資本主義化していく北朝鮮経済ー銭主(トンジュ)が国有であるはずの工場や企業所を経営しているー
周知のように、ソ連、東欧の社会主義はおよそ20年前に崩壊しました。
今では、ソ連や東欧は資本主義になったと考えて良いでしょう。それでは資本主義とは何か。市場経済とどう違うのか。
これはかなり大きな問いです。
封建的な政治体制がなくなり、市場で人々が財を交換して生活しているなら資本主義なのか。
これなら、明治維新直後に日本は資本主義となった事になります。廃藩置県直後に資本主義、とは単純すぎる。
資本主義とそれ以前の市場経済の違いは何と考えるべきか
私見では財市場だけでなく労働市場と金融資産市場が広範囲に成立し、そこでの取引に誰でも参加できるようになっているなら、その国は資本主義です。
別言すれば、私企業経営や金融資産投資による利子、配当収入が公に認められ広範囲に成立しているなら資本主義です。
搾取制度が広範囲に存在していますから。
産業革命の成立を資本主義の基準とする場合もありますが、今の北朝鮮でそれを基準としたらだいぶ前に資本主義になっていることになる。
貨幣で財を購入できるが、企業を経営するための労働と資金を自由に調達できないなら資本主義とはいいがたい。
共産党(労働党)が社会を支配していても、労働市場と金融資産市場が広範囲に成立している中国、ベトナムは資本主義になっていると考えます。
農村で地主・小作人関係が広範に存在し、市場が点々と存在している途上国は資本主義経済ではない。
この観点では、北朝鮮は資本主義化しつつあるがまだ資本主義になっているとは言い難い。
インフォーマルな労働市場と金融資産市場(高利貸業が存在)はありますが、そこでの取引に誰でも参加できるようにはなっていない。
北朝鮮に株式会社は原則として存在しない。
在日朝鮮人が投資して作った工場などは株式会社の形態をとっているかもしれませんが、この場合事実上の経営者は朝鮮労働党の担当幹部です。
北朝鮮経済の資本主義化は金正恩にとって諸刃の剣
資本主義の定義について、研究せねばならない点は沢山ありますが、当面私はこのように考えました。
北朝鮮経済の資本主義化は、経済成長を実現し庶民の生活もそれなりに向上させますが、金正恩にとっては両刃の剣です。
銭主から朝鮮労働党への賄賂は、外貨の場合が多いでしょう。それの何割かは、金正恩の元に還流しうる。
これは金正恩にとって北朝鮮経済資本主義化の積極面です。しかし、以下のように金正恩への忠誠心弱体化がありえる。
朝鮮労働党幹部と協力して利益を得る人は、やり方によってはかなり豊かになる。
自分の力で財を成した人が、金正恩や朝鮮労働党への忠誠心など持つはずがない。
朝鮮労働党幹部も市場での取引で豊かになれるのなら、金正恩への忠誠など表面だけになる。
多くの人が、人生には様々な選択肢があるのだという事を実感すると、全社会の金日成・金正日主義化とやらに貢献しなくなる。
銭主とはそんな方々ですから。
様々な業種で生産手段が事実上、私有化されているー資金を融通する銭主、私金融
引き続きイム教授の前掲論文から、興味深い記述を抜粋して紹介します。
銭主(トンジュ)が投資や雇用を通して資本の拡大再生産をできるか否かが重要である。
北朝鮮では巨額の外貨資産保有者を銭主と呼んでいる。
銭主になるのは在日同胞、華僑、貿易や外貨稼ぎに従事している者、麻薬業者、密貿易者、労働党幹部の夫人、韓国に逃げた脱北者の家族など、出身成分は多様である。
既存研究では、銭主の類型を外貨稼ぎの銭主、総合市場での銭主、建設業の銭主と区分する場合があったが、市場経済の急成長によりこれより範囲が広くなった。
2009年に断行された貨幣改革措置は、北朝鮮の銀行の安全性への信頼度を決定的に落とした。
住民の中に外貨選好が広がり、私金融市場が膨張した。
北朝鮮当局は2003年5月、市場の管理運営に関する内閣決定27号により総合市場の運営を合法化し、工業製品の販売も認めた。
2002年7月1日経済管理改善措置以後、市場空間が拡大し、個人営業の範囲が増えた。資本家の活動範囲が広がった。
賄賂をわたし、企業所の名義を借りて土地を買い、アパートを建設して高価格で販売する人が出てきた。
銭主たちは国家機関の名義で貿易会社を作り、裏取引を始めた。
銭主と企業所、そして国家機関が相互に助け合い、共生して公式、非公式の利益共有を始めた。
市場で商売を始めるための元金を30%に達する高金利で貸す銭主もいる。
北朝鮮では、生産手段の私有化は制限的にしか認められていないが市場化が進展し、サービス業だけでなく製造業、農業、水産業、鉱業まで私有化が広がっている。
これらの動向を裏面で、私金融が支えている事は当然である。
本日はここまでにします。またの機会に、さらに北朝鮮経済の資本主義化について論じます。
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