2017年8月5日土曜日

スウィージー著「革命後の社会」(Paul M. Sweezy、昭和55年TBSブリタニカ刊行。伊藤誠訳)より思う。

「実際のところ階級社会のすべての矛盾のうち、もっとも根本的なものは、富の真の生産者が、何をいかにして生産し、それをどんな用途にあてるかということについて、ほとんどまったく管理権を剥奪されていることであるが、その根本的矛盾がなお存続し、ある意味では深刻化しているのである。」(同書p238より抜粋)。


Paul M. Sweezyはソ連をこのように把握していたのです。「富の真の生産者」とは労働者の事でしょう。

労働者が生産に関する管理権を剥奪されている事は根本的矛盾である、という主張です。

今年はロシア革命100周年です。ソ連は崩壊しましたが、ソ連社会主義とは一体何だったのでしょうか?

この問題は、共産主義理論と運動をどのように考えるかという問題であり、社会科学の大問題です。

現代日本は、中国共産党と朝鮮労働党という共産主義運動の流れに属する集団により侵略、支配される危険に直面しています。

金正恩は繰り返し、「朝鮮中央通信」で日本への核攻撃の可能性を示唆しています。北朝鮮の連続核攻撃を受けたら、日本社会は存続できるでしょうか。

日本の社会科学者、知識人が自由な言論活動を続けたいと願うのなら、中国共産党と朝鮮労働党の源流ともいうべきソ連をどう把握するかという研究と議論をもっとすべきでしょう。

Sweezyはユーゴ型の「労働者管理社会主義」を想定していた?


この本の著者Paul M. Sweezyは、米国でマルクス主義の立場から研究と評論活動に長年従事した学者でした。

この本の第十章は、昭和54年10月に東京大学経済学部で話したことに基づくものだとSweezyは序章で述べています(p19)。

上記を普通に読めば、「社会主義は労働者管理経済である」という結論になるとしか私には思えません。ユーゴスラヴィア社会主義です。

Sweezyなら、労働者管理企業(Labor Managed Firm、LMEと言われる)に関する経済学の諸論文、例えば青木昌彦教授のそれを知っていたのではないでしょうか?

SweezyがLMEやユーゴスラヴィア社会主義をどう考えていたのかは不明です。

私見では、労働者管理企業は中小零細企業として資本主義経済で存在しえます。規模が大きくなれば株式会社となり、普通の資本主義企業と大差ない。

青木昌彦教授は、労働者管理企業の理論を、終身雇用制と企業内組合、年功序列賃金を特徴とする日本企業を想定して考案したと考えられます。

Sweezyがユーゴ社会主義や日本をどう考えていたか、興味深いですが、それは別の文献によるしかありません。以下、本書第十章のSweezyの議論を紹介します。

Sweezyの資本主義論―三つの特徴のうち、ソ連は2つを欠いている


Sweezyによれば、資本主義の経済的基礎の特徴は次の3つです(同書p224)。

(その1)私的資本家による生産手段の私有

(その2)多数の競争的あるいは潜在的に競争的な単位への全社会資本の分散。

(その3)生産手段を所有せず、生活手段を得るために資本家に労働力を売らざるを得ない労働者による財とサービスの生産。

Sweezyによれば、ソ連ではこの三つの特徴のうち、(その1)(その2)が当てはまりません。大部分の生産手段が国家によって所有され、各経済単位は相互に競争をしていない。

(その3)はソ連でも保持されていますが、ソ連の労働者は極端な事情がなければ管理者により解雇されることがありません。

就業保障(tenure)がある点にSweezyは着目しています。

特権層と第二経済-闇経済では企業家精神が育まれている


Sweezyはソ連社会の特徴として、次の二点を指摘しています(同書p228)。

第一は、特権者集団にだけ開かれている特別な店があり、一般大衆が入手できない財をそこで買えることです。

第二は、特権者集団は住居、教育、保健のようなサービスも一般大衆とは異なる水準で享受できることです。

第三に、「第二経済」、闇経済の存在です。例えば、個人用や家庭用の建築、修理作業、医師の内職での治療、非合法に生産ないしは盗品の売買などです。

Sweezyは第二経済が私的な企業精神に強力な刺激を与え、社会の全てのレベルにおける汚職の肥沃な土壌になっていると指摘しています(同書p229)。

第二経済の存在により企業家精神が育まれていると、Sweezyは考えたのでしょう。師のJ.A. SchumpeterをSweezyは思い出していたのでしょうか。

企業家精神が汚職、闇経済でも育まれるとは面白い。現代の中国や北朝鮮でも同様の事実があるはずです。中国では、共産党幹部の一族が闇経済で巨額の資産蓄積をしている。

Sweezyのソ連論「革命後の社会」とは―前資本主義社会に似ている


Sweezyによれば、ソビエト社会の管理的地位を占める諸個人の集団は、本質的に自己再生産的な支配階級として次第に形成されました。

新しい支配階級は、権力と特権を資本の所有、管理からではなく国家とその多様な抑圧機構の直接的管理から引き出しています。

「革命後の社会」は剰余生産物の利用が政治的闘争過程、政治過程の中心的焦点になっています。従って「革命後の社会」は前資本主義的諸社会に近い。

新しい支配階級は、労働者階級を非政治化し、労働者階級から自己組織と自己表現の全てを取り上げ、労働者階級を国家の道具にしました。

ソ連の労働者階級は、資本主義的能率刺激制度により駆り立てられることはありませんが、夢中で働くことに興味を失くしています。

労働生産性が向上していないということでしょう。「革命後の社会」は停滞期に入っているようだとSweezyは本書の最後で述べています。

マフィア資本主義は闇経済から育っていった


労働者から自由な思考と言論を奪ってしまえば、生産性が向上するはずもない。

しかしSweezyが本書で主張していたように、闇経済で企業家精神を保持するようになった人々はいたのです。

マフィアです。

ソ連、ロシアがマフィア資本主義化していくことまで、Sweezyが予見できたとは思えませんが、闇経済の重要性をソ連崩壊前から指摘していたのはさすがです。

ロシア革命後100年経過すると、ロシアはマフィア資本主義になっていた。

歴史の皮肉のように思えますが、ロシア革命を、内戦の時期も含めて考えればそうなってもおかしくない。

当時のロシアには暴力と犯罪が蔓延していました。

トロツキーの著作を読み込んでいたSweezyは、H. G. Wellsの「影の中のロシア」(Russia in the Shadows)を読んでいたのでしょうか。

この本を読んでいれば、レーニンの時代のソ連の惨状を推し量ることができたはずです。

「宇宙戦争」著者は、想像力だけでなく社会と人間の観察力も備えていたのです。

「新しい支配階級」は侵略戦争を断行しうるのでは―左翼知識人に問う


Sweezyはソ連が「革命後の社会」であり、新しい支配階級が労働者階級を抑圧していると考えたのですが、それならば新しい支配階級が侵略戦争を断行しうるとみるべきでしょう。

Sweezyはレーニンの「帝国主義論」をあまり評価していなかったように思えます。Sweezyが高く評価していた労働者の就業保証は無くなりました。

Sweezyの著作を若い頃読み影響を受けたマルクス経済学者や、左翼知識人に私はお尋ねしたい。

Sweezyの著作は、ベトナム戦争の頃の米国や日本でかなり読まれたはずです。欧州の左翼にも、Sweezyの著作を熱心に読んだ方は少なくないでしょう。

ベトナム戦争の頃、韓国は朴正熙政権でした。この時期に、韓国の知識人や左翼がSweezyの著作を読むのは困難だったでしょう。

80年代の韓国なら何とか読めたのではないでしょうか。

自国の労働者階級を抑圧している「新しい支配階級」は、さらなる抑圧対象と剰余生産物を求めて侵略戦争を断行しうると見るべきではないですか?









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