「北朝鮮の経済は、内閣が管轄する人民経済と、金正日が直接統制し管理する宮廷経済に区分できる」(金光進氏の論文「金正日の宮廷経済と人民経済の破壊」、雑誌「時代精神」2008年夏号掲載より抜粋)。
北朝鮮の経済をどのように把握すべきなのでしょうか。
この問題について、日本共産党の大門みきし参議院議員は「大門ゼミ」と題した番組で、韓国銀行などが推計している国民総所得や、米国務省筋が推計している軍事費から論じていました。
推計値によれば北朝鮮の国民総所得は三重県の県民所得と大差ない。
海外での出稼ぎ労働者からの送金額が多いので、国内総生産よりは国民総所得で考えるべき旨、大門議員は説明していました。軍事費は約6000億円。
こうした把握も一理ありますが、国民総所得の大きさと軍事費だけでは北朝鮮経済の異様さを十分把握できていない。
大門議員のアシスタントをしていたマリリンという方が、国民総所得の相当大きな部分が軍事費に配分されていることに驚いていました。
マリリンさんの直感は適切です。(軍事費/国民総所得)という比率で経済の特徴を把握するのも大事です。
金正日の「党経済」(奢侈生活を支える部門と軍事部門)は外貨稼ぎを主任務とする
藤本健二氏の著作「金正日の料理人」は金正日一家の豪華な生活を暴露しました。
同時に北朝鮮は、核実験、弾道ミサイル実験を繰り返しています。
脱北者金光進氏によれば、金正日の奢侈生活と軍拡を支える財源を作り出しているのは計画経済当局ではありません。
これは金正日が直接統制し管理する、39号室ともいわれる「外貨稼ぎ」部門です。
金光進氏や、康明道氏によればこの部門は、金正日が金日成の後継者としての地位を固めた70年代に形成されました。
外貨稼ぎを主任務とするということは、外国と何らかの商売をして利益を稼ぐことです。利益追求を第一目的とする企業が、70年代の北朝鮮で作られていたのです。
輸出できる商品を生産するための原材料や資材を、内閣が管轄する人民経済部門から権力を用いて取ってしまうので、人民経済部門の設備稼働率は下がってしまう。
金光進氏によれば、金正日の党経済はこうして人民経済と庶民の生活を破壊している。
金正日の「党経済」は企業経営に利潤原理導入、市場経済化
しかし党経済(宮廷経済)は企業経営に利潤原理を導入することでもあり、北朝鮮経済の市場経済化という面もあったのです。
外国との商売は、市場経済での企業間競争でもありますから、外国の社会経済事情をよく知っている優秀な人材が育ったはずです。
共産圏という枠内で見れば、金正日による党経済づくりは、鄧小平の「改革・開放」より早い。
金正日は、中央計画経済では外貨稼ぎを効率的にできないことを早くから見通していたのです。
軍事力を強化するためには、外国から諸技術を導入せねばならない。そのためには巨額の外貨が必要です。
外貨を稼げる企業を、自分が徹底的に統制することにより金正日は作り出そうとした。これはそれなりに成功したと考えられます。
金正日がこのような判断をできた背景の一つは、数千本も外国映画を鑑賞していたことにあると私は見ています。
金正日は党経済所属の企業を増やし、資材や原材料を優先的に配分させて外貨を稼がせ、自らの奢侈生活と核軍拡を達成しました。
独裁者、王侯貴族の奢侈生活は一国の経済を破壊するのか
これだけを見ると、党経済(宮廷経済)は北朝鮮の経済成長に専ら有害だったと思えてしまいますが、社会経済はそれほど単純ではない。
王侯貴族の奢侈生活は一国の経済を破壊するのか。これは経済学の歴史では古くから問われてきた問題の一つです。
例えばマルサスは地主階級の奢侈品への需要が、完全雇用を達成するためにも必要と論じました。
ケインズによる有効需要の原理はこの理論的発展ともいえる。
金正日の党経済部門は多額の外貨を稼ぎ、それの一部は党経済部門で外貨稼ぎに従事する人々の賃金(「贈り物」を含む)支払いに配分されてきた。
王侯貴族の奢侈生活は有効需要と雇用を増やしうるのです。
金光進氏による、金正日の党経済論についてはまたの機会にふれたいと思います。本日はここまで。
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