「金正日は党財政経理部から独立した『39号室』『38号室』という党経済を管理する独自の部署を設置して、金正日の直接指導下で党に属する銀行をはじめとした経済機関と企業所を管理しているのだ。
『39号室』の指導のもと、道・市・郡に至るまで、忠誠心を表す外貨稼ぎの課題を与え、輸出品になるものを探し出し集めさせて、外貨を稼いで金正日に上納させるようにしている」(黄長ヨップ『北朝鮮の真実と虚偽』1999年刊行カッパブックス、p137より抜粋)。
黄長ヨップ氏は、朝鮮労働党中央委員会の書記だった方です。北朝鮮では、思想、イデオロギー担当でした。私見では、金正日より金日成に近い方でした。
金正日の党経済(宮廷経済、首領経済)の存在については、多くの脱北者が39号室という部署が外貨集めを主に担当していると話していることから研究者には知られていました。
労働党高位幹部だった脱北者がこれを認めたのは初めてです。
その後、韓国でも金正日の党経済について、脱北者へのインタビュー調査に主に依拠した研究が進みました。
金正日の党経済・宮廷経済の構成について
そのうちの一つが、ソンチェギ他「北韓経済危機10年と軍備増強能力」(KIDA Press、2003年。韓国国防研究院発行)です。
この本のp27に、金正日の宮廷経済と軍経済に関する表「北韓経済の優先部門の構成」が掲載されていますので、紹介します。
下記です。
区分
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重要組織・機構
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経済単位
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人力数
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基本機能
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宮廷経済
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国防委・党と傘下機関・護衛司令部・国家安全部・人民保安省と傘下機関、その他権力機関
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党財政経理部・39号室・38号室・金融機関(銀行)・貿易会社と傘下の工場、企業所・農場、牧場約150-200個
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約50-60万
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体制維持・金正日個人の維持・対南事業・そのほか戦略事業
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軍事経済
区分
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重要組織・機構
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経済単位
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人力数
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基本機能
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第二経済
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第二経済委員会・第二自然科学院・特殊研究所
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軍需工場及び軍の部品職場、約300-500個・傘下の貿易会社
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軍事経済全体で約150万
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武器・装備の研究開発と生産
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軍経済
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人民武力省と傘下の部隊・機関
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自前の軍需工場・貿易企業及び傘下の工場、企業所・小農場と牧場約100個・部隊による自前の副業経営、多数の工場、農場
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軍需品生産と運用、軍の運営維持
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北朝鮮の社会経済は、脱北者や在日本朝鮮人総連合会関係者の話をよく聞き、金日成や金正日の著作、労働新聞などと照らし合わせてしていけば、徐々に把握しできます。
脱北者の話は、人によって異なる点もあります。思いこみ、記憶違いなど、様々な原因が考えられます。
それでも、北朝鮮の社会経済について貴重な情報を提供していることは間違いない。
金正日の党経済・宮廷経済の規模について
この本の刊行は15年前ですから、現在とは異なっているでしょうが、宮廷経済の外貨規模に関する以下の記述は貴重です(同書p52より抜粋)。御参考までに。
宮廷経済の外貨規模は次のようにして推定した。まず、北朝鮮経済では殆ど全ての外貨と金は金正日と宮廷経済の管轄下に流入されると、脱北者たちは述べている。
これを正しいとする。
1989年の外貨調達規模は正常の輸出額16億ドルプラス武器輸出4・2億ドル、そのほか闇での獲得が4億ドル(援助の資金、献金、麻薬密売等)で約25億ドル。
1999年の外貨規模は、次のように推定できる。
正常の輸出額5・1億ドルプラス武器輸出1・4億ドル、そのほか闇での獲得が3、4億ドル(金剛山観光資金が約1・5憶ドルとその他)で合計10億ドル。
宮廷経済が獲得した外貨だけでなく、国内の部門が生産した額も含めると、1989年の宮廷経済の総生産額は75億ドル。
1989年の北朝鮮経済全体の生産が500億ドルなので、宮廷経済は15%を占める。
同様に1999年の宮廷経済規模は52億ドル。
1999年の北朝鮮経済全体の生産が223億ドルなので、宮廷経済は23%を占める。
これらはいずれも推定値ですが、金正日が外貨稼ぎを自らの奢侈生活維持、核軍拡と南朝鮮革命のための資金源として重視していたことを裏付けています。
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