2017年7月19日水曜日

バラン・スウィージ―著、小原敬士訳「独占資本」(昭和42年岩波書店。原題はMonopoly Capital)第七章より思う

「軍国主義と征服はマルクス主義理論にとってまったく無縁のものである。そして、社会主義社会というものは、帝国主義諸国の大資本家のように、他の国や国民を隷属させる政策によって利益を売る階級や集団をふくんでいない」(同書p225-226より抜粋)。


バラン(Baran)とスウィージー(Sweezy)は、米国の代表的なマルクス主義経済学者でした。

昭和40年代から50年代にマルクス主義経済学を学んだ方なら、彼らの著書「独占資本」を思い出す方は少なくないはずです。

「団塊の世代」くらいで左翼運動に参加した方々にはベトナム戦争のイメージから、今でも米国を極悪国家、戦争国家と認識している方がいます。

上記は、レーニンの「帝国主義論」以来、マルクス主義経済学者が共有するテーゼともいうべきものです。

マルクス主義の影響を受けて、種々の社会運動に参加している「市民派」や左派ジャーナリストは、このテーゼに依拠し、社会運動と言論活動を行っています。

最近では、レーニン「帝国主義論」を真剣に読んでいる左翼人士は少なくなりました。

現実と大きくかい離したイメージに依拠して米国と日本や韓国、欧州諸国が戦争を起こす側であり、ロシア、中国と北朝鮮や途上国は基本的に平和国家だと信じているジャーナリストや運動家は少なくない。

人は、世界を言葉で把握し、世界の中での自分の位置と役割を見出し、自分も言葉を発してそれを確認します。

日米は戦争国家だ!平和憲法を守れ!という左翼の宣伝文句に慣れ、自分でも連呼するうちに脳裏に焼き付いてしまうと拭い去るのは難しいのでしょう。

このテーゼは、ソ連や中国、北朝鮮の歴史を少しでも調べて考えれば暴論、愚論でしかない。バランとスウィージーがなぜこんなテーゼを信じたのか不可解です。

この本が米国で出版された昭和41年頃では、旧ソ連や中国の数々の侵略行為や、大量餓死の史実が米国、日本ではあまり知られていなかった。

この本を今日評価するなら、それも考慮せねばならないでしょう。

バラン、スウィージーの戦争論はカウツキーの「超帝国主義論」に近い


1929年の世界恐慌の時期、計画経済で運営されているソ連は着実に経済成長を達成したと信じている学者は少なくなかった

バランとスウィージーは、レーニン「帝国主義論」のように「金融資本」という概念を使っていません。

戦争についての二人の立場は、レーニンが徹底批判したカウツキーのそれに近いと考えられます。

レーニンによれば、カウツキーは帝国主義の政策をその経済から切り離し、併合を金融資本の「好んで用いる」政策であると説明しました。

バラン、スウィージーによれば、米国が第二次大戦以後急速に軍事力を拡大させたのは、競争相手としての社会主義体制の台頭が資本主義的指導国家としての米国の軍事的必要を高めたからです(同書p223-224)。

回りくどい言い方ですが、要はソ連や中国の軍事力に対抗し、彼らを封じ込めるため、米国は軍事力を拡大させたという話です。

資本主義体制の生き残りのための軍拡という視点ですから、ソ連や中国と何らかの妥協ができれば軍拡は不要ということになります。

これはカウツキーの主張した「超帝国主義」の理論に近い。

「経済的余剰の増大」について


私見ではこの本の経済理論面での最大の理論的特徴は「経済的余剰の増大」と、「独占資本主義は停滞する」という主張です。

経済的余剰の簡単な定義は、ある社会が生産するものと、それを生産するに要する生産費との差額です(同書p13)。社会全体での利潤といえるでしょう。

以下、彼らの主張を簡単な経済理論で考えてみます。

「余剰の増大」を後期ケインズ派理論のモデルで解釈すると、投資増ないしは貯蓄率低下


バランとスウィージーによれば独占資本主義の下では大会社の価格・生産費政策の性格のために余剰は絶対的にも、総産出高に対する比率としても増加していきます。

余剰は消費、投資と浪費により吸収されます(p101)。この記述を、後期ケインズ派の理論で解釈すると次のようになります。

貿易を無視するとこの関係は、労働者が賃金所得(実質賃金w×雇用量N)を全額消費し、資本家は利潤の一部を消費(浪費)すると想定することにより得られます。

簡単化のため、費用を賃金支払いのみとします。利潤Πは総産出高Y―賃金支払いと定義できます。

利潤からの消費割合×利潤が資本家の消費(浪費)です。総産出高Yは均衡において、資本家の消費需要(浪費)cΠ+労働者の消費需要wN+投資需要Iです。数式では次になります。
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Y=cΠ+wN+I  Π=Y-wN 

内生変数は総産出高Yと利潤Πです。実質賃金w、雇用量N、投資I、消費性向cは外生変数です。

少し計算すると、(1-c)Π=I、Π=I/(1-c)という式が得られます。1-cは貯蓄率sです。

両辺を社会全体の資本存在量Kで除すると、貯蓄率×利潤/資本存在量=資本蓄積率(I/K)、sr=gという後期ケインズ派(Post Keynesian)がマクロ経済を説明するためによく用いる式が得られます。

Sweezyは、このような式を想定していたのかもしれません。産出高は次になります。

Y=I/(1-c)+wN

この簡単な経済モデルで考えると、余剰(社会全体の利潤率)の増加は投資(資本蓄積率)の増加ないしは貯蓄性向の低下によると解釈できます。

資本主義経済の特徴は、投資水準の動向により産出高とそれに比例した雇用量の変動が生じる、ということを強調するモデルになっています。

雇用量Nについては、例えば生産量の一定倍になると定式化すれば内生変数にできます。

モデルの問題点と「独占資本主義は停滞する」


バランとスウィージーは第二章で、独占資本主義では生産費が下降傾向にあり、それが利潤を高めていると主張しています。このモデルではそれが反映されていません。

実質賃金が外生変数になっている点がこのモデルの大きな問題点です。このモデルでは、企業経営者、資本家や労働者の行動様式が把握されていない。

長期の経済状態をこのモデルで語るのも無理があります。このモデルでは生産性、技術の変化と産出高の関係が把握されていません。

バランとスウィージーの主張「独占資本主義は停滞する」は、余剰の増加という主張と矛盾するように思えてなりません。

余剰が増大する、即ち投資が継続してなされるなら独占資本主義での持続的な経済成長が達成されるでしょう。

この点については、改めてじっくり検討したいと考えています。

北朝鮮の核ミサイル攻撃により日本は「不況」になる―生産関数の下方移動


ともあれ、ロシア、中国と北朝鮮は日本を侵略する意思と能力を備えた戦争国家です。

特に北朝鮮は最近、「朝鮮中央通信」で繰り返し日本に対する核ミサイル攻撃を示唆しています。

実際に北朝鮮により核ミサイル攻撃が日本に対してなされたら、甚大な被害がでてしまいます。

経済学の言葉でこれを語れば、生産関数の大幅な下方移動、あるいは完全雇用線が大きく左に移動することになります。

「日本独占資本主義の停滞」どころではありえません。

とんでもない「不況」になってしまうことが明らかなのに、経済学者がなぜ北朝鮮の核ミサイル攻撃にどう日本が対応、反撃するべきかを議論しないのは不可解です。

北朝鮮は途上国ですから、高成長を達成した日本に侵攻してくることなどありえないと考えているのでしょうか。

むしろ、途上国だから豊かだが無防備な日本の資源収奪のために侵攻してくると考えるべきではないでしょうか?

H. Grossmanのように戦争をモデル化すればそういう結論が出るはずです。

残念ですが、冒頭に指摘したマルクス主義のテーゼを信じている学者、知識人が相当数いるようです。



2017年7月3日月曜日

レーニン「青年同盟の任務」(1920年10月2日。「レーニン全集」第31巻、大月書店刊行)より思う、

「もし農民が自分の地所に尻をおろして、よぶんの穀物、すなわち彼自身にも彼の家畜にも必要でない穀物をわがものとしているのに、ほかの人々はみな穀物をもっていないとすれば、その農民はすでに搾取者に変わっているのである。


彼の手もとにのこる穀物が多ければ多いほど、彼にはますます有利であり、ほかのものは飢えようとかわまない、ということになる。」(「レーニン全集」第31巻, p290より抜粋)。


上記のごとくレーニンは農民の商業活動を搾取とみなし、徹底的に禁止せねばならないと青年同盟に説きました。

農民は自分と家畜が食べる分量の穀物以外は、全て国家に供出せねばならない、という話です。

穀物を隠して手元に残し、「担ぎ屋」のような商人に売る農民は、レーニンによれば「搾取者」です。

「青年同盟の任務」でレーニンは、共産主義社会を建設するための若者の心構えを説いています。

私は30数年前にこの論文を読みました。

当時の私は、レーニンの「農民が穀物を売ると搾取者になる」論の異様さに気づかなかった。

何となく読み飛ばしてしまっていたのです。レーニンの言説に間違いなんてあろうはずがない、と思い込んでいたようです。

ペテログラードの社会秩序崩壊とレーニンの穀物徴発指令


「青年同盟の任務」をレーニンが書いた時期、モスクワやペテログラードでは物資の生産と流通網が大打撃を受け、庶民は飢餓状態になっていました。

ロシア革命期のペテログラードについては、長谷川毅「ロシア革命下 ペトログラードの市民生活」(中公新書)がとても参考になります。

この本は、ロシア革命の中でペテログラードの市民がどんな生活をしていたかを、当時のペテログラードで発行されていた新聞の社会面に注目して描き出しています。

この本によれば二月革命以降ペテログラードの社会秩序は急激に崩壊し、食糧問題、住宅問題、衛生問題が生じ、犯罪が急激に増加しました。

衛生環境悪化により発疹チフスが蔓延しました。

ロシア革命の過程で、公共の秩序と市民の安全を保証する公的な暴力機関が崩壊してしまったのです。

「現在ペトログラードには約4万人の犯罪者が活躍していると想定されるが、この犯罪分子に対処する刑事の数はたったの80人である」(同書p306より。1918年3月10日)。

大東亜戦争後の日本でも、都会の闇市を暴力団関係者が仕切っていた時期がありました。ロシア革命の頃のペトログラードはもっと酷い状況だったのです。

社会秩序の崩壊に直面したレーニンとボリシェヴィキは何としても、都市住民に食糧を供給せねばならなかった。

そのためには農民から穀物を強制徴発するしかない、とレーニンは判断しました。

確かに、それができなければ、ソヴェト権力は崩壊してしまったでしょう。

来年の播種のための穀物すら国家に取り上げられてしまうなら、農民は再来年生きられない


しかし農民が自分で汗水流して収穫した農産物の殆どを国家に供出せねばならないという指令が国家から出たら、まず農民は穀物をどこかに隠そうとするでしょう。

そもそも自分と家畜の食用分しか穀物を手元に残せないのなら、来年の播種のための穀物も取り上げられてしまうことになります。

レーニンの指令は、農民の相当な反発を引き起こしたことは疑いの余地もない。

都市で食糧が不足しているのなら、都市に穀物を運べばひと儲けできます。こういう時期には、「担ぎ屋」のような商人が沢山出てきます。

「担ぎ屋」により都市への物資の流通網が回復し、都市住民の生活が維持されます。日本でも、戦後の一時期に闇市が繁盛していた時期がありました。

この程度のことは、難しい経済理論を知らなくても社会の動きに関する現実的な感覚を持っている人ならすぐにわかりそうなものです。

スターリンによる「階級としてのクラーク(富農)撲滅」はレーニン「青年同盟の任務」の路線


レーニンは「青年同盟の任務」執筆の約1年後、新経済政策(ネップ、New Economic Policy)を提起し、農民の「穀物投機」を認めます。

「戦時共産主義」による経済崩壊から脱却するためには、「搾取の自由」を部分的に認めるしかないのです。

新経済政策により経済は回復しますが、商業活動により富裕になった商人層が出現します。彼らはネップマンと呼ばれました。

農民の中にも、富裕になった層も形成されます。彼らはクラーク(富農)と呼ばれました。

レーニンの死後、指導者となったスターリンがネップマンやクラーク(富農)を社会主義の敵と考えたのは当然です。

「青年同盟の任務」から学んだボリシェヴィキの若者たちも、ネップマンやクラーク(富農)を徹底抑圧せねばならないと考えたに違いありません。

スターリンが断行した「富農」の徹底弾圧は、レーニンの教えに依拠していたからこそ、当時のボリシェヴィキに支持されたのです。

レーニンは「青年同盟の任務」で次のように述べていました。

「資本家とブルジョアジーの権力をふたたび復活させないためには、小商売根性を許してはならず、個々人がほかの人々の犠牲で金もうけをすることのないようにしなければならず、勤労者はプロレタリアートと結束して、共産主義社会を建設せねばならない。


共産主義的青年の同盟と組織との基本的な任務の主要な特質は、この点にある」


農民が豊かになり、穀物を「担ぎ屋」に売り富裕化したら新たな階級ができてしまいます。

レーニンは「小商売根性を許すな」「他人の犠牲で金儲けをさせるな」旨繰り返し主張し、それが共産主義青年同盟の基本的な任務だとまで断言したのです。

当時のソ連共産党員らはレーニンのこの言葉をよく覚えていたことでしょう。

クラーク(富農)を徹底的に抑圧、弾圧したスターリンはレーニンのよき弟子でした。

ソ連共産党員が、スターリンをレーニンの後継者と認識したのは、「青年同盟の任務」をスターリンが忠実に実践したことも大きな要因です。