2016年5月29日日曜日

聴濤弘「カール・マルクスの弁明 社会主義の新しい可能性のために」(2009年大月書店刊行)への疑問

聴濤弘(1935年生まれ。日本共産党元参議院議員)によれば、ソ連では医療が無料で女性と子供に手厚い保護がある。保育所が完備している(「資本主義か社会主義か」1987年新日本出版社刊行,p94-98より)。


左翼政治家、左翼知識人として生きていくためには、仲間が羽振りの良いときには接近して礼賛し、落ちぶれていったら手のひらを返して罵詈雑言を浴びせる必要があるのでしょうか。

本ブログでは何度も、宮本顕治氏(元日本共産党議長)がかつて旧ソ連や中国、北朝鮮を礼賛してきたことを指摘してきました。

宮本顕治氏より一世代後の日本共産党幹部として、宮本顕治氏に従ってきた不破哲三氏、聴濤弘氏らもソ連が崩壊するまでは上述のようにソ連を礼賛してきました。

聴濤弘氏のソ連崩壊前の著作「資本主義か社会主義か」によれば、社会主義には「復元力」がある


聴濤弘氏の著作「資本主義か社会主義か」はソ連が崩壊する4年ほど前に出版されていますが、ソ連礼賛がしつこいほどなされています。

ソ連崩壊前の聴濤弘氏によれば、社会主義には「復元力」とやらがあるそうです。

聴濤弘氏は昭和59年12月10日から17日までモスクワで開かれた日本共産党宮本顕治議長とソ連共産党チェルネンコ書記長の会談に参加しました。

聴濤弘氏によれば、この首脳会談は歴史的、画期的意義を持っており、社会主義の復元力を示しました。

日本共産党第16大会決定によれば、社会主義国があれこれの重大な誤りをおかすからといって、社会主義は「完全変質した」とか、もう発展していく可能性はないなどといった主張は誤りです(「資本主義か社会主義か」p38より)。

これはソ連崩壊の7年ほど前の、日本共産党による宣伝文句です。

「復元力」を備えているはずの素晴らしきソ連は、崩壊しました。

崩壊後に出した著作「カール・マルクスの弁明」で聴濤弘氏は、1929年からソ連は社会主義の軌道から転落し、党と国家による「専制政治社会」に変質したと弾劾しています。

従って、ソ連崩壊後に聴濤弘氏は「社会主義完全変質論」が正しかったことを認めたのです。

旧ソ連は「社会主義の軌道」とやらから転落したそうですから。「転落」などという表現は、自分たちが落ちぶれた仲間より高い位置にいるという発想があるからできるのでしょう。

そもそも、「社会主義の復元力」「社会主義の軌道」とは一体何なのでしょうか?聴濤弘氏の著作にはこれらの説明と思しき記述がありません。

労働者がどんな基準で企業を管理・運営するのか


共産主義者は「生産手段の社会化」という特殊な用語をよく用いますが、これも具体的な中身が全くない空言です。

聴濤弘氏によれば、「生産手段の社会化」が搾取をなくす根本です(「カール・マルクスの弁明」p93)。

トヨタ自動車で労働者が生産手段の所有者になり、搾取を廃絶したらどうなるか。この本で聴濤弘氏はそれを少し論じています。

聴濤弘氏によれば、経常利益から税金と株主への配当を控除した部分の約7000億円(2008年の数字)を労働者自身が決定でき、労働者の生活を大きく向上できるそうです。

聴濤弘氏は企業経営を全く理解していない。

トヨタには労働者は一体何人いるのでしょうか?非正規労働者や海外拠点の労働者を含めれば数十万人になるでしょう。

数十万人の意見を誰がどうやって集約し決定するのでしょうか。

数十万人の労働者の中には、7000億円を全額賃金に配分すべきだという人、競争相手に勝利するため全額新車開発に回すべきだという人、景気が悪化した時の備えとして全額を金融資産として保有すべきという人など、いろいろな意見がありうる。

市場経済は消費者が主役


トヨタには日産、本田、三菱自動車やGM、現代自動車など競争相手がいるのですから、電気自動車など次世代の新車開発に相当資金を注いでいかないと競争に敗北してしまいます。

市場経済で企業は競合相手と対峙しています。

市場経済では「生産者が主人公」などと威張っている企業は顧客からそっぽを向かれ潰れてしまいます。市場経済は消費者が主人公なのです。

労働者が企業を管理・運営しても、消費者に受け入れられる製品を生産できなければその企業は倒産してしまう。

十数万人の労働者がじっくり議論して企業の管理・運営をやっているような呑気な企業は、決定を迅速にできませんから消費者の気分感情を反映した製品を生産できないでしょう。

十数万の労働者が企業を管理・運営する企業は製品開発で遅れてしまうのです。消費者は甘くない。

数人規模の企業なら、労働者全体で企業の管理・運営ができそうです。

親子や兄弟で作られている中小零細企業なら、労働者全体で企業を管理・運営し、顧客や元請けの意に沿った製品の供給が可能でしょう。

社会主義とは血縁者間による企業経営である、という話なのでしょうか。中世の中国やイスラムの商人は、商売で得た儲けを一族のために使っていました。

儒教の教えより、中国では自分が属する氏族に対する忠誠心が社会規範になっていましたから。

労働者が企業を管理・運営するとカローラやプリウスはどうなるのか


聴濤弘氏によれば、「生産手段を社会化」すると、労働者が企業を管理、運営するようです。

労働者が管理・運営するトヨタではカローラやプリウスはどう変わるのでしょうか。下請けから少しでも高く部品を買えば競争に負けてしまうかもしれません。

株主は、儲けをもっと配当に回せと労働者に要求するでしょう。

配当性向が低ければ株価が下がり、資金調達が困難化するかもしれません。

労働者が管理・運営する企業が競争に負けて倒産したら、「社会主義から逸脱した」と罵詈雑言を浴びせるのが共産主義者の生き方なのでしょうか。

「社会主義の道を歩んでいる」と称する企業の製品を消費者が気に入る保証はどこにもないのです。

企業経営について真面目に考えないから、共産党員は嫌われるのです。

聴濤弘氏は日本の安全保障政策について具体案を示すべきだ


安全保障についても同様です。「憲法九条を守れ」と叫べば北朝鮮のテロ、生物・化学兵器攻撃を未然に防げるでしょうか。民間航空機を爆破して喜んでいるテロ国家を甘く見てはいけません。

北朝鮮を直接攻撃する能力を自衛隊が持ちそれを金正恩に誇示すれば、金正恩は日本攻撃を恐れるでしょう。

聴濤弘氏は日本共産党独自の安全保障政策を持つべきだと講演で主張しているようですが、それならば自衛隊の抜本的強化を主張すべきなのです。日米安保を破棄するならそれしかない。

まずは巡航ミサイルの大量保有、爆撃機保有です。巡航ミサイルなら、北朝鮮を正確に攻撃できますから。

共産主義者は、企業経営や日本の安全保障について真面目に考えないから嫌がられるのです。


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