2015年6月7日日曜日

唯川恵「100万回の言い訳」(平成18年新潮文庫)を読みました。

38歳の津久見結子は「子供をつくろう」と思った。夫婦仲はよい方だと思っているが、区切りのようなものが欲しくなっていた。結子はデザイン事務所に勤めている。


若い頃は、自分には無限の可能性があるように思えているものです。人生は長い。いろいろやってみよう。新しいことに挑戦しよう。そんな気構えを持つべきです。

人生での時間制約を考える必要のない若者には、何より挑戦精神が必要です。しかしいつまでも若くいられるはずがない。40歳近くなると、自分にできること、できないことがあることに気付く。

そのとき、何をどこまでやるか、それは可能なのか?いろいろ迷うものです。迷いつつも、日々の暮らしを何とか続けていかねばならない。

汗みどろの暮らしをいろいろ迷いながら続けて、気がついたら50代になっている。それで良いのかもしれません。

40歳にさしかかったDINKsが、自分たちのあり方をふりかえるとき


子供なしで共稼ぎをしている夫婦をDINKs(Double Incom No Kids)と呼びます。DINKsは経済的には恵まれているでしょうから、周囲の人々の羨望の的になっているかもしれない。

しかし、40歳を迎えるようになったDINKsは、それまでの自分の生き方を変えようといろいろもがくのかもしれません。

この小説の魅力は、表面では恵まれた暮らしをしているが夫婦ともに不倫をしているDINKsの心の動きを、性愛との関係で描き出していることでしょう。

不倫の真っ只中にいる主人公たちの様々な言い訳や心中のつぶやきが良く描かれている。

火災をきっかけに別居した二人はそれぞれ不倫関係に


小説の主人公は、DINKsの津久見結子と夫の津久見士郎です。二人は子供をつくろうとしていたのですが、ちょうどその日に住んでいるマンションの上の部屋での火災が起きてしまいます。

これをきっかけに、二人は別居します。この時点で、二人の間には大きな隙間ができていたのでしょう。結婚して七年経てば、倦怠期が当たり前でしょう。

士郎は結子に対して性的欲望を感じられなくなっていましたが、愛情がなくなったわけではありません。別居後、二人は愛人を持つようになります。

結子の愛人は9歳下の後輩社員でデザイナーの島原陸人。士郎の愛人はマンションの隣に住む30代前半の人妻、梶井許子です。

士郎の行きつけの店で働いている21歳のシングル・マザー加西志木子は、結子や許子と対照的です。お世辞にも美人とはいえない志木子は、4歳の男の子を女手一つで育てている。

お互い不倫をしていた夫婦は、あうんの呼吸でそれから目をそらすことができるのか


結子と士郎の不倫関係はそれぞれさっぱりと、終わっていきます。志木子は、着実に生きる道を見出す。以下、登場人物の言動への疑問を書き留めておきます。

結子と士郎はお互いの言動に不審なものを感じ取っているのですが、不倫関係がそれぞれ同時進行していたなら、あうんの呼吸でそれから目をそらすことができるでしょうか?

結子の愛人、陸人がなぜ結子に惹かれたのかが私にはなかなかわかりませんでしたが、p494で陸人が自ら語っていました。結子の女性としての魅力だけではなかったのです。

陸人には、学生時代から頭が上がらなかった友人を見返してやりたいという気持ちがあったのです。その友人も結子を狙っていました。

その友人を思い切り殴ったことで、陸人は気持ちの区切りがついたのです。しかし、結子は同時に気持ちの整理ができるでしょうか?陸人への想いを簡単に絶てるのでしょうか?

士郎は、自分の人生で何をやろうとしているのでしょうか?許子との関係はただの遊びだったようです。志木子の生き方から、自分を見つめ直しても良さそうなものです。

士郎と結子の間に、子供は生まれるでしょうか?結子は子供をもちたいと一度は思ったのでしょうが、放棄してしまった感があります。

この夫婦は上手くやっていけるでしょうか?どちらも難しそうに私には思えます。結子なら、また出逢いがありそうです。






0 件のコメント:

コメントを投稿