2016年11月21日月曜日

北朝鮮在住の作家パンジ著「告発」(萩原遼訳、かざひの文庫刊行)より思う。

「暗闇の地、北朝鮮に灯りをともす、ホタルの光となり...パンジは朝鮮作家同盟中央委員会に所属しており、1950年に生まれ、朝鮮戦争も体験し、両親とともに中国まで避難し幼年時代を送り、再び北朝鮮に戻り生活しました。」(被拉脱北人権連帯代表 都希侖氏の推薦の辞より抜粋。同p2掲載)


パンジとは、朝鮮語で蛍を意味しています。「月刊朝鮮」で強力な北朝鮮批判論を展開してきた趙甲済氏がこの本のあとがきを書いています。

パンジの親戚が脱北して持ってきた肉筆原稿を、被拉脱北人権連帯代表 都希侖氏が入手したとあとがきにあります。

「告発」は200字詰め原稿用紙750枚分の原稿による、七つの短編から成ります。

どれも、全体主義社会で圧政に耐えている人びとの生きざまを描いています。

「プロレタリア文学」「民主主義文学」とは一体何だったのかという疑問を本ブログでは何度も提起してきました。

「プロレタリア文学」「民主主義文学」が圧政と抑圧に抵抗する人々の生きざまを描く文学であると定義するならば、「告発」こそその名にふさわしい。

パンジは、稀代の独裁者金日成を正面から批判しています。筆者が誰か朝鮮労働党にばれてしまえば、「反党反革命宗派分子」とやらの「罪」で処刑される可能性が極めて高い。

筆者だけでなく、家族、親戚もそうなってしまう可能性すらあるのです。

北朝鮮の出版事業は朝鮮労働党の支配下にある


北朝鮮についてよく知らない方は、韓国や日本などでなく、政府の監視網を何とかくぐりぬけて自国で地下出版すればよいではないかと考えるかもしれません。

治安維持法下の日本でも宮本百合子は作家として活動し、ソ連の住民生活を国民に紹介できた。北朝鮮の作家もやればできるはずだ、などと思う方もいるかもしれません。

そういう方はテロ国家北朝鮮の現実について無知蒙昧だとしか言いようがない。

北朝鮮の出版社は全て朝鮮労働党の支配下にあります。北朝鮮では紙は貴重品です。質の悪い原稿用紙ですら普通の人は入手困難です。

金正日の著作でさえ、私たちからみれば劣悪な紙で印刷されています。紙を生産するための諸資源が不足しているのでしょう。

印刷機器と出版に必要な紙やインクを普通の人がどこからか入手し、朝鮮労働党に知られないように本を印刷し配布できるような状況ではない。

北朝鮮の作家や記者は、朝鮮労働党の宣伝扇動部の指導下にいるはずです。

朝鮮労働党の宣伝政策の一環として、金日成、金正日そして金正恩を礼賛し、体制の優位性を宣伝する出版事業がなされています。

印刷物の中身が何であれ、朝鮮労働党の検閲を受けていないものを国民に流布したら重罪です。政治犯収容所行きか、処刑されてもおかしくない。

「赤いキノコ」という題名の掲載小説にも出てくるように、北朝鮮では「政治犯」の「裁判」に弁護人はつかない。弁護人がいないなら、政治犯には「裁判」はないと考えた方が適切です。

北朝鮮では政治犯は、中世欧州の「魔女や「異端」のように扱われているのです。火刑(火あぶりによる処刑)も時折行われていますから。

金日成の「現地指導」は北朝鮮社会の物資流通を妨げ、資源・資材不足を深刻化させている


著者のパンジは、普段は金日成、金正日を礼賛する小説ないしは記事を書いているのでしょう。

金日成を礼賛する小説を書くためには、金日成の「現地指導」の実情を多少は知らなければならない。「伏魔殿」という小説は、「父なる首領様」金日成の「現地指導」の実態を鋭く批判しています。

「一号行事」という名称で呼ばれる金日成の「現地指導」がある地域で行われると、その地域へ行き来する電車が暫く止められ、道路も封鎖されてしまうそうです。

これを、私はこの本を読むまで知りませんでした。金日成や金正日の「現地指導」時に相当な警備がなされているという話は、脱北者の手記に出てきます。

「一号行事」とやらがなされると、その地域近辺では物資の流通、人の往来が一時的に停止してしまう。

慢性的な資源不足、資材不足の北朝鮮社会で、生産をスムーズに行うためには不足している資源や資材を余剰地域から必要な地域に素早く運ばねばなりません。

北朝鮮社会の物資流通を底辺で支えているのは、朝鮮労働党幹部を買収して移動許可証明を入手し、生活のために「担ぎ屋」として各地を移動して物資を売買する人々です。

「担ぎ屋」の移動による物資流通が、「一号行事」により妨げられている。「絶世の偉人」にはそんなことは一切分からなかったことでしょう。

「告発」の存在を日本政府は対北朝鮮ラジオ放送、海外衛星放送で金正恩、金予正に教えるべきだ


北朝鮮では、金日成の「教示」、金正日の「お言葉」が人々の生活の在り方を規定しています。

「党の唯一思想体系確立の十大原則」は、北朝鮮の国民は自分の所業を金日成、金正日の指令に基づいているかどうか、常に点検せねばならないと定めています。

パンジは「十大原則」を踏みにじっているのです。

この小説の存在が金正恩にまで知られれば、国家安全保衛部ないしは朝鮮労働党の宣伝扇動部が朝鮮作家同盟の監督責任を問われかねない。

朝鮮労働党の宣伝扇動部を、金正恩の妹金予正が指導しているらしい。

朝鮮作家同盟ないしは朝鮮労働党の宣伝扇動部内に、金正恩と妹金予正に激しい反感を持っている人物がいるかもしれないのです。

日本政府は至急、金正恩・金予正御兄弟に「党の唯一体系確立の十大原則」を踏みにじる小説「密告」の存在を対北朝鮮ラジオ放送、海外衛星放送でお知らせするべきです。

国家安全保衛部大幹部の皆さんが、金正恩から責任を問われるならその前に...という「決意」をしていただける良いのですが。

ところで、金正恩の妹金予正には、さほどの警備はついていないのかもしれません。金予正は、金正恩の「現地指導」時に一行から離れて気軽に歩く場合もあるようですから。

これも、対北朝鮮ラジオ放送と海外衛星放送で日本政府から国家安全保衛部や朝鮮人民軍の皆さんにお知らせするべきです。











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