2020年8月23日日曜日

林直道教授の「経済学下 帝国主義の理論」(新日本新書、昭和45年初版)のソ連礼賛より思う。

 「社会主義ソ連では、資本主義諸国とは反対に、政治、経済の安定はいっそう強化されました。

1921年から実施された新経済政策(ネップ)の成果を基礎として、1925-29年の社会主義工業化がすすめられました。

また、1928年からはじまる最初の国民経済発展五か年計画は、四年間で期限前に遂行されました。

社会主義の工業基盤が創出され、ソ連は農・工業国から、すすんだ工・農業国に転化しました」(同書p227より抜粋)。

林直道教授(大阪市立大名誉教授)は、マルクス主義経済学者として著名な方です。

上記は、階級としての富農の粛清、大量の政治犯による囚人労働が断行されたスターリンの時期のソ連の現実とかけはなれています。

ソ連礼賛です。1932年頃、ウクライナで人工的な大量餓死が起きました。

私はまだ観ていないのですが、これを扱った映画が今、上映されているそうです。

日本共産党新宿地区の中野顕さんはこの映画を観たそうですが、この時期のソ連を礼賛した林直道教授のこの本についてどうお考えなのでしょうか。

勿論、昔のソ連を礼賛したのは林直道教授だけではありません。

私は早大の学生だった頃に、林直道教授のこの本を一生懸命読みました。

この本を読んで私は、ソ連は相当な経済発展を遂げたのだな、と思い込んでしまいました。実に浅薄でした。

故野村タチアーナ先生はソ連には他の発展の道があった、と断言

私が社会主義経済にかなりの問題がある事を認識したのは、四年生ぐらいになってからです。

私はソ連社会の実態を暴露するルポルタージュや、ハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノッシュの「不足の経済学」を読みました。

少しだけ、思い出話をします。

ロシア語の野村タチアーナ先生から「ロシア革命は必要なかった。当時、他の発展の道はあったのです。私はそれを確信している」というお話を講義中に伺ってびっくりしました。

野村タチアーナ先生はモルダビア出身で、ロシア語の他にルーマニア語も使う方でした。フランス語もまあまあわかる、と伺いました。ルーマニア語とフランス語は近いですから。

当時、早大の語学研究所にはロシア人の先生は三人いらっしゃいました。野村先生の他に、石井ナターシャ先生、今井イリーナ先生です。

石井ナターシャ先生のお姿は、早大を卒業して十数年後、悲しいニュースでお見かけしました。

聴濤宏氏の「21世紀と社会主義」(新日本出版社、昭和59年刊行)にも社会主義経済の問題点が指摘されていました。

鶴田俊正先生(専修大)の講義で、韓国は素晴らしい経済発展を遂げていると伺い、驚きました。「経済学研究」という講義だったかと思います。

マルクス主義経済学者、日本共産党員と在日本朝鮮人総連合会に共通する思考方式

マルクス主義経済学の見地からは、レーニンの継承者であるスターリンによりソ連は素晴らしい経済発展を遂げていったという結論になります。

フルシチョフによるスターリン批判は1956年(昭和31年)です。

林直道教授が「経済学下」を執筆なさっている頃には、多少文献を調べればスターリンによる凄惨な人権抑圧、大量殺戮はすぐにわかったはずです。

ボリシェヴィキの大幹部が、スターリンにより次から次へと処刑されていったことはわかっていました。公開裁判でしたから。

メドヴェージェフの「共産主義とは何か」という本も出ていました。

まさかと思いますが、林直道教授はソ連の実態を全く調べないでこの本を書いたのではないでしょうか。

何も調べなければ何もわからないはずですが。

林直道教授は、ボリシェヴィキ屈指の理論家だったブハーリンの処刑をどうお考えだったのでしょうか。

マルクス主義経済学者の著作には、時折共産党の宣伝文句が含まれています。

マルクス主義経済学者は共産党を深く信頼しているので、宣伝文句まで信じてしまうのでしょうね。

マルクス主義経済学者、日本共産党員には今でも金日成、金正日を信奉している在日本朝鮮人総連合会の皆さんと思考方式が似ています。

最高指導者に対する盲信です。

マルクス主義経済学は習近平、金正恩が平和のために貢献する政治家とみなす

「経済学下」(p162 )によれば、独占利潤の獲得こそ独占資本主義の基本的経済法則です。

帝国主義の対外侵略はこの基本的経済法則に基づく必然的な現象だそうです。

この見地だと、社会主義ソ連や中国には「独占資本」が存在しませんから、対外侵略をする経済的基盤がないという結論が出ます。

従って社会主義ソ連や中国、北朝鮮は本質的に平和勢力です。

独占資本が存在する米国と日本、安倍内閣こそアジアにおける最大の戦争勢力です。

レーニンの帝国主義論の見地で世界を見れば、安倍内閣は戦争勢力、安倍内閣の軍拡を批判する習近平、金正恩は大局的には平和勢力、平和のために戦う政治家です。

最近の日本共産党は中国共産党による香港での人権抑圧を厳しく批判しますが、中国共産党が戦争国家だという主張は一切しません。

日本共産党と日本共産党を支援する知識人、運動家、マルクス主義経済学者はレーニンの帝国主義論を深く信奉しているのでしょう。

独占資本が侵略戦争を起こす、というレーニンの主張には実証性がない。

日露戦争は日本とロシアの企業、「独占資本」や財閥が起こしたのでしょうか。1904年の日本に「独占資本」があったでしょうか。

レーニンはロシア企業の動向と、帝政ロシアの開戦決定の関係など全く分析していません。

林直道教授の上記著作にも、大日本帝国の開戦決定と当時の企業、財閥の動向の関係の分析はありません。

マルクス主義歴史学者の著作にも、大日本帝国の開戦決定に財閥が及ぼした影響を調べたものを私は見たことがありません。

財閥は大日本帝国の開戦決定に何の関係もなかったとしか、私には思えません。

山本薩夫監督の映画「戦争の人間」では、満州国で大金儲けをする財閥の経営者が描かれていました。芦田伸介が演じていたかと思います。

マルクス主義経済学者は、映画「戦争の人間」などの影響で財閥が満州事変を起こした、と信じているのかもしれませんね。

自衛隊解散、日米安保廃棄なら金正恩は日本に核ミサイル攻撃をする

独裁者は、戦争によって得られるだろう予想利益(予想効用)と、失うであろう予想費用を比較し前者が後者より大きければ開戦する。

米国の経済学者Herschel I. Grossmanは、概ねこのように説いています。

Ronald Findlayという経済学者にもそんな論文があります。

Findlayは資源を獲得する手段として、財の生産の他に収奪という方法があることを理論モデル化すべきと主張しました。

単純ですが、こちらの方が一般性があります。

日本が自衛隊を解散、日米安保を廃棄して国防力を皆無にしたら、金正恩は、迷わず日本に核ミサイル攻撃をするでしょう。

「民族の英雄」になれますから。金正恩が日本への核ミサイル攻撃によって得られるだろう効用(満足度)は限りなく大きい。

核ミサイル攻撃により予想される費用はさほどない。他国に少し批判される程度です。

不破氏の言葉を借りれば、マルクス主義経済学は「歴史の試験」に失格しましたね。

石川康宏教授(神戸女学院大)は、林直道教授の「経済学 下」をどうお考えなのでしょうか。機会があれば、見解をお尋ねしたいものです。

自分の若い時代を思い起こすと、教員の著作や講義が学生に与える影響は決して小さくない、と思うこの頃です。

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