フランスは不法移民を今後どう扱うのか?現代フランス人が真剣に議論せねばならない問題を扱っている映画。
この映画は、喜劇調ですが深刻な問題提起をしています。
私は正確な数値を知らないのですが、フランスに長期滞在している不法移民は百万人を越えているのではないでしょうか。
旧フランス領から来た人々は、母国ではフランス語で子供の頃から教育を受けています。フランス語は母国語同然です。
それならば、フランスに来れば普通の企業でホワイト・カラーとして雇用されそうですが、それは極めて困難です。
アリスは若いサンバの光るような瞳と鍛え上げられた肉体に惹かれた
Senegalから来たこの映画の主人公とサンバの叔父のように、料理人になれればかなり良いほうでしょう。サンバは調理場で夜の皿洗いを10年ほどやっていました。
役所からの書類が届かず、サンバは不法移民の収容施設に連行されてしまいます。そこでGainsbourg演じるアリスと会います。
アリスは長年の仕事疲れから「燃え尽き症候群」になってしまった女性です。Burn-outと言っていました。これは英語ですが、仏語にもあるのでしょうか。
長年独身で一人暮らしでは、気疲れからBurn-out状態になってしまってもおかしくない。アリスは睡眠も十分取れないようです。
そんなアリスが、きらきら光るような瞳と鍛え上げられた体をもつ若いサンバに惹かれるのも当然かもしれません。
不法移民の視点から見た現代フランス社会
この映画は、不法移民の視点からフランス社会を描き出しています。不法移民は、3K労働に従事せざるを得ない。
不法移民ですから、闇で偽造滞在許可証や偽造就労許可証を入手するしかない。日雇いの仕事ですら、就労許可証を提示せねばならないようです。
それでは、不法移民が可哀想だから就労許可取得を簡便化すれば良いかというと、そう単純ではない。
フランス語圏からの不法移民がさらに増えてしまう。一攫千金の夢をもって不法に入国してくる人が激増してしまう。
アフリカからの移民には、激怒癖がある人が多いのでしょうか?この映画にはサンバが何度か激昂するシーンがありましたが、そんなことで怒ってもどうにもならないと感じました。
不法移民が厳しい肉体労働に従事しているから、建設業や廃棄物処理産業が成立している
ゴミの分別や高層ビルの窓拭き、建設現場での労働などの厳しい肉体労働に従事している不法移民はいくらでもいる。
逆に言えば、不法移民が相当数いるからこそ、3K労働に従事する人がいて建設業やさ廃棄物処理産業が成立しているともいえる。
不法移民の中には、フランス社会の縁の下の力もちのような役割を果たしている方もいます。
しかし不法移民は常に強制送還の不安にさらされていますから、仲間内での喧嘩、暴力沙汰が起きやすくなる。普通のフランス人から見れば、直ちに強制送還すべきだという話になりやすい。
先が見えなければ、心が荒んでいってしまいます。不法移民はフランス社会に反感をもってしまいかねません。
Marine Le Penの国民戦線はなぜ徐々に伸びているか-背景に不法移民の存在
この対立を埋めるのは簡単ではない。この映画では描かれていませんが、不法移民がイスラム教徒だと、カトリックのフランスの伝統と衝突するような事態も生じてしまいかねない。
Marine Le Penの国民戦線がフランス国民の支持を徐々に増やしていますが、これには理由がある。単なる扇動の結果ではなさそうです。
カトリックのフランス社会を守れ、というフランス人は少なくない。同時に教育の場では宗教を持ち出してはならないという世俗主義の考え方も強い。これはイスラム教と矛盾しうる。
治安の悪化や失業増加は全て移民のせいだ、と言うのは不適切ですが。
料理人の職を解雇されてしまったサンバの叔父が死んだような目つきをしていたのが印象に残ります。叔父さんは、誰よりもサンバを大事にしてくれた。
叔父さんは1956年生まれのようですから、まだ60歳にならないはずですが苦労のためか老け込んでいました。叔父さんの証明書も、ひょっとしたら偽造かもしれません。
不法移民の間では、絆があることも描かれています。叔父さんとサンバの相棒のブラジル人(実はブラジル人ではない)は絆の象徴です。
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