば、1955年以後、北朝鮮に拉致、誘拐後抑留され続けている韓国人は487人である。なんと昨年1月にも中国延辺で牧師さんが拉致されているようだ。

拉致された韓国人の中には、「離散家族」として、平壌に訪ねてきた家族と会うことが出来た方もいる。去る2月15日の毎日新聞記事「『拉致』被害 傷跡深く」を以下、紹介しておこう。

昨年11月の第二回相互訪問の際、姜ヒグンさんは母親の金三礼さんと会うことが出来た。姜さんは87年1月、黄海で操業中に北朝鮮の警備艇に拿捕され、そのまま拉致されてしまった。姜さんは母親と約14年ぶりに再会した際「金正日将軍様、万歳」と叫んだという。

姜さんは母親に対し、「将軍様のおかげで立派に暮らしている」「自分でここ(北朝鮮)での暮らしを選んだ。拉致じゃない」と繰り返したそうだ。この相互訪問を速報した平壌放送は、「(姜ヒグン氏は)不法侵入し、情報活動を行って拿捕された漁船の元甲板長で、ここでの人生を自ら選択した」と報じ、拉致問題は存在しないことを強調した。

物事を筋道を立てて考えていこうとする人なら、姜さんが上のように発言せざるを得ない理由が理解できると思う。姜さんが勤務していた「東進27号」は船ごと乗組員全員拉致され、そのまま抑留されている。韓国の普通の漁船が情報活動を行って不法侵入することなどありえない。

北朝鮮の場合は、漁船を装った工作船、工作員などを日本や韓国に何度も不法侵入させている。
北朝鮮では住民は金正日を常に礼賛せねばならない。これが出来ない人はいつ強制収容所に連行されてもおかしくない。実際、拉致された韓国人の中には、強制収容所に連行された可能性が濃厚な方もいる。

「南北首脳会談は歴史的だった。朝鮮半島には平和への気運がみなぎっている」などと信じ込んでいる人は、北朝鮮に拉致、抑留されている韓国人と強制収容所の真実を直視するべきだ。こうした意味でも、拉致問題と強制収容所の人権問題は、密接不可分であることを訴えたい。