2015年1月23日金曜日

NHKドラマ「ザ・商社」(山崎努主演、ヒロインは故夏目雅子で昭和55年製作。昭和52年の安宅産業倒産をドラマ化)をまた観ました。

片岡仁左衛門(13世)、茂山千五郎(12世。狂言師)が脇を固めた。原作は松本清張「空の城」


歴史を紐解くと、美しい敗者の存在に気づきます。

命運をかけた合戦で無残に敗れ去り、戦場の露と消えていった武将は数知れません。

武田勝頼、明智光秀、石田三成、真田幸村ら敗者は、歴史のその時点では世人の蔑みの対象になっていたかもしれません。しかし徳川家康なら、彼らの滅び方から大いに学んだはずです。

志のある人は皆、見果てぬ夢を追っています。それがどうしても実現できないとわかったとき、歴史の中の敗者の美しさに改めて気づきます。敗者から多くを学べるのです。

ビジネスマンの世界では一寸先は闇


激しい企業間競争の中で生きている現代のビジネスマンは、商戦に敗れても首そのものを取られるわけではありません。しかし所属企業が倒産すれば解雇すなわち「首」となってしまいます。

解雇されたビジネスマンはその時点では世人の蔑みの対象かもしれません。他人への蔑みは自分の傲慢さを助長し、墓穴を掘ることになりかねません。

その企業の倒産の過程を様々な角度から考えれば、新たな物事が見えてきます。

どの時点での、どの経営者の判断で損失が膨らみ、倒産に至ったのか。経営者はなぜ間違った判断をしたのか。

その経営判断に反対した役員はいなかったのか。いたのなら、反対した役員の対案はどうだったのか。反対した役員が一人もいなかったのなら、皆がイエスマンだったのか。

それならば企業の統治方式がおかしくなっていたのではないか。検討課題は山積しています。

私たちは倒産した企業のビジネスマンたちの生き様を観察し、そこから学べます。

大阪の老舗総合商社、安宅産業はなぜ倒産したのか


松本清張原作のこのドラマは、江坂産業の倒産劇を描いていますが、これは大阪の総合商社安宅産業をモデルにしています。

私がこのドラマを初めて見たのはテレビで放映された昭和55年でした。

山崎努演じる上杉二郎が、英語を自在に操りレバノンからの移民商人サッシンとやり合う姿が強く印象に残りました。

20歳にもなっていなかった私は国際的に活躍するビジネスマンの姿に憧れたのです。

「第三抵当権」という言葉の意味がわからなかったので、当時は大枠でしかわかりませんでした。

狡猾なサッシンに上杉は騙された


50代の私が今見ると、上杉二郎はサッシンにまんまと騙されたとしか思えない。

レバノン移民サッシンなら、石油危機の予測は無理でも、アラブ諸国が原油を戦略物資とする可能性はあるくらいの予想はしていたでしょう。

中東で戦火が勃発すれば原油市場は大きく揺れ動くから、自分に損失が降りかからないように江坂産業を使ったのではないでしょうか。

上杉がサッシンを信頼してしまったのが過ちの始まりと思えます。江坂産業は製油所の代理店になるべくサッシンに4200万ドルを無担保で融資してしまいます。

製油所の経営が思わしくないことがわかってから三番目の抵当権の取得を、第一および第二抵当権者に打診しますが、取得できるはずもない。

第一抵当権者、第二抵当権者からみれば債権の取り分を江坂に無料で渡すようなものです。

石油危機が生じなければニューファンドランドの製油所建設は成功していたはずだと石油業界紙記者が叫ぶシーンがあります。

そうでしょうか。製油所が成功していれば、狡猾なサッシンはまた別の条件を江坂に提示し、受け入れなければ手をひけと脅かしたのではないでしょうか。

三十数年の齢を経た私から見れば、上杉はさほど優秀な商社マンとは思えません。

現実の安宅産業がこれほど単純にレバノン移民商人に騙されてしまったのなら、総合商社間の厳しい競争にいずれは敗北し消え去る運命だったでしょう。

これは、80年代以降の商社が直面した経営環境の厳しさを結果として知ったから言えることですが。

上杉の無念さが伝わってくるラストシーンは、精一杯戦って敗れ去った戦国武将たちを思い起こさせます。

片岡仁左衛門(13世)と茂山千五郎(12世、狂言師)が心に残る名演技-発声法が異なる―


このドラマの主人公は上杉二郎です。山崎努の代表作と言えます。脇役を名優が勢ぞろいして固め、それぞれの人生が描き出されていることも大きな魅力です。

江坂産業の社主を演じた片岡仁左衛門(13世)の笑い方、台詞のしゃべり方が醸し出す存在感は忘れられません。現実の安宅英一もこのような人物だったのかもしれないと思わせます。

つい最近まで知らなかったのですが、江坂産業の会長を演じた俳優茂山千五郎が有名な狂言師でした。この人は独特の発声法を習得していたのでしょう。

少し高い声と、好々爺のような表情が印象的でした。

ドラマ放映の僅か五年後に世を去る夏目雅子


それにしても、残念なのはヒロインのピアニストを演じた故夏目雅子です。

夏目雅子の演技、台詞の言い回しはさほどうまいとは思えませんが、何人もの名優の中、必死に演じたのではないでしょうか。自信に満ちた、勝ち誇った表情がとても魅力的です。

夏目雅子はこのドラマの5年くらい後に白血病で世を去ってしまいます。

御本人も御家族もどれだけ無念だったでしょう。

美人薄命を絵に描いたような方でした。夏目雅子は大河ドラマで淀君を演じましたが、お市の方も演じてほしかった。夏目雅子が演じる敗者の美しさは形容しきれない。

夏目雅子の運命も、神が振ったサイコロの結果なのでしょうか。

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