2016年10月16日日曜日

H. G. ウェルズ「影のなかのロシア」(みすず書房昭和53年刊行。Russia in the Shadows by H. G. Wells, 1920)より再び思う

「私は、広く支持された教育的なキャンペインによって、現存の資本主義組織をコレクティヴィズム的な世界組織へと教化していくことができる、と信じている。これに反してレーニンは、不可避的な階級闘争、再建への序曲としての資本主義秩序の崩壊、プロレタリアート独裁等々といったマルクス主義のドグマを何年来信奉しているのである。

だから彼の主張は、近代の資本主義が癒し難いほど略奪的、浪費的で、教えることなどできないものであり、打倒されるまで人類の遺産を愚かしく無目的に搾取しつづけるであろう、...それは本質的に奪い合いなのだから不可避的に戦争をひきおこすであろう、ということであった。」(同書p103-104より抜粋)。


英国のSF作家ウェルズは1920年十月にソ連を訪れ、モスクワでレーニンと会いました。ウェルズはそのときの経緯と中身を、同書で明らかにしました。

上記はレーニンとウェルズの討論内容の一部です。

ウェルズは、自らを漸進的なコレクティヴィストと位置づけ、マルクス主義者であるレーニンと大きく異なっていると述べています。

戦争はなぜ起きるか―ウェルズ「資本主義的社会組織から起きるのではない」


ウェルズによれば、戦争は国家主義的帝国主義から起きるのであり、資本主義的社会組織から起きるのではありません(同書p104-105)。

これに対しレーニンは資本主義はつねに奪い合うものであり、コレクティビズム的な活動の正反対であるから社会的、世界的な統一に発展することはできないと述べました。

ウェルズの主張は、ドイツ社会民主党の理論家カウツキーの「超帝国主義論」ないしは後の構造改革論者に近い。

「構造改革論」とは、昔の社会党の江田三郎氏や神奈川県知事になった長洲一二氏らが唱えたマルクス主義の理論です。

私見では現在の日本共産党の帝国主義論も、ウェルズの主張に接近しています。現在の日本共産党の革命理論も、「構造改革論」と似ています。

吉良よし子議員、池内さおり議員ら若い共産党員は、「構造改革論」を御存知でしょうか。若き不破哲三氏、上田耕一郎氏は「構造改革論」を「修正主義」と徹底批判しました。

両氏の「マルクス主義と現代イデオロギ―」(大月書店刊行)を読んで頂きたいものです。

戦争はなぜ生じるか―開戦時と非開戦時それぞれで得られる「利益」の大小


私見では戦争、組織的暴力は開戦した場合に得られる「利益」と、開戦しなかった場合に得られる「利益」を国家や社会組織の支配者が比較し、前者が後者より大きいと見なせば生じます。

「利益」の大きさは、開戦時に勝利できる確率に依存する。「利益」は勝利時に得られる物的、人的資源や「名誉」に依存する。

社会の中で資本主義企業の占める位置は戦争の勃発とはほとんど関係はありません。

レーニンとボリシェヴィキは「帝国主義戦争を内乱に転化せよ」と主張し内戦を起こしましたが、彼らは「独占資本」とは直接関係がない。

レーニンがドイツ政府から資金援助を受けていたという疑惑はありますが。

独占資本、大企業が存在しない時期にも、欧州諸国は植民地争奪戦を繰り返しました。

中国史は、北方遊牧民族との抗争の歴史でもあります。匈奴や突厥、鮮卑、モンゴルや満州族には独占企業は存在しませんでした。その頃の漢族にも、独占企業は存在しない。

北朝鮮が韓国に侵攻したのは、スターリンと毛沢東の承認を受け、金日成は勝利できると予想したからです。

ウェルズの戦争論のほうが、レーニンの「戦争の根源は独占資本主義だ」論より歴史の現実にふさわしい見方でした。

しかしウェルズも、その後のソ連が勢力圏を広めるべく、東欧や朝鮮半島に侵攻することは予想できなかったでしょう。

ウェルズは西側が「トラスト」(企業合同)を結成してボリシェヴィキと交易すべきと主張した


ウェルズは、前に本ブログで紹介したようにロシア革命後のペテルブルグとモスクワの現実をよく見ていました。

ウェルズによれば、ボリシェヴィキはロシアで私有財産と私的な商取引を便宜的でなく正義の問題として抑圧しました。

ロシア全土には、西欧の商業生活の慣習・慣例を尊重するような商人、商業団体は残っていません(同書p111-112)。

実際には、闇屋がかなり残っていたはずですが。闇屋が農民から穀物を買い上げ、都市に運んでいたからこそ、生き延びることができた都市住民は少なくなかった。

ボリシェヴィキは私企業家たちを海賊のようにみなしていたそうです。

この時期のレーニンとボリシェヴィキは私企業家を敵視していました。商業活動を禁止する「戦時共産主義」策は、市場取引を抑圧し住民生活を悪化させました。

ウェルズによれば、ロシアの共産主義者は買い物や市場での売買を禁止したとき、店やマーケットをどう扱うかを実際に考えていませんでした(同書p36)。

ボリシェヴィキは資本主義を打倒しさえすれば、貨幣の使用と商売を中止すれば、そして社会的差別を一切廃止すれば、それだけで一種の至福千年王国がやってくると信じている狂信家たちです(同書p68)。

これでは、社会が荒廃し経済がどん底に落ちていくのは当然です。狂信家に国家の運営、特に軍と警察を任せたらとんでもない凶行をやりかねない。

ウェルズは絶望的な経済破壊に直面しているロシアを救うために、西側諸国がトラスト(企業連合)を形成してボリシェヴィキと交易することを主張しています。

それでもウェルズは、ボリシェヴィキのロシアが新しい何かを作り出すと期待していたのです。


ウェルズの期待は裏切られ、社会主義は商人の集合体になった―共産党員が権限を使って金もうけをする現代中国


その期待は、富農の一掃とロシア正教会の徹底弾圧を指令し断行したレーニンにより裏切られました。

レーニンは「新経済政策」により戦時共産主義の失敗を認めました。

農民が生産した穀物を一定割合の現物税を支払った後、自由に処分して良いなら簡単に「富農」になれます。闇市が公然化し小商業ができるなら、金儲けをする人はいくらでも出ます。

皆が富農になって金もうけをしてよいなら、社会主義とは商人の集合体でしかない。

金もうけを正当化したら、共産党員と言えども金が一番大事という流れになります。

スターリンは新経済政策により金もうけをした「ネップマン」を敵視し、再び富農を一掃しました。富農一掃は、レーニン主義です。

権力から生じる権限の配分により金もうけをする共産党員は「商人」です。新経済政策の帰結は共産党員の商人化です。

不破哲三氏らの主張する「社会主義を目指すレーニンの探求」が新経済政策であるなら、中国共産党と朝鮮労働党がそれを立派に継承しています。

金正日は39号室という外貨稼ぎ(金山や石炭、鉄鋼石生産部門も含まれる)、外貨管理部門を持っていました。「経済の管制高地」を金正日が掌握していたのです。まさに新経済政策です。















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