2014年6月9日月曜日

金正日は在日本朝鮮人総連合会をどのように「指導」してきたのか2-金正日の生き方から思う(張明秀「裏切られた楽土」講談社刊行より)

英明なる指導者金正日の誕生日を記念し、組織内部に党の唯一指導体系を確立すること


北朝鮮の公式文献での金正日に対する敬称は、晩年は「偉大なる将軍様」という語が多く用いられていたように思います。「百戦百勝の零将」「世界政治の元老」というものもありました。

「党の唯一指導体系の確立」とは、金正日への絶対的服従を意味します。党とはこの場合、金正日です。

若いころの金正日の敬称は「親愛なる指導者同志」(친애하는 지도자동지)だったはずです。

87年の大韓航空機爆破事件は、「親愛なる指導者同志」(친애하는 지도자동지, Dear Leader Comrade)の御親筆により承認されたと犯人の一人、金賢姫が語っています。

張明秀氏が在日本朝鮮人総連合会幹部だった1977年1月北朝鮮から在日本朝鮮人総連合会に伝達された指示書には、「英明なる指導者」となっていたのでしょう。金正日はこの頃、34歳です。

数学や物理学のように抽象性の高い分野なら、若いうちでないと新しい仕事はなかなかできません。

そんな分野では30代のほうが50代、60代よりずっと優れていることはありうるでしょうが、経験と幅広い視野が必要な政治の世界はそうではないでしょう。

若輩の金正日の何がどう「英明」だったのか不明ですが、その後強大な権力を駆使する独裁者になっていったのですから権謀術数には長けていたのでしょう。

金正日は映画や音楽に造詣があったようです。独特の人間観察と人心把握をできた人だったのではないでしょうか。独裁体制を維持するためには、側近の動向観察は欠かせません。

金正日は側近の表情や声色に常に関心を持っていたかもしれません。

在日本朝鮮人総連合会最高幹部の動向も、金正日は様々な経路で把握していたことでしょう。

金正日の贅沢三昧の背景に精神的重圧-中国国家安全部は側近を買収していたかもしれない―


金正日は若いころから、毎晩のように側近と深夜まで豪華な酒盛りをしていたようです。

そんな無理ができたのですから、青年期には健康だったのでしょうが暴飲暴食により80年代にはかなりの肥満体になってしまいました。心臓に負担がかかったことでしょう。

糖尿病も患っていたかもしれません。金正日は側近にも追放や処刑などの残虐な命令を何度も出し、側近に恐怖心を常に抱かせていました。

金正日は毎晩のように酒を酌み交わす側近でもあまり信頼できなかったのです。

金正日には自分でもよく認識できないうちに相当な精神的重圧がかかっていたのでしょう。それを忘れるためだったのでしょうか。

金正日は深夜までの豪華な酒盛り、暴飲暴食を長年続けていました。70歳近くまでよく生きられたとも言えます。中国との関係も、金正日には相当な精神的負担だったでしょう。

中国共産党はあの手、この手で核を持たないよう、金正日を脅迫してきたはずです。

側近の中に中国国家安全部の息がかかった人間がいる可能性を金正日は察知していたはずです。張成澤は金正日の動向を、中国国家安全部に伝えていたかもしれません。

総連組織の中に主体の思想体系を確立する問題


前掲書に掲載されている金正日の指示書の一は「総連組織の中に主体の思想体系を確立する問題」です。

一の中の(二)が、「英明なる指導者金正日の誕生日を記念し、組織内部に党の唯一指導体系を確立すること」です。この中に、次の5つの項目があります。

・指導者同志の肖像画を常任委員会に安置すること

・学習組で講義を組織すること

・指導者同志の偉大性、天才性、徳性についての解説宣伝を行うこと

・内部の会議での報告、討論で指導者同志のお言葉を引用すること

・党の唯一の指導の下で中央をはじめとするすべての機関に組織規律を確立すること。すべての問題(原則的問題)は指導者同志に報告し、指導を受ける規律を確立すること。

一の中の(三)は「首領様の教示と指導者同志のお言葉の実行で、無条件性を確立するための追撃戦を展開すること」です。この中に、次の3つの項目があります。

・教示、お言葉の実行で無条件性実行の気風を確立すること

・無条件実行の組織規律確立のための学習を組織すること

・追撃戦を展開することに対する指導者同志のお言葉を心臓に銘記し、首領の教示、指導者同志のお言葉貫徹状況を各級機関が一つ一つ糾しながら実行すること。

「無条件実行の気風確立」のために、同義語を繰り返し思考力を麻痺させる


要は、「金日成と金正日の言うとおりにせよ」「金正日にすべて報告せよ」という程度の話なのですが、これを長々と仰々しく繰り返し、暗記までさせることにより人々の思考力麻痺が狙いです。

同じ話を多少表現を変えて繰り返し、暗記までさせると思考力が麻痺し、ほかの視点からの発想ができにくくなることに34歳の若き金正日は気づいていたのでしょうか。

そうであったなら金正日は「英明」だったと言えるでしょう。限りなく狡猾な人物だったということです。この類の人心管理手法は中国や朝鮮の王朝の伝統的手法なのでしょうか。

他の視点からの思考ができなければ、自分の言動には選択肢があることがわからなくなります。奴隷には言動の選択肢など不要です。朝鮮王朝には奴隷がいました。

朝鮮王朝による奴隷管理と、北朝鮮当局による人民支配の仕組みには共通性がありそうです。金日成、金正日に対する周囲の人々の接し方は、朝鮮王朝の伝統なのでしょう。

「祖国の社会主義建設に物質的に貢献すること」―朝銀信用組合の資金を「統一工作に利用しよう」-


金正日の指示書の中の六財政事業に、「祖国の社会主義建設に物質的に貢献すること」があります。

張明秀氏は1975年から2年間、在日本朝鮮人総連合会の経済局に所属していました(同書p184)。

張氏によれば、当時の経済局長の崔ビョンジョが朝銀信用組合の莫大な資金を統一工作に利用しようといいだしたそうです。

張氏によれば、在日本朝鮮人総連合会の経済局が朝銀信用組合を掌握していました。信用組合の資金を統一工作に利用するということは、信用組合から借り入れをするということでしょうか。

「統一工作」は利潤を生む活動ではありませんから、借り入れた額は返済されないでしょう。多額の借り入れの際には何かの担保を出さねばならなかったでしょう。

借金を返済できないとき、担保物件は接収されます。これは民族差別ではありません。

在日本朝鮮人総連合会は借金を返すべきだ


朝銀信用組合が残した不良債権を整理する日本の機関が、在日本朝鮮人総連合会中央の建物等を接収するのは当たり前です。

借り入れ主体が事実上、在日本朝鮮人総連合会中央だったのですから。

在日本朝鮮人総連合会がこれに不満なら、借金を返せば良いのです。

借金を返さずに「民族差別だ」などと宣伝しているのですから、在日本朝鮮人総連合会は「在日朝鮮人は借金を返さなくてよいのだ」という「在日特権」を主張していることになります。

在日本朝鮮人総連合会の建物や土地が競売にかけられた背景として私は「統一工作」と「祖国の社会主義建設に物質的に貢献」をあげておきたい。

この件については、元朝鮮総連中央本部財政局副局長の韓光ヒ氏の著作「わが朝鮮総連の罪と罰」(文芸春秋刊行、2002年)が良い文献です。

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