2018年3月25日日曜日

金正日の党経済・宮廷経済について考える3―ジョン・グワンミン「朝鮮労働党の『党経済』に関する一考察」(雑誌「時代精神」2008年秋号掲載論考)より

「党経済は首領制国家に固有の所有関係である。首領制所有の最も重要な特徴は、私的性格と公的性格が混在していることである。この点では首領制所有は家産国家的所有に近い」(本論文の4「党経済の性格」より抜粋)。


金正日の党経済・宮廷経済をどう把握するべきか。興味深い論文をみつけたので、紹介します。韓国の雑誌「時代精神」に掲載されたものです。

ジョン・グワンミン氏は首領制所有、家産国家的所有と規定しています。

家産国家的所有という概念は、池上淳氏の著作「財政学―現代財政システムの総合的解明」(岩波書店)に依拠している旨、本論文は注26で明記しています。

家産国家とは、封建社会での貴族や、絶対主義時代の国王が自らの家族の財産と、国家の財産を分離せずに占有し、権力を経済力で住民を臣下とし、服従させる国家体制です。

荒っぽく言えば、金正日の党経済・宮廷経済は戦国武将の領土経営に近い。

日本史の研究者から怒られそうですけれど。

戦国武将が領地経営により得た収入は自分と家族の生活維持に充当されますが、同時にその収入で領土内の河川工事などをせねばならない場合もあった。

武田信玄の信玄堤(川の治水と堤防工事)は有名です。

金正日の党経済を首領による私的所有制度とみる理由


ジョン・グワンミン氏は、首領により国有財産が私的に所有されていると主張する理由について、次をあげています。

第一に、金父子と家族の外国財調達のため、党経済が動員されている。これを担当する部署は、主席宮財政経理部(73号室)あるいは39号室という部署です。

第二に党経済の機構により、金正日の秘密資金が調達、管理されています。党経済部門が得た外貨はいつでも、金正日の秘密資金に動員できる。

労働党組織指導部が、海外からの秘密資金管理のネットワークを動かしている。

第三に、金正日の執務室には金庫室があり、そこには5つもの大型金庫がある。

第四に、党経済が「贈り物政治」の財源になっている。金正日はしばしば、党、軍、政務の高位幹部に高価なベンツを贈る。奢侈財提供の財源が党経済である。

第五に、金正日が金正男に党経済の管理をさせようとした形跡がある。これは首領の一家による党経済の継承を意味している。

金正日の党経済の公的性格について


北朝鮮では、党の資金は革命資金と呼ばれています。革命資金は例えば、鶏工場の近代化や、大同江ビール工場建設、平壌市の補修工事などにも使われました。

このような面では、経済開発資金にもなっているので党経済が稼ぐ資金は皆、金正日の個人財産になっているわけではない。

金正日に捧げる資金を革命資金という場合もありますが、在日本朝鮮人総連合会関係者の間では忠誠金という呼び名もあります。

朝鮮商工人がいろいろな工場を「合弁」という契約で建設すると結局、39号室関係者に設備や機械を収奪されてしまう場合があったようです。

朝鮮労働党は契約を朝鮮商工人との契約を守らない。

張龍雲氏の「朝鮮総連工作員」(小学館文庫)には、金山の開発がとん挫した話がでてきます。

党経済は人民を搾取する部門だが、所属する人は外部世界の情報を得られる―金正男と張成澤


ジョン・グワンミン氏は、金正日の党経済は人民の搾取の上に成り立っているシステムであると述べています。

同時に、党経済は北朝鮮経済の各部門で、最も市場志向的に開発された部門でもある。

党経済所属の各企業は、外貨を得るために諸外国の企業と競争せねばならない。

今日では中国や東南アジア、ロシアは勿論中東などでも、党経済所属の企業が外貨稼ぎに奔走しています。

党経済に長年所属する人の中には、外部世界の情報に通暁し金正日、金正恩に反感を抱く人物が必ず出てくる。

金正日の長男、金正男氏はそんな人物でした。晩年の張成澤も、そういう境地だったのかもしれません。

韓国の元左翼は若い頃、日本のマルクス経済学の本を読んでいる


ところで、本論文が池上惇京都大学名誉教授の著書に依拠しているのは面白い。

池上教授はマルクス主義の財政学、国家独占資本主義に関する著作で著名な方です。

「人間発達の経済学」という立場から資本論を読む、という論文も執筆されていました。私は若いころ、これらを多少読みました。

韓国の元左翼で、現在は北朝鮮の体制を強く批判する方々の中には、若いころ日本のマルクス経済学や社会運動の本を読んだ方が少なくない。

雑誌「時代精神」と北朝鮮民主化ネットワークに参加している方々にはそんな運動家がいるはずです。

日本のマルクス経済学者は北朝鮮の現状をどう解釈しているのでしょうか。見解をお尋ねしたいものです。









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