張成澤処刑の背景について、異なる分析、視点の存在を北朝鮮の人々に知らせて「主体革命偉業」を終焉させよう!
張成澤処刑について、様々な情報が流れています。
私はAERA12月23日号掲載の小北清人記者による記事と、張真ソン氏の「インサイド北朝鮮」(産経新聞12月28日)は異なる分析をしていますが、注目に値する情報を含んでいると思いました。
張真ソン氏の「インサイド北朝鮮」(産経新聞12月28日)は朝鮮労働党組織指導部の機能について詳述しています。
AERA記事は主に、かつて張成澤のもとで工作活動に従事したAという別の国に住む人物の情報に依拠しています。
私たちにとって、ある事柄がなぜ生じたかをめぐって様々な解釈が存在しうるのは当然なのですが、「主体革命偉業」のもとでは唯一の解釈しかありません。
様々な解釈、分析の仕方があるのだということを北朝鮮の人々に知らせることは、「主体革命偉業」を終焉させる一つの方法です。
以下、張成澤処刑について注目すべき点を列挙しておきます。
朝鮮労働党組織指導部の頂点は金慶喜(敬姫?)なのか
AERA記事の注目すべき第一の点は、朝鮮労働党の組織指導部の現在の頂点が、金正日の妹金慶喜(敬姫?)であるという情報です。
記事にあるように、組織指導部は党や軍の人事を扱う部署ですからかなりの権限を持っています。金正日が存命中は、本人が掌握していたはずです。
いつの間にか妹が掌握していたのでしょうか。病状との関係で、そんなことができていたのか疑問です。
張真ソン氏は、現在の労働党組織指導部の権力序列第一位は総括第一副部長の金慶玉という人物であると指摘しています。
5つの重大権限を保持する朝鮮労働党組織指導部
張真ソン氏によれば、組織指導部は次の5つの権限を持っています。
第一は、上位の権力層に対する人事権。
第二は、行政業務に深く関与できる生活指導課の権限。北朝鮮では全党員と勤労者が毎週「生活総和」を行いますが、これを統括する生活指導下は組織指導部の傘下です。
第三は、誰であっても解任、粛清できる検閲権。
第四は、北朝鮮のすべての権力機関の政策を承認する権限。
第五は、金日成、金正日の警護に関する権限。さらに、組織指導部は首領の私生活に必要な物資の補充も独占しているそうです。
黄長ヨップ氏は、労働党中央内の序列は組織部、宣伝部、国際部の順であると述べています(「金正日への宣戦布告」文春文庫p229、2001年)。
組織部長と組織秘書は金正日が直接担当しているとあります(同書p229)。
張成澤粛清に最も「貢献」したのは労働党組織指導部と国家安全保衛部なのか?
AERA記事は、張成澤粛清に最も「貢献」したのは組織指導部と国家安全保衛部であると述べていますが、国家安全保衛部には張成澤がかなりの人脈を築いていたはずなのです。
12月13日の「朝鮮中央通信」にも、それを示唆する記述があります。
AERA記事によれば、国家安全保衛部長が張成澤の長年の腹心であるが、その人物が裏切ったと述べています。金元弘のことなのでしょうか。
張成澤は保衛司令部により逮捕されたという記事も韓国報道にあったように思います。
組織指導部と張成澤が掌握する行政部の対立
張真ソン氏によれば、2007年金正日は国家安全保衛部を除く司法権限を持つ行政部を、組織指導部から切り離して張成澤に与えました。
張成澤の行政部と、組織指導部が対立するいうになりました。李済剛組織指導部第一副部長は2010年、平壌と元山間の高速道路で謎の交通事故死を遂げています。
国家安全保衛部の柳敬副部長は2011年1月、スパイ疑惑で処刑されました。日朝平壌宣言の北朝鮮側の実務担当者はこの人のようです。
いずれの事件も、張成澤の関与が疑われたと張真ソン氏は述べます。力を失っていった組織指導部は、軍部と野合していきました。
張真ソン氏は、組織指導部が張成澤処刑を主導したと述べています。張真ソン氏は、利権争いについてはこの記事では特に述べていません。
朝鮮日報のサイトにある「TV朝鮮」によれば、張成澤処刑後、呉克烈国防委員会副委員長が姿をよく見せるようになっています。軍部が復権してきたのかもしれません。
金正日のための外貨獲得機関39号室(38号室という部署もある)
AERA記事の注目すべき第二の点は、朝鮮労働党38号室という裏資金の調達、管理、運用を担う組織が廃止され、「第三経済委員会」という新たな機関が設立されていたという情報です。
「第三経済委員会」という組織は初耳です。他のメディアには出ていないように思います。
私が脱北者から伺っていたのは、38ではなく39号室です。39号室といえば、脱北者のほとんどは直ぐに「外貨稼ぎ」を命令する部署だとわかります。
39という番号ですが、3号庁舎の9号室という意味であると聞いたように思います。3号庁舎とは、朝鮮労働党の諜報機関の執務室がある建物のことです。
北朝鮮の庶民は、労働党の指令で「外貨稼ぎ」をやらされます。
庶民は外国に行くことなどできませんから、外貨に該当する物資の調達を義務付けられるのです。
私は砂金採取や、川に潜って貝を採ってくること、松茸採取などをやらされたという話を伺っています。各地に39号室の機関があり、そこに採取物を持参せねばなりません。
砂金、貝、松茸それぞれに外貨ならいくら相当という価格が決まっており、住民に外貨獲得・献上目標がだされます。
私は38、39号室を金正日死後、誰が掌握するのかが重要だと思っていました。恐らく、張成澤が掌握していくと予想していました。
AERA記事によれば、「第三経済委員会」を労働党行政部が実質的に支配するようになりました。張成澤の支配が及ぶようになったのでしょう。
北朝鮮でも暴力団でも、金が誰のもとにどこから入り、誰がどのように使っていくかを観察することにより、隠匿された組織の実態が見えてくるのではないでしょうか。
張成澤による政府重視策と李英ホ人民軍総参謀長の解任-
AERA記事によれば、労働党行政部は軍が独占的に所有していた鉱山や貿易会社が次から次へと政府に移管させ、実質的に支配するようになりました。
労働党行政部は旅券発行の承認権、携帯電話事業、外国の投資を呼び込む経済グループ設立までやるようになり、軍や労働党の利権を一手に握るようになりました。
人民軍の利権が取り上げられたのを怒ったのが李英ホ人民軍総参謀長でした。李英ホは昨年7月解任されましたが、これには張成澤が深く関与したそうです。
張成澤は軍から政府に利権事業を移管させていた、という点は、朝鮮中央通信の記述とも符号しています。
また金正日の晩年以後、どういうわけか崔永林首相が頻繁に「現地了解」という現地指導のようなことをやるようになっていました。
崔永林首相が実力者だ、などという話は聞いたことはありません。北朝鮮では、金日成、金正日、金正恩以外「現地指導」はできないはずです。
北朝鮮では、政府部門は資材獲得競争で人民軍や金正日の直轄部門より弱い立場にあるというのが脱北者のほぼ共通する認識です。
崔永林首相は、ポーランド映画「金日成のパレード」で、金正日を称える歌を涙を流しながら歌っていました。
「あーあーあー、親愛なる指導者同志」とかいう歌詞です。
崔永林首相が現地指導らしきものをなぜするのかと思っていましたが、張成澤が裏にいたのかもしれません。崔永林首相は中国訪問もしました。
崔永林首相は4月に首相から退いていました。
日本政府の北朝鮮向けラジオ放送への提案-徹底的に思想攻撃をやるべきだ-
張成澤がなぜ処刑されたのか?という件は、北朝鮮の高位幹部は勿論、庶民も関心を持っているはずです。
背後に利権争いがあったのか。労働党組織指導部と行政部の争いがあったのか。これらはお互いに矛盾する見解ではありません。
政府は、張成澤処刑の背景にこういう事情があるのだという説をそれぞれ、北朝鮮向けのラジオ放送で流したらどうでしょうか。
労働党組織指導部の業務と権限など、庶民は知らないはずです。3号庁舎という語は庶民には知られていないはずです。
ある事柄をめぐって外部世界ではいろいろな説があり、各人がそれらについて自分の見解を述べるのだというだけでも。北朝鮮の庶民には新鮮なものです。
李済剛組織指導部第一副部長の謎の死亡や、国家安全保衛部の柳敬副部長の処刑についても「そういう説があります」という情報としてラジオで流したらどうでしょうか。
中国朝鮮族も容易に聴取できるようにすれば、北朝鮮内部に確実に情報が流れます。
北朝鮮の庶民に、当局が宣伝する以外の解釈、視点があるのだ、ということをいろいろなやり方で示すことも、思想攻撃なのです。
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