搾取制度廃止のためには、株式会社制度を廃止せねばならない
日本共産党は大企業が巨額の内部留保を持っているから、労働者と国民に還元せよと繰り返し宣伝しています。
日本共産党が貸借対照表の見方を知らないという点はさておき、日本共産党には内部留保、利潤の蓄積は労働者からの搾取の結果だから、労働者に返すべきと思えているのです。
内部留保をゼロにしたら、企業は経営を維持できません。
搾取の結果であろうと何だろうと、企業が存続するためには相応の内部留保を維持せねばならない。最適な内部留保の水準とは、誰がどんな基準で決めれば良いのでしょうか。
これはその企業が直面している市場環境に依存しますから、何とも言いようがない。
搾取制度が廃止された社会経済とは一体どんな社会経済、企業運営方式なのでしょうか。
この質問には、志位さんら日本共産党員は答えません。
科学的社会主義の経済学では、ある社会が社会主義になるとは資本主義的搾取制度を廃止することです。
はっきり言えるのは、資本主義的搾取の廃止のためには株式会社制度を全廃せねばならない事です。
株主は利潤の一部を配当所得として受け取りますが、これは搾取です。
科学的社会主義の経済学によれば利潤は労働者からの搾取により実現しています。
株主は労働を提供していないのに利潤の一部を取得してしまうのですから、搾取者です。
レーニンは「青年同盟の任務」という論考で、収穫から余剰穀物を蓄えて投機をする農民を富農、搾取者と定義しました。
レーニンの見地なら、蓄えた所得で株式を購入し、配当所得を得る庶民は搾取者です。
労働者は商品が売れる前に資本家から賃金を受け取るから、企業経営の危険を負担していない
マルクス主義経済学には、株主が資金を提供して企業経営に伴う危険を負担しているから、株主が利潤の一部を配当として受け取る事を人々が認めるのは当然だという発想はない。
一般に、労働者は商品が売れる前に、あるいはあまり売れなくても資本家、企業経営者から賃金を受け取りますから企業経営の危険を負担していません。
オーストリアの経済学者ベーム・バヴェベルク(1851-1914)は、「マルクス体系の終結」という論考や、マルクスの搾取論に対する下記の批判で有名です。
根岸隆教授(東大)、三土修平教授(東京理科大)が論考や著作でベーム・バヴェルクの下記にあるマルクス搾取論批判を紹介しています。
「資本と利子」(Capital and Interest A Critical History of Economic Theory, 原著はドイツ語。Forgotten Books)
ベーム・バヴェルクはこの本で、次のような例を挙げて説明しています。英語版では、p342-345辺りです。Rodbertus's Exploitation Theoryという部分です。
労働者が資本家から命令され、ある機械(蒸気エンジン)を一人で作るとします。機械が完成し売れるまで、五年かかるとしましょう。
この機械が五年後に550ポンドで売れるとします。労働者は資本家から、五分の一にあたる毎年110ポンドを受け取るべきでしょうか。
ベーム・バヴェルクはこれを強く否定しています。五年後に機械が完成して550ポンドで売れても、一年後にはまだ機械は完成していない。
完成していない機械の現在の価値や一年後の価値は、110ポンドではありえない。
ベーム・バヴェルクによれば、搾取制度廃止を主張するマルクスは労働者が毎年110ポンドを受け取るべきと主張している。これには無理がある。
労働価値説で搾取の存在を証明しても、労働者が賃金を前払いで受け取る場合、資本家や資金提供者(株主)が企業経営の危険を負担していることを否定できません。
労働者による労働の成果である完成品を資本家、資金提供者が受け取ることには正当性がある。
三土修平教授は、マルクス主義経済学はこの批判を受け入れるべきと述べています。
そのうえで三土教授は資本家が機械を作るための資金を持っているのに、なぜ労働者は資金を持たず、賃金を前払いで受け取らねばならないのかを解明すべきと主張しました。
私に言わせれば、マルクスやレーニンは資金を持つ人が、持たない人に資金を提供し企業経営の危険を負担する事自体を悪事とみなした。
それなら、労働者が完成品の売り上げの全てを受け取ってしかるべきという話になりえる。
しかしそれでは、資金を持つ人は機械を作る労働者に無償で資金を提供せねばならない。
株式会社制度を廃止したら、起業が困難になり経済が停滞する
資本家や株主は資金を提供して企業経営の危険を負担しています。経営者が事業に失敗し、赤字経営となったら無配当です。
赤字経営が続けば、倒産し株式は無価値となります。
企業経営の危険を資金提供により負担している資本家、株主が利潤の一部を受け取る事を人々が当然視することはおかしくない。
資本家、株主は資金を提供して労働者の賃金の源泉も提供しています。株式会社制度を廃止したら、起業が困難になり経済が停滞します。
旧ソ連や毛沢東の中国、北朝鮮の現実を知っている現代人なら、これぐらいのことはすぐわかりそうなものです。
レーニンとボリシェヴィキは株式会社を廃止しました。毛沢東、金日成も同様です。その結果どうなったかは明らかです。
ベーム・バヴェルクの主張の重要点を、下記に記しておきます(上記著p343より)。
The one-fifth part has a different value from the other so surely as, in the valuation of today, an entire and finished engine has a different value from an engine that will only be ready for use in four years, so surely as, generally speaking, present goods have a different value in the present from future goods.
参考文献
根岸隆(1981)「古典派経済学と近代経済学」岩波書店刊行。第8章「利子論におけるマルクスとベーム・バヴェルク」
三土修平(1992)「搾取論の回顧と展望」(『経済理論学会年報』第29集)pp. 197-215
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