2022年4月10日日曜日

続々・鈴木元「ポスト資本主義のために マルクスを乗り越える」(かもがわ出版)より思うー鈴木元さんは、マルクスの資本主義的搾取制度廃止論には無理があるとみるー

 鈴木元さんは昭和35年の安保闘争に、高校一年生で参加したそうです(同書p1)。60年以上、共産主義運動に参加されてきた方です。

そんな方が、この本の「はじめに」でマルクスが説いた共産主義理論の放棄を訴えています(同書pp10ー11)。

鈴木元さんによれば、マルクスの共産主義理論の主要命題は次の三つです。

①国家権力を労働者階級が掌握し、その力で生産手段の資本主義的所有を改め公有化し搾取を無くす。

②国家による計画経済によって無駄を省き、生産力を高め国民を豊かにする.

③そして階級と国家を廃止する。

以下、「はじめに」にある鈴木元さんの主張を簡単に紹介します。

生産手段の資本主義的私有を廃止する事は無理がある(同書p11)

マルクス・レーニン主義を導きの糸としたソ連は崩壊し、資本主義国家となった。

中国は資本主義制度を導入したことにより躍進した。

いずれでも階級は復活し、国家が肥大化し抑圧体制が強化された。

マルクスの共産主義社会理論はキリスト教の千年王国やヘーゲルの自由の王国と同様の観念的最終理想社会論、空想的ユートピア論である。

日本共産党はマルクスが説いた共産主義社会論を目標とすべきではない。

生産手段の資本主義的私有を無くす、階級を無くし国家を廃止するのは無理がある。

計画経済による資源の効率的配分が実現不可能なら、労働時間の短縮などできない

私見では、鈴木元さんがまとめたマルクス理論の主要三命題のうち、①が最重要命題です。

①が実現できないなら、②③が実現できるはずがない。

生産手段の公有化で搾取を無くすとは、ソ連型の計画経済そのものです。

計画経済により、財が人々の必要に応じて配分されるから労働者は余計な労働をしなくてもよくなり、労働時間が短縮されるという話になっていました。

今でも志位さんは、社会主義になれば労働時間が短縮できると宣伝しています。

現実には、そんな計画経済は実現不可能でした。

市場経済なら、株式会社と金融資産市場が存在するから搾取制度を廃止できない

市場経済では、株式会社が存在します。株主は利潤の一部を配当所得として得ますから、搾取者です。

資本主義的搾取制度を廃止するなら、株式会社制度を廃止せねばならない。株式会社なき市場経済では、江戸時代の江戸や大阪のような水準の市場経済になってしまいます。

日本共産党を支持するマルクス主義経済学者は、株式会社制度を廃止して現代経済が存続できると本気で考えているのでしょうか。

株式会社制度を廃止したら、日経平均株価暴落どころか日本で株式会社がなくなるのですから、殆どの会社は倒産します。大量失業です。

金融資産市場が存在すれば、利子所得や金融資産価格の値上がりによる所得が存在します。これらも搾取です。

金融資産市場を廃止したら、金融機関は全部倒産します。

生産手段の社会化、など空理空論でしかないのです。

ソ連の崩壊、中国の躍進はマルクス・レーニン主義の破綻

不破さん、志位さんと異なり鈴木元さんは、ソ連の崩壊をマルクス・レーニン主義の破綻であると示唆しています(同書p10)。

鈴木元さんなら、宮本顕治さんの「日本革命の展望」や昔の論文に出ているソ連礼賛を良く御存知なのでしょう。

鈴木元さんがそれでも社会主義を目指すならば、マルクス、エンゲルスの社会主義論を最も早くから批判していたベルンシュタインの社会主義論を再評価すべきではないでしょうか。




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