石川達三(1905-1985)の小説を思い起こさせる。Parisで暮らす30代夫婦らの愛情物語。
作家石川達三と言っても、若い方は御存知ないでしょうが、私はこの映画を観て、三十数年前に読んだ石川達三の小説を思い出しました。
結婚生活を長年支障なく維持しているように見える初老の夫婦にも、愛憎劇があったことを、母親が娘に打ち明ける話です。題名は「泥にまみれて」だったでしょうか?
理想の愛とは何か。生涯、一人を愛し続けることができるのか。様々な事情からそれができなくなったとき、別れるか。耐え忍ぶか。暫く耐え、事態の推移をみて判断するべきか。
難しい判断になります。答えは当人たちにしか出しようがない。
妻は夫に愛人がいても許容し続けられるのか―「愛している」とは?
この映画の主人公は、Charlotte Gainsbourg演じるGabrielleと、Yvan Attal演じるVincentの若夫婦です。二人は恐らく30代前半くらいで、7歳の男の子がいます。
Vincentは車の販売員、Gabrielleは不動産仲介業者です。フランス語には「共働き」に該当する言葉はないそうです。夫婦で働き、子育ても協力して生活していくのが当たり前なのでしょう。
多少の摩擦はありつつも二人は良く協力し合い、愛し合っています。傍目には幸せそのものの若夫婦ですが、Vincentにはスポーツマッサージ師の愛人がいます。
Gabrielleは女の直感から、愛人の存在を嗅ぎ付けます。
愛人がレストランで母親に自分の現状を相談しているとき、たまたま横にGabrielleがいました。愛人はVincentの妻を間近でみて衝撃を受けます。
Gabrielleは愛人の存在について友人と相談していたのです。こんな偶然は殆どありえないでしょうけれど、面白い場面です。Vincentの「愛している」という言葉が、軽く思えてしまいます。
映画では他に、Vincentの二人の親友の愛情関係も描かれています。口うるさい妻と喧嘩ばかりしている好人物と、独身でプレーボーイだが恋人が妊娠し喜ぶ人物です。
三人は時折食事やスポーツを一緒にし、辛口の忠告もする良き仲間同士です。
この夫婦は今後どうなるのか―子はかすがい、は現代フランス女性にありうるのか
VincentとGabrielleの夫婦仲が今後どうなるかは、結論が出ていません。Vincentは愛人と別れる決意はできていない。GabrielleはVincentに愛人との関係清算を迫るわけでもない。
それどころか、最後にGabrielleにも愛人ができてしまうことを示唆するような結末になっています。余韻を残して、観客に考えさせようとしているのでしょう。
石川達三の小説で母親が愛娘に出した答えは、妻という地位の有利さを生かして、愛人から夫を取り戻せ、というものだったように記憶しています。
現代の若いフランス女性が、そんな答えを易々と受け入れるとは思えません。子はかすがい、という考え方は現代フランス女性にあるのでしょうか。
二人は別れて、それぞれ愛人と暮らして行く可能性が高いように思いました。7歳の息子はGabrielleが引き取るのでしょう。現代フランスには継母、継父のもとで育つ子供が多いようです。
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