2013年12月27日金曜日

北朝鮮と暴力団研究についての覚書-金の流れと誘因形成(忠誠心の育成方式)に着目する-

被拉致日本人救出のための北朝鮮研究には、聞き取り調査の積み重ねが必須だ


被拉致日本人救出のためには、北朝鮮の体制を可能な限り正確に把握し、弱点をつかねばなりません。

北朝鮮の実態、特に上層部の動向を正確に認識することは困難です。

公の文献としては労働新聞や朝鮮中央通信があります。金日成、金正日の著作も参考になります。

金日成の昔の著作集と今のそれを比較すれば、北朝鮮当局が自分たちをどのように宣伝してきたかの変遷がわかります。これについては、本ブログの別のところで論じています。

金日成、金正日の屍体が安置されている宮殿や各地の軍隊を金正恩が訪問する際、誰が同行していたかということで、多少の情報を得られます。しかしこれらだけでは不十分です。

私たちは脱北者がもたらす情報に主に頼るしかありません。あるいは、在日本朝鮮人総連合会の幹部なら、訪朝時に多少の情報を得ることができます。

故佐藤勝己氏は、在日本朝鮮人総連合会の大幹部から情報を得ていたようです。私はこれを御本人から伺ったわけではありませんが、著作や論考からそれを推測できます。

私も、在日本朝鮮人総連合会の元活動家、元教員あるいは朝鮮総連系の人々から成る非公然組織に所属していた方などからいろいろお話を伺ってきました。

脱北者や在日本朝鮮人総連合会元幹部の手記は大変参考になります。韓光煕「わが朝鮮総連の罪と罰」(文藝春秋2002年刊行)はその一つです。

脱北者や在日本朝鮮人総連合会元幹部には記憶違いもあります。脱北者の場合、意識的にあることを大きく言うこともあるでしょう。

それを考慮しつつ、暗中模索で北朝鮮の上層部の動向や実態を一つ一つ検討していかねばなりません。


韓国の北朝鮮情報も多くは脱北者に依拠している



韓国の新聞「朝鮮日報」には、脱北者がもたらす北朝鮮内部情報がよく掲載されています。「朝鮮日報」のサイトに、「TV朝鮮」というコーナーがあり、貴重な情報を提供しています。

韓国には脱北者が運営しているサイトがあり、大変参考になります。「自由北朝鮮放送」「開かれた北朝鮮放送」を私は時折見ています。

北朝鮮問題の研究機関「民族統一研究院」のサイトにも、資料がよく整理されて掲載されています。

韓国での北朝鮮情報の多くは、脱北者がもたらしています。脱北者の中には、北朝鮮に残っている親族や友人と連絡を取ることができている人もいますから、内部情報が入手可能なのです。

北朝鮮の内部情報では、石丸次郎氏の協力者による報告が貴重です。それらは雑誌「イムジンガン」に掲載されています。

ある事柄を記述する際、最後には勘に頼ることになってしまうことも少なくないでしょう。

同様のことは、歴史学や社会学、あるいは労働経済学などの分野でも多々あるはずです。

北朝鮮を研究する方で、脱北者の話を一切聞かず北朝鮮の公式文献や北朝鮮当局のインタビューだけに依拠して論文を書いている方がいます。

そういう方の論文は、結局北朝鮮当局にとって都合の良い点だけを見ることになりますから、北朝鮮の実態を深くえぐり出すことにはなりません。


聞き取り調査による技能の内実解明-小池和男他「もの造りの技能」の視点-



技術進歩が経済の長期的成長の重要な決定要因の一つであることは疑いないことですが、では技術、技能とはそれぞれの産業でどのように形成、継承されているのか。

技能の内実は一体何なのか。

小池和男他「もの造りの技能 自動車産業の職場で」(東洋経済2001年刊行)は、自動車産業における技能の内容について、聞き取り調査を重ねた結果をまとめています。


「技能の内容の解明には、職場のベテランにじっくりと話を聞くほかない。もちろん、ていねいに観察するし文書資料もあつめるが、それだけでは技能の内容なしばしばわからない」(同書p4)


この視点は、多くの北朝鮮研究者がとってきたそれと基本的に同じです。

 

暴力団と地下経済社会の実態を知るために



暴力団と、地下社会経済の実態を知るために、暴力団関係者の聞き取り調査をやるジャーナリストがいます。

これは様々な危険が伴われますから、私にはとても真似ができません。

私は、暴力団関係者の手記を読むことにより聞き取り調査のかわりにしています。

どんな経緯でその人は暴力団員となり、裏社会、地下社会経済で生きるようになったのかに留意するようにしています。

遠藤周作が言うように、誰しも心中に黒い自分を持っています。

心中の黒い自分が、何かのきっかけで徐々に蓄積、肥大化していくと、悪事をなんとも思わない自分ができてしまうのでしょう。

生来凶悪な人間は稀有でしょう。金日成、金正日のような大量殺戮を断行した人物でさえ、生来の悪人ではなかったはずです。

中保喜代春「ヒットマン 獄中の父からいとしいわが子へ」(講談社文庫)は山口組若頭、宅見勝宅見組組長射殺グループの一員による手記で、著者は服役中です。

この本は、1997年8月28日の宅見勝射殺事件を実行犯の眼から詳細に描き出しています。山口組の若頭殺害を傘下の中野会がどのように計画し、実行するに至ったかがよくわかります。

暴力団が性産業と密接に関係していることもこの本によりよくわかります。性産業の売上や利益を税務署は把握しにくいですから、裏金が発生しやすいのです。


金の流れを追うことにより、社会と組織の実態がつかめてくる



北朝鮮や暴力団の場合、金の流れをおうことが実態を把握するうえで特に大事です。

暴力団を経営するには相当な資金が必要です。金王朝も同様です。

北芝健「誰も知らない暴力団の経営学」(日文新書)は、第3章「暴力団のマネー学」と第4章「暴力団の企業経営」が貴重な情報をいくつも提供してくれています。

この本によれば、「守り代」とも別称される「ミカジメ料」は暴力団の「基幹産業」です。

ミカジメ料は風俗店、ストリップ小屋、アダルトビデオやグッズの販売店、雀荘、パチンコ点、ゲームセンターなどから徴収するのが一般的だそうです。

ミカジメ料は新宿や池袋などで月額数万円から数十万円とあります(同書p134)。ソープランドなどでは数百万円というケースもあるそうです。

最近では、現金授受だけでなく観葉植物や絵画、装飾品、玄関マットのリース料、おしぼりや氷、トイレットペーパー、芳香剤の卸売でミカジメ料を徴収するのが主流となっているそうです(同書p134)。

本ブログの別のところで紹介したように、暴力団は密接な関係にある右翼団体による街頭宣伝活動や言論活動も、様々な経路で暴力団の資金源になっているのでしょう。



企業恐喝を生業とする「総会屋」の今日の姿-企業批判記事を掲載する雑誌発行で定期購読料、広告料収入を得る-



総会屋とは、株主総会で企業側のサクラとして参加し、「異議なし」「賛成」などと叫んで株主の不満を封じ込める「与党総会屋」と、

不測発言や企業のスキャンダルとなる質問を浴びせる「野党総会屋」があります(同書p145-146)。

企業の批判記事を掲載する雑誌を発行し、定期購読料や広告掲載の名目で利益を得ようとする通称「雑誌屋」「新聞屋」「通信屋」も、総会屋の一種です(同書p146)。

パソコンの進歩により、雑誌や新聞の発行はさほど難しくありません。ブログに企業批判を書いて、広告掲載の名目で利益を得ている場合もあるかもしれません。



暴力団社会の「上納金」と北朝鮮社会の「外貨稼ぎ」




暴力団社会では上納金と呼ばれる、一種の会費を本部に納める制度があります(同書p120)。

バブル絶頂期の頃は、大手暴力団の構成員であれば、若くても月額八十万円ほどを上納していたそうです(同書p120)。

上納金を納めれば、反対給付として組織の看板と安全保障を得られます(同書p121)。「上納金」は、北朝鮮当局が住民に課す「外貨稼ぎ」と似ています。

ある指定暴力団は、末端構成員の上納額が月30万円だそうです。構成員が1万人いれば、月に30億円になります(同書p122)。


部下が仕事にやりがいと見通しを持てるよう、学習による洗脳や儀式を行う-忠誠心育成のために-



金が得られるというだけでは人は動きません。暴力団も北朝鮮も、様々な手法で得た金は上層部に上納せねばなりません。

沢山の上納をすることが、栄えある行為であり何らかの形で自分の利益や栄達に通じるという見通しができなければ、仕事を怠けてしまいます。

組織の上の人間は、部下が仕事にやりがいを見出させるように仕向けねばならない。

北朝鮮では主体思想学習を全国民に強制しています。

「最高存在」すなわち金正日や金正恩への忠誠心ある言動こそが栄えある行為であるという道徳心、価値基準を国民に普及しています。

北朝鮮当局は金日成、金正日への仰々しい礼賛を常に住民に流布することにより、当局が示す以外の生き方はないというように思い込ませ、住民に仕事への誘因を与えているのです。

当局が示す以外の生き方を選択するということは事実上、脱北か政治犯収容所送りを意味します。

暴力団社会ならこれらは、親分からの「破門」に該当するのでしょう。組から破門されれば、○○組というブランドを使用できなくなりますから、庶民の脅迫が困難になります。

暴力団の場合、盃事による親子の縁づくりの儀式を行って、部下の忠誠心を醸成しているのでしょう。

上納に励めば、自分もいずれは組の中で出世し、いつかは自分の組織を持てるかもしれません。


全体主義社会にも抜け穴-副業に精を出す人が増えている



北朝鮮の公式文献だけを見ると、全国民が「最高存在」への忠誠心を常に燃え上がらせているように思えてしまいますが、現実はそれほど単純ではありません。

深く信頼できる友人同士で、金正日の悪口をいう人は存在します。しかし、金日成を否定することは北朝鮮で生まれた人にはかなり難しいようです。

北の体制を友人間で批判する人でも、金日成までは批判できないことが多いようです。また、日本から北にわたってきた元在日朝鮮人を嫌がる傾向があります。

元在日朝鮮人は朝鮮語が流暢ではありませんし、物事に対する考え方、感じ方がかなり異なっていますから、馴染みにくいのでしょう。

元在日朝鮮人のあいだでは、北朝鮮生まれの人たちを「原住民」「アパッチ」などと呼び、蔑むことが少なくありません。

近年では、工場が資材不足や機械の故障などにより稼働率が落ちていますから、配給が滞っている地域は少なくありません。

配給がなくなれば餓死してしまいますから、人々は何らかの副業に励むしかありません。これは農業もあれば、闇で得た物資を他の地域に持って行って売りさばく場合もあるでしょう。

密造酒作りに励む人もいるようです。労働時間の多くを、副業に使う人は少なくないでしょう。北朝鮮ほどの全体主義社会にも、様々な抜け穴はあるのです。

暴力団の構成員が何らかの正業を持ちたがることが多いのですが、これと北朝鮮社会における副業従事者の増加とは異なる現象です。

暴力団の構成員は生きるか死ぬかのギリギリの選択により正業をもっているのではありません。暴力団の構成員であることを隠蔽しつつ、正業でも金を稼いで上層部に上納するためでしょう。

暴力団対策法の影響で構成員であることがかなり不利になっていますから、足を洗ったふりをして密接な関係にある右翼団体に所属を変える場合もあるようです。


北朝鮮経済はこの十数年で、中国依存が飛躍的に高まった



北朝鮮、暴力団には、正確な統計が殆ど存在しません。中国の地下経済についても同様です。

経済活動の大きさがよくわからないと、ある事柄の実態を過小ないしは誇大評価をしてしまいがちですが、それを十分留意して検討していかねばならないのでしょう。

北朝鮮経済がこの十数年で、中国依存を飛躍的に高めたことは間違いないでしょう。

韓国統計庁の「2013 北韓の重要統計指標」p83に、北朝鮮の「主要国別交易比重変化推移」という表が出ています。

中国の交易額(単位は百万ドル)と比重は次になっています。交易額とは、輸出+輸入です。

年       2008        2009      2010        2011    2012
交易額    2787        2681      3466        5629    6013
占有率    73.0          78.5       83.0         88.6     88.3

この統計は、暴力団との覚せい剤取引を含んでいません。北朝鮮当局による中国での外貨稼ぎも含んでいないはずです。

いわば、暴力団の正業収入と支出の部分だけの統計のようなものですが、それでも参考になります。

中国との交易額を輸出と輸入で見ると、次になっています(同書p82、単位は百万ドル)。

年     2008        2009     2010    2011   2012
輸出     754         793     1188    2464    2485
輸入    2033       1888    2278    3165    3528

北朝鮮の貿易赤字が継続しています。原油の他に、何を買っているのでしょうか。食糧を買っているのかもしれません。

この統計によれば北朝鮮は昨年、中国から35億2800万ドル相当の物資を輸入し、24億8500万ドル輸出しています。

交易額の占有率が昨年は88.3%ですから、北朝鮮は極端な中国依存国と言えます。

北朝鮮の輸出品目のうち、昨年最も多いのは「鉱物性燃料、鉱物類」で、12億4468万3000ドルとなっています(同書p79)。

これの全部が中国向けとは限りません。北朝鮮は石炭や鉄鉱石を中国に輸出しています。


前途多難な北朝鮮の交易担当高位幹部-中国企業が北朝鮮に有利な契約改訂に応じるだろうか-



中国と北朝鮮の経済格差を考えると、北朝鮮国内の闇市場では中国の人民元が広範に流通していてもおかしくないように私には思えます。

隣接した途上国間で経済格差がある場合、豊かな国の通貨が貧しい国で広範に流通することが時折観察されます。

中国との交易を主に仕切っていたのが、私の理解では張成澤です。

張成澤のやり方がまずいということで処刑されてしまったのですから、これから中国と物資の売買をする北朝鮮の担当者は、契約条件を北朝鮮に有利にするよう、交渉せねばなりません。

中国企業が簡単にそんな契約改訂に応じるとは思えません。契約改訂が思うように行かなければ、三代目への忠誠心を疑われてしまいます。

交易を担当する北朝鮮の高位幹部の前途は多難です。収容所行きが待っていることを心中で意識しつつ、中国企業との交渉をせねばならないのです。

金のやりくりができなくなった暴力団員は組から破門されることが少なくないのでしょう。全体主義社会から、落ちこぼれる人は常にいるものなのです。



北朝鮮の弱点は中国依存症だ!中国滞在の高位幹部の忠誠心を弱体化させるべきだ




日本政府は北朝鮮へのラジオ放送の出力を強めるなどして、思想攻撃を強化し中国滞在の高位幹部の忠誠心を弱体化させるべきです。

思想攻撃の中身としては、金日成神話の虚妄性をを古い金日成著作集と新しいそれの比較で暴くことが考えられます。

金正日の女性関係の暴露も有効です。不貞関係を持っていたのは張成澤だけではありません。




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