2018年11月17日土曜日

内田樹・石川康宏「若者よ マルクスを読もうⅢ」(かもがわ出版刊行)の第三部、石川康宏教授の日本共産党論より思う

「日本共産党は、スターリンとその後継者による支配の手を払いのけて、ソ連共産党の政策や判断、理論を特別視しないという自主独立の姿勢を、ソ連共産党の代表も参加した1958年の大会で決定していました」(同書p203より抜粋)。


石川康宏教授(神戸女学院大)は、著名なマルクス主義経済学者です。

フランス現代思想の研究者、内田樹教授との共著になる「若者よ マルクスを読もう」は、番外編を含めればこれで四冊目になります。

私にはこの本で内田樹教授が解説されている「タルムードの解釈学」がとても興味深かった((同書p254-256)。

内田教授によればタルムードの解釈学とは、自分の生活実感、身体実感を担保として差し出すことで、聖句の意味を蘇らせる作業です。

誰しも、古典を真剣に読もうとするなら、このような姿勢が必然的に求められるのではないでしょうか。

古典が執筆された時期の状況を後世の人間が正確に把握することはできない。

それぞれ、自分の頭脳で古典の一言一句を再解釈し、把握しなおすしかない。

この解釈に、各自の持つ世界観が入り込み、同じ古典の文章でも異なるように解釈され、学派あるいは宗派が形成される。

井筒俊彦の「イスラーム生誕」(中公文庫)、「イスラーム文化」(岩浪文庫)の制度形成論を私はこのように解釈しています。

共産党、マルクス経済学の歴史も、同様です。講座派(正統派)、宇野派、レギュラシオン派といろいろありますから。

第七回大会後でも日本共産党は「自主独立」ではないー宮本顕治論文「ソ連邦共産党第22回臨時大会の意義と兄弟諸党との連帯の強化について」(「前衛」1959年5月号掲載)


ところで日本共産党の歴史を、石川康宏教授はどの文献から上記のように解釈されたのかわかりません。

依拠された文献が明記されていませんから。最もこの本は学術書ではないので、参考文献を必ず明記せねばならないわけではありません。

「自主独立」が上記のようにソ連共産党の政策や判断、理論を特別視しない姿勢という意味なら、日本共産党がそうなったといえるのはソ連解体後ではないでしょうか。

宮本顕治氏はソ連共産党解体を歓迎しました。解体を歓迎したのですから、特別視などしていない。

昭和33年(1958年)の第七回大会後なら、日本共産党はソ連共産党の政策や判断、理論を特別視していたとしか私には思えない。

宮本顕治氏の上記論文は、ソ連礼賛論文そのものです。

宮本氏は日本共産党中央委員会を代表してソ連共産党第21回大会に参加し、その報告もかねてこの論文を執筆したのでしょう。

以下、宮本氏の上記論文を簡単に紹介します。

社会主義はソ連邦で完全な最後の勝利をおさめた


宮本氏によれば、ソ連邦共産党第21回大会はソ連邦の共産主義建設者の画期的大会であり、社会主義世界体制発展の大会です。

ソ連邦共産党第21回臨時大会で審議決定された七か年計画の目標数字は、同志ミコヤンが言ったように、無味乾燥な数字のら列ではないそうです。

それについてフルシチョフ同志が行った中央委員会の報告は、共産主義建設の壮大な交響楽だそうです。

社会主義はソ連邦で完全な最後の勝利をおさめました。

今日、ソ連邦では国内的に資本主義を復活させる力がないだけではなく、世界的にソ連邦および社会主義陣営をうちやぶれるような力は存在しません。

このことは、今日、共産主義建設の偉大な不滅のとりでが地球の上に確固としてきずかれた人類の新しい勝利を意味しています。

それは世界平和と反植民地主義のための人類に闘争の不滅の偉大なとりでを、現在の世紀が持っている事を意味しています。

宮本氏によるソ連論は表現があまりにも大げさで、実証的でない。

フルシチョフや、ミコヤンがこう言ったから真実だ、と述べているに過ぎない。

宮本顕治氏のソ連礼賛は、昭和36年7月の第八回大会でも継続しています。

宮本氏によればソ連は共産主義社会の全面的建設を成功のうちに遂行しています(日本共産党第8回大会決定p132より)。

ソ連は世界平和のもっとも強力な砦になっています。

われわれは社会主義世界体制が人類社会発展の決定的要因に転化しつつある時代に生きているという確信と展望に貫かれています。

宮本氏はこの確信と展望をおよそ30年後に喪失し、ソ連邦解体を歓迎します。

宮本百合子なら、ソ連邦解体をどう論じたでしょうか。宮本百合子は、最晩年にソ連共産党による過酷な人権抑圧を察知しつつあったようです。

石川康宏教授は宮本顕治氏の論文や当時の「赤旗」「前衛」を読んでいるのか


上記の宮本顕治氏によるソ連評価のどこが、自主独立なのでしょうか。石川康宏教授に御説明頂きたいですね。

率直に申し上げたい。

石川康宏教授は宮本顕治氏の上記論文や、当時の「赤旗」「前衛」を殆ど何も読まずに「自主独立の姿勢を決定した」と結論付けたのではないでしょうか。

昭和30年代の「赤旗」「前衛」には、ソ連礼賛記事や論文が沢山掲載されています。

そもそも第八回大会決定を、日本共産党は今でも廃棄していません。

従って第八回大会決定を、全ての日本共産党員は国民に普及していかねばならないのではないですか。

近年の日本共産党は宮本顕治氏の革命理論に、殆ど言及しません。

「日本革命の展望」など、読んでいる日本共産党員は滅多にいないでしょう。

これでは「自主独立」というよりご都合主義では、と思えてくるのは私だけではないでしょう。








0 件のコメント:

コメントを投稿