2014年11月18日火曜日

Françoise Saganの「乱れたベッド」(新潮文庫、朝吹登水子訳。原題Le lit défait)を読みました。魔性の女、ベアトリス

彼女は二つの欲望のあいだを揺れ動いていた。一つはエドワールを眩惑すること、一連の暗示や思い出話や曖昧な言葉によって彼の心を乱し、おののかせるか、それとも、もっとも母性的な役割を選んで彼を安心させ、彼女の中には安定性、<不変の本性>といわれるもの、さらには未来への約束さえ存在するという希望を彼に与えること、だった。-



「乱れたベッド」は、「一年の後」の続編です。5年後、ベアトリスは映画と演劇で輝かしいキャリアをつくりあげていました。

ベアトリスに棄てられたエドワールは、新進劇作家として知られるようになっていました。一途なエドワールは、ベアトリスを忘れることができなかったのです。

彼はこれからも、「魔性の女」とでも言うべきベアトリスを愛し続けることでしょう。

劇場主ジョリエと一年間暮らしたベアトリス


ベアトリスはエドワールと別れてから劇場主ジョリエと1年間一緒に暮らしました(p119)。5年前、ベアトリスがエドワールを棄てて50歳のジョリエに従った理由は次です。

「ベアトリスは、パリには彼女に夢中になりうる美青年は千人といるが、彼女を世に送り出そうとする劇場主はただ一人しかいないことを知っていたから、エドワールにもう愛していないと冷酷に告げた次第なのだ」(p103)。

ベアトリスはこれを正直にエドワールに告げました。

彼は自分がせいぜいベアトリスにとって官能の機会でしかなく、それも当時彼はまだごく若くそしてごく不器用であったから、微々たるものにすぎなかった―

という気持ちをずっと持ち続けていました(p103)。

死にゆくジョリエのことを目に涙をためて話したベアトリスは、「自分を憐れんで泣いたのよ」


ジョリエは喉頭癌になり、すっかりやせてしまいました(p104)。

ベアトリスはエドワールの前でジョリエが死をまじかにしていることを目に涙をためて話します。
エドワールはベアトリスの心中にまだジョリエへの愛があるのかと思い、「彼をとても愛していたんだろう?悲しいだろうね」と問いかけます。

ベアトリスはこれに対し「あたし自分を憐れんで泣いたのよ。」と答えました。

自分を憐れむ、とはどういうことなのでしょうか。パリの映画・演劇界を生き抜いてきたベアトリスは空洞のような心を持っています。

「あたし、友達を持ちたいと思ったことなんか一度もないわ。その時間もないし。あたしには自分の職業と情人(amant)たちがあるだけ。それで充分すぎるほどだわ」(p106)。


ベアトリスはジョリエと一年間暮らした後、米国あるいは英国人の俳優の恋人ができたのでジョリエと別れました(p119)。劇場主の力が不要になったのかもしれません。


自分の背後に硝煙もうもうたる廃墟を残すことが好きな女



死を間近にしたジョリエはベアトリスを「自分の背後に硝煙もうもうたる廃墟を残すことが好きな女だ」と評し、エドワールに「君がそうした廃墟の中から再起したのをみて喜んでいる」と述べます(p119)。

ベアトリスはジョリエが休養に行く南仏の別荘へ一緒に来てほしいとエドワールに頼みます。エドワールはすぐに承諾しますが、南仏で「事件」が起きます。

海にのぞむ手すりにもたれ、双眼鏡でヨットにいるベアトリスを見ていたエドワールは、ベアトリスが若い男ジーノと口づけをしているのを見てしまいます。

このシーンが私の印象に強く残ったので、書き留めておきます。

彼女はもう笑っておらず、上半身を仰向けにそらせ、両眼をとじ、若者の頭は船縁から消えていた


「彼女は両手を陽やけした頸のうしろに組んで、微笑していた。
彼女の黄金色の躰は調和がとれ、髪を風になびかせて、彼女は美しかった。いま若者は彼女の口を放して両の乳房の上にかがみこんでいた。」(中略)


「突然またベアトリスが視界に入った時、彼女はもう笑ってはおらず、上半身を仰向けにそらせ、両眼をとじ、若者の頭は船縁から消えていた。

次の瞬間、エドワールはベアトリスが急に身をのけぞらせ、口を開けるのを見た」(p123)。

夕方別荘に戻ってきたベアトリスは、エドワールに全く悪びれることなくジーノとヨットにいたことを語ります。

エドワールが双眼鏡でベアトリスの愛の行為を見たことを告げても、ベアトリスは単に
「ああ、そう...」「いやな偶然だこと...」と平静を保っています(p127)。

エドワールはベアトリスに「そのジーノって若者、愛の行為はうまいのかい?」と訊きます。

ベアトリスは落ちつきはらって、きわめて映画的にシガレットに火をつけてから答えました。
「下手じゃないわ...あなたほどではないけれど、でも下手じゃないわ」。

Saganの小説を日本で映画化するなら、ベアトリスには沢尻エリカ、主題歌は「碧い瞳のエリス」「ワインレッドの心」


ベアトリスのごとき女性は実在するのか、私にはわかりようもありませんが、芸能界ならありえそうです。

Saganの「一年ののち」と「乱れたベッド」を原作にしてもし日本で映画やドラマにするとしたら、ベアトリス役には誰が良いでしょうか。真に勝手ですが私は沢尻エリカを推したい。

エドワールを「嵐」の二宮君なら演じられそうです。二宮君は映画「硫黄島」で熱演していました。
主題歌は、安全地帯の「碧い瞳のエリス」か「ワインレッドの心」でどうでしょうか。

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